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短編①

蓮と紬は愛車のキャンピングカーで旅を続けていた。

高速道路の入口を塞いでいた鎖はすっかりサビつき、三角コーンも壊れて散乱している。封鎖としての役目はとうに失われ、二人の車はためらいなく高速へと入っていった。


一時間ほど走り、人の気配がまったくない道の駅で休憩を取ることにした。


「やっぱり、自動ドアも割れちゃってるね」


店のドアは砕け、土産物の食べ物や飲み物、衣服までごっそり持ち去られている。


「俺から離れるなよ」


紬はぴたりと蓮の横に寄り添う。

安全のためという理由はもちろんだが、それ以上の気持ちもあった。


「あ! 見て!」


紬は落ちていたご当地キーホルダーを二つ拾い上げる。


「これ、洗ったら綺麗になるよ。お揃いにしようよ」


「はぁ? いらないって。キャンピングカーだってスペース限られてるんだ。ゴミは拾わないでくれ」


「えぇー! いいじゃん。蓮ってたまにデリカシーないよね。こういう遊び心がないとつまんないよ」


「遊び心で腹はふくれないからな」


店の裏側に回ると、広い海が一面に広がっていた。

風が頬を撫で、ここがゾンビのいる世界だということを忘れそうになるほど穏やかな景色だった。


「智春にも見せたかったな」


紬がそっとつぶやく。


本部を離れたあと、智春は自宅へ戻っていった。護身術は身につけたから多少の危険なら対処できると。

紬は何度も一緒に旅をしようと誘ったが、智春は「いつでも会えるから」と笑って聞かなかった。


「落ち着いたら、また三人で来よう」


蓮の声は優しく、紬を慰めるようだった。


その時――


ガタッ、と物音がした。

皮膚がただれ、片方の眼を失ったゾンビが建物の影から姿を現す。


「っ……!」


紬は思わず声を上げそうになり、必死に口を押さえた。

蓮は紬をかばうように前へ出る。


ゾンビ避けの匂いを身につけてはいるが、万能ではない。

そっとやり過ごせるよう、二人はその動きを見守った。


ゾンビはふらつく足取りでゆっくりとこちらへ向かってくる。

風に揺れる草の音さえ大きく聞こえるほど、二人は息を潜めた。


蓮は後ろへ下がるよう合図する。

紬はこくりと頷き、蓮の背中に隠れるように一歩ずつ後退した。


ゾンビは二人のほうを向いているようで、しかし焦点の合わない目はどこを見ているのか分からない。残った一つの眼も、もう見えていないのかもしれない。

鼻をひくつかせるような仕草をしたあと、ゆっくりと首を傾けた。


蓮は紬の手を軽く握り、気付かれないよう建物の影へと誘導する。

足音を立てないよう、そっと、そっと。


ゾンビはしばらくその場で立ち止まり、空を見上げるように顔を上げた。

海から吹く風が、ゾンビ避けの匂いを運んでくれているのかもしれない。


やがて、ゾンビは興味を失ったように向きを変え、別の方向へ歩き出した。


二人はその背中が完全に見えなくなるまで動かなかった。


「……行った?」


紬が小声でつぶやく。


蓮は深く息を吐き、紬の頭を軽くぽんと叩いた。


「大丈夫だ。よく我慢したな」


紬はほっと笑うが、その手はまだ震えていた。

慣れたつもりでも、目の前に現れると恐怖はどうしても襲ってくる。


蓮はその手を包み込むように握り、キャンピングカーへ戻った。中から厳重に施錠する。


「こんなに近づいたのは久しぶりだ」


「うん。あのゾンビも海の風を感じてたのかなぁ」


「そのせいで腐敗も早そうだけどな。

このゾンビ避けの匂いも、今は効果があるだけだ。克服するゾンビが出てくる可能性も少なくない。慎重にいこう」


「うん。


そうだ。出発の前に、何か食べない?」


安心した途端、お腹がすいたらしい。


車に積んである備蓄用ドーナツと温かいココアを二人で分けた。


あのゾンビ収集施設には大量の食料が山積みになっており、車に積めるだけ積んだ。配給では手に入らない種類の食べ物も多く、飲み物だけでも緑茶、ココア、コーヒー、紅茶を確保できた。


「甘いって正義だ…!」


紬は満足そうにドーナツを頬張る。


蓮はぱぱっと食べ終え、キャンピングカーの電源を入れた。


「出発するぞ。まだまだ走るからな」


---


必要なら「もっと緊張感を強め

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