昼休みの誘惑
昼休み、1人で昼食をとろうとしていたら、比奈森さんがやってきた。
「部室で食べませんか?」
「それは構わないけど……」
お昼を女の子に誘われる。
その事実だけで舞い上がりそうな僕は、広げかけたパンを袋に戻して慌てて立ち上がった。
「やぁ、同志。よくきたな!」
「ですよね〜」
「ん、どうかしたか?」
比奈森さんからの突然の誘いは、高島からのものでもあった。
「比奈森女史を怒らせた件について、同志西藤にも面倒をかけたからな」
「仲直りできたんだって?」
「うむ、吾輩も少し意固地になっておった部分もあったからな。ちゃんと作品を見て判断するようにした」
「詳しい話は比奈森さんから聞いたよ」
二人の仲違いが無事に解決したのはいいのだが、少し仲良くなり過ぎじゃないかと嫉妬してしまう自分に腹が立つ。
「まあ、同志にも迷惑を掛けたゆえ、詫びの品をな」
そう言って取り出したのは弁当箱。
「うむ、普段から購買のパンで過ごしているのだろう?」
「それはそうだけど……」
「栄養が偏ってしまうのは、特に成長期には良くない。ちゃんとバランス良く食べる方がよい」
そう言って開かれた弁当箱には、確かにバランスの取れてそうな彩り鮮やかなおかずが並んでいた。
アスパラの肉巻きや人参のソテー。ポテトサラダに、厚揚げの煮物。学生の弁当の割には、肉類が少ない。
「さあ、食べるが良い」
「でも、パンもあるし」
「それは我輩がいただこう」
そういって返答も待たずに、僕が手に持っていた袋をかっさらう。
仕方なく僕は弁当に向き合うが、確かにコンビニ弁当なんかとは違う手作りのソレは魅力的に思えた。
「じゃあ遠慮なく食べさせてもらうよ」
比奈森さんと3人、少し熱気はあるが静かな部室でご飯を食べる。
PCを起動して、録画してあったのだろう『電脳使徒』を再生しながらだ。
スマホと違って画面が大きい。
「スパイウェアか」
「昨今でもこの手の悪意あるソフトは、はびこっておるようだな」
電脳使徒は、ネットワーク犯罪を捜査する組織の物語。この回の話は、スマホに仕組まれたスパイウェアを軸に物語が進んでいる。
スパイウェアとは、アプリなどに忍ばせて端末を感染させ、その端末の情報や操作を他人に筒抜けにさせるソフトだ。
銀行の暗証番号やパスワードなどを盗まれて、被害にあうケースはかなり報告されている。
「これって個人のメールなんかも筒抜けになるよね」
「ふむ。例の混信メールか」
「混信メール?」
そういえば比奈森さんには話してなかったか。僕のスマホに送られてくるメールの話を簡単に伝える。
「その内容がね。最近、下校時につけられてるとかになってて」
「それって危ないんじゃ」
「事件の臭いがするのである」
「メールの主は、多分クラスメイトの佐益さん」
「あの人、凄く綺麗だしね」
「ふむ、見かけたことはあるな。確かに綺麗である」
比奈森さんはもちろん、高島も知っているようだ。
「ただ彼女は友達も多いし、改めて僕が何かをする必要もないかなって」
「いやいや、これこそ電情研の案件であろう。このメールがスパイウェアによって発信されている情報だとすれば、電子情報の悪用。我らとしてはそれらの犯罪を暴き、抑止する為に動かねば!」
「まだスパイウェアと決まったわけでもないし……」
「何を言う。一週間も放置されてプロバイダ側の問題でないのは分かるだろう。となると何らかの悪意が働いている可能性は高い」
「だからってどうするんだよ。スパイウェアの送信先を割り出して、逆ハックするようなスーパーハッカーの知り合いでもいるのか?」
「流石に我が同志には……しかし、この送信先。前半はIPアドレスで、後半が固有番号だろう。となれば、犯人はすぐ近くに」
「まあ、佐益さんもクラスメイトかもと言ってたけど」
「佐益女史は犯人を見ているのか?」
「顔までは分かってないよ」
「でもクラスメイトと判断する何かがあったのだろう?」
「そう言われてみれば、そうだな。僕の事を疑った多邑さんにもその場で否定していたし」
「もしかすると、佐益女史は犯人に目星がついておるのではないか?」




