第五十一花「老人」
華と沈は、共に戦っていた。
藍に言われた時は、どうしようかと悩んでいた。自分達は李様の護衛。他のものに任せて場を離れていいものか、と。
しかし、李様は仰ってくれた。
「藍殿の判断には、必ず理由があるだろう。今できる最善を尽くすこと、……頼むぞ」
そう言われてしまっては、動かない理由などない。
でも、できるだけ早く終わらせて戻りたい。その気持ちは二人とも同じであった。
しかしーー
真っ先に飛び出したものの、苦戦を強いられてるのだ。
二人がかりでやっと相手になっているような感覚さえ覚えている。
その相手はーー
「ふむ……なかなかやりおるのぉ。「紫」以外は警戒しなくていいと聞いておったが、あやつめ、いっつも自分基準で考えおって」
老いぼれた老人。しかし、その姿に似合わない大太刀をいとも軽く振っている。
三メートルはあろうかという大太刀。
そう、華は相性が悪い。近づくことすら困難なのだ。
「華!下がれ!」
沈が叫ぶ。
そして、矢が放たれる。
「音陰」
戦場に、矢が放たれた音が響く。
「むむっ!……っ!」
その音速の矢は老人の首の皮を掠めた。
「なるほどのぅ……面白い技じゃ。矢を放つ音に紛らせ、存在感を無くす矢か。ここまでの弓使いは見たことないわい。世界は広いのぅ」
老人は感心したように話す。
そして、華が沈の横に並ぶ。
「沈!そんな大技使って大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。まだな」
沈 無影。中国最強の異能者の一人。
異能「影冥」を持つ弓使い。
ただ、彼には一つだけ他の異能者に劣っていることがあった。
「ゴホッ!ガハッ」
沈が咳き込む。華が慌てて背中を叩いた。
「ほら!言ったじゃない!」
そう、彼の体は異能に耐えられるように作られていない。
大技を使う度に、体が悲鳴を上げる。
「若僧、しんどそうだな。ワシと真逆、と言ったところか」
老人が声をかけてくる。
華は思った。なぜ言葉が通じるのか、と。
相手は明らかに「日本語」を話している口ぶり。
最初に感じた違和感が大きくなる。
しかし、そんなことを考えている余裕さえ無い。
「ワシは異能持っとらんからのぅ。じゃけど、体だけは強いんじゃ」
老人が大太刀を握り直す。その瞬間、空気が変わる。
華は悟った。今からが、本当の「戦い」なのだと。
「やはり信ずるべきは己が磨きし技!理屈もわからない異能など、結局は当てにならん!」
そして、大太刀を肩に担いだ。
「さぁ、始めようではないか。死のやり取りこそ、技は磨かれる!」
絶望の耐久戦が、幕を開ける。




