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授業がはじまり

 授業中も意識して佐益さんを観察するようになっていた。それからクラス全体も見ていく。

 彼女と思われるメールには、ストーカーはクラスメイトかもしれないということだ。

 授業中も彼女に意識を向けている可能性は高い。

 僕の席は真ん中からやや後ろの廊下側。佐伯さんはだいたい真ん中あたりの席になる。

 ちなみに比奈森さんは、僕より一つ後ろの列の窓際だ。


 授業中の比奈森さんを見ていると、こまめにノートを取っているように見える。

 色々なペンを持ち替えながら、作業を行っていた。

 そんな彼女はクラスの真ん中。

 教師に向ける視線の多くが、そこらへんを通っていくので、彼女を見ているかを判断するのは難しい。

 授業中に振り返ってまで彼女を見る生徒はいなかった。いや、正確には窓際の女子が、ちらちらと佐伯さんに視線を送り、それに対して佐伯さんも顔を向けてはいた。

 いつも一緒にいるグループの1人だ。確か多邑たむらさん。

 明るめの茶色に染められた髪には、緩く波打つようにカールされていて、鼻の高い整った顔立ちからハーフかと思う雰囲気がある。

 グループ内でもリーダー格らしく、話の中心に居ることが多い。


 佐益さんの相談相手は彼女かもしれないな。先生の目を盗んで、ジェスチャーを交えて何かを伝えようとしているような、単に笑わせようとしているような。

 少しキツそうなイメージだったが、思ったよりもひょうきんな部分もあるようだ。


 キッ!

 彼女と目が合った途端、凄い眼差しで睨まれた。慌てて黒板へと視線を向ける。

 不用意に視線を向けていたことを咎められるだろうか。

 授業中にあんな派手に動いてたら、気になっても仕方ないじゃないか。もし詰め寄られたらという危惧をシミュレートしながら、残りの授業を過ごしていた。



 休み時間、ビクビクと自分の席で大人しくしていたが、多邑さんからの追求はなかった。

 ほっとしながら次の授業に備える。早く休み時間が終われと思ったのは初めてかもしれない。


 何事もなく2限目に突入。

 そこで気が緩んだのか、視界の隅で動く何かに気を取られ、ふと視線を向けると、頭と顎に手を当てて鼻の下を伸ばした多邑さんと目が合ってしまった。

 猿!?

 猿なの!?

 何の意味があって猿!?

 いや、そんな現実逃避をしている間に、多邑さんの目が釣り上がり、怒りに顔を紅潮させている。

 僕は慌てて教科書に突っ伏す様にして視線を閉ざした。


 だって仕方ないじゃないか。授業中に、猿の真似をしてるのが悪い。

 大きく腕を動かされたら、視界に入っちゃうじゃないか。

 ていうか、僕以外にも皆見てたんじゃないか?

 そうだ。僕だけが目をつけられるはずもない。偶々、偶々だ。

 休み時間になって、詰め寄られる事なんてないはずだ。




「何勝手に見てんのよ!」

「え、いえ、僕は……」

 次の休み時間、しっかりと詰め寄られてしまっていた。


「私は気落ちしてる友達を励ましてあげたかっただけなの。勝手に見てんじゃないわよ」

「み、見てませんから、何も」

「目が合ったわよね!?」

「そんな事、ない、です」

「急に顔をそむけたじゃない」

「その、それは、その……」

「しかも、教科書に顔を隠して、笑ってたでしょ!」

「ち、違う、違うくて」


「ねぇ、ミサキ、こいつじゃないの犯人。捕まえて退学にしましょう」

「違うよ、レイカ。体格が全然ちっこいもの」

「でもチロチロとミサキを見てたのよ、絶対」

「うう〜ん、授業中にあんな面白い事してたら、目が行っちゃうんじゃないかな」

「ええ〜、こいつ、死刑にしようよ」

「というか、レイカ。ああいうのはやめてね。授業中に大笑いしたら、私が困るもの」

「そ、そう?」

「ホント、こらえるの大変だったんだから」

「そっか、良かった」

「心配してくれてありがとね」


 何だか二人で納得してしまい、僕は蚊帳の外に置かれてしまった。

 いや、その方がいいだろう。このまま忘れてもらった方がいい。

 僕は気配を消すように身動きを取らずに時間の経過を待つ。


 キーンコーン、カーンコーン。


 3限目のチャイムがなり、彼女達の会話も止まる。


「もうこっち見んなよ」

 そう言い残し、多邑さんも席に戻っていった。

 僕は意識して彼女の方を見ないように注意する。そのまま昼休みまで過ごした。

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