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第61話 コトダマの勇者

 



 その少女はぷかぷかと宙に浮いていた。




 

 まるでプールに浮かぶ水風船のように、地上より遥かに高い位置でふわふわと揺らいでいた。


 ゆるふわウェーブのかかった金髪ロングも、空の風にぷかぷかと靡いている。


 服装は上下とも、白い水玉模様が入った薄い桃色のパジャマ。 

 ぱっと見、性格もふわふわしていそうな庇護欲をそそる可愛い顔立ちをしていた。


 見た目は14歳ぐらいに見えるその美少女は、せっかくぐっすり寝ていたのを起こされた直後のように、とても眠そうに青い瞳を細めていた。



「う〜……保養期間じゃないからってコキ使いすぎだよ〜……ねみゅい……」


 パジャマ姿のゆるふわ金髪美少女が眠そうに独り言を言っているその様子は、眼下の地上の様子に全くそぐわなかった。


 地上の荒地は、聖帝国ガルガルシアの魔術師や重装歩兵の軍勢と、魔界の魔族達が率いる魔物の群れ……オークやオーガ主力の大群がぶつかり、人が千切れ弾け飛んで肉片と化し、魔物が次々と刺され斬られ魔力の塵に変わっていっているさなかだった。

 大量の人間の血肉や鎧が地面に転がる。

 死んだ魔物達が魔力の塵と化して空気や地面を黒く汚す。



 ここは大陸の南側。



 聖帝国ガルガルシアと魔界に挟まれ、戦場と化した地域。


 数百年、血で血を洗う戦いが続く場所。 

 そこに命の尊さなど存在しない。




 ──空に浮かぶ金髪美少女の脳内に、地上にいる聖帝国の魔術師からの念話が届く。


(ソラ様!! 来て頂いてありがとうございます! 予想以上の大群に苦戦しております、どうか力をお貸しください!!)

(……勇者も聖兵もいない部隊とはいえさ〜、もうちょい頑張ってよ〜……大体は蹴散らすから、あとはキミたちで何とかしてね?)

(はっ、承知致しました!!)

(……もお〜……)



 ソラは仕方なくといった感じで、空高くから眼下の魔物の大群に目を向けた。



 その魔物の大群の中心。


 鋼鉄で全てが出来ているかのような身長2メートル近くの人型の魔族が、オークやオーガ達に指示を出していた。


 それは鉄の魔族。危険度レベルは6。


 見た目や名前通りの鋼鉄を誇る鉄の魔族。

 もし旧フラーシア王国やベスターメルン帝国がこの魔族を倒したければ、大規模クエストにより100人以上の冒険者や傭兵を集めてどうにか鉄の魔族の動きを抑え、勇者や沢山の大砲による集中火力を何度も叩き込む必要があるだろう。

 たった一体の魔族を倒す為だけに。


 その鉄の魔族が、空に浮かぶ少女・ソラに気づく。



「?」


 ふと、鉄の魔族の周囲を守るオーガ達が、ハテナマークを頭の上に浮かべて鉄の魔族を見る。


 鉄の魔族が、突如ガクッと地に両膝を落としたからだ。



 その表情は、絶望と恐怖に染まっていた。


 そして、体も言葉も恐怖に震わせる。


「…………ばか……な…………コトダマの勇者……な、ぜ……ここに……」



 鉄の魔族は以前、ソラの戦う姿を見た事があった。

 そして、魔界全体でも要警戒対象としてソラは名前と姿がある程度共有されていた。



 だが、人間社会でもそうだが、情報の事前共有や把握が出来ている者ばかりではない。


「オイ!! 空に人間がイルゾ!! 恐らく魔法使いダ、ドレイクども、イケ!! 食い殺セ!!」


 鉄の魔族と違い、その少女の情報が頭に入っていない哀れな竜型の魔族が大声で配下の魔物に指示を出す。


 地上で身を伏せ、オーガ達の群れの中に潜み出番を待っていたヘリコプターほどの大きさがある危険度レベル5の強力な魔物、ブラックドレイク。


 翼をバッと広げた2体が、ソラに向けて一直線に飛び立つ。


 ドレイク2体は共に口を大きく開け牙を剥き出しにし、雄叫びを上げて襲いかかった。




「……『みえないかべ』」




 ソラが、ボソッとそう呟いた。




「ガギッ!?」

「ギギャッ!?」


 ドレイク達は突如として、何も無いように見える空中で、城壁にでもぶつかったかのように姿勢を崩した。

 あまりに予想外だったのだろう、すぐには体勢を立て直せない。


「!? オイ!?」


 地上の竜型の魔族がドレイクの様子に困惑の声を上げる中、またソラが呟く。



「はい、『まるーく串刺し』」

「「!? ギギャッッ……!?!?」」



 ソラが呟いた瞬間だった。


 ドレイク2体を球状に囲むように何も無い空中から、黒く太い串のような何かが数十本発生。

 かと思えばそれは1秒も経たず、槍のように一斉にドレイク達を貫く。

 ドレイク達の驚愕と困惑の表情はすぐに死と共に終わり、ドレイク2体は魔力の塵と化していく。


「!?!!? ナンダ今のハ!!??」

「は〜うざっ。早く終わらせて寝よっ」




 そして次の言葉をソラが言った瞬間。



「『おっきなばくだんのあめ』」



 強いコトダマを使ったことにより。


 ソラを中心に、空が割れた。



 バキッ……。


 ポツ。



「ア?」



 空の割れ目は瞬時に何も無かったかのように元通りになる──のとほぼ同時、魔物の軍勢の上空に、大玉転がしにでも使うのかというサイズの巨大な黒い玉がポツっと生まれた。

 かと思えば2個目。10個目、40個目……!!

 恐ろしい発生速度。

 黒いそれは魔物の軍勢の上空を、ふわふわと波打ちながらも平らに覆い尽くしていく。


「オ、オイ……ナンダ、アレハ……」


 竜型の魔族もその周囲の魔物達も、黒い玉が空を覆い尽くす光景に圧倒されるしかない。

 やがて10秒もたたず千個ほどの黒い玉が空に黒い海を作った後。

 突如ピタッと、黒い玉は波打つのを止めた。



「ソラ様の攻撃だ、総員盾を構えろーー!!!!」


 魔物の軍勢と対峙している聖帝国ガルガルシアの地上軍の前線指揮官の一人がそう叫んだ直後。

 次々と糸が切れたように、黒い玉が雨のように地上の魔物の軍勢へ向けて落下。

 地上は破滅の爆炎と爆風の嵐と化した。 




 ──その少女は、『コトダマの勇者』ソラ。



 聖帝国ガルガルシア所属、序列第5位の勇者。



 すなわち現時点で、聖帝国の聖勇者7人とそれに次ぐ強さの序列1〜4位の勇者の次の位置にいる人間。



 もっと分かりやすく言えば、現時点で人類の中で12番目に強いとされている人間。




 ……やがて地上の爆炎の嵐が収まった頃。


「『煙バイバイ』……あれ? まだ生きてるのがいるぅ……はぁ〜……他の生き物を直接どうこうするコトダマは使えないからこうやって取りこぼすんだよねぇ……」

「う……ぐぅ……!」


 魔物の軍勢はその端のほうや聖帝国の軍勢に近かった者を除き、オークもオーガも、ドレイクも竜型の魔族も消し飛んで塵と化したが、鉄の魔族は全身をひび割れさせながらも生き残っていた。

 ソラは空中から鉄の魔族に近づいていき、その姿を視認する。


「……あれ。キミ、前に仕留め損なった奴だねぇ? あの時は植物の魔族ちゃんに邪魔されちゃったからなぁ……あの魔族ちゃん可愛い見た目なのに馬鹿みたいに強かったなぁ……」


 ソラは以前戦って引き分けた魔族との戦いを思い出した後、ふとその青い目を冷たく細めた。


「──ま、キミはもう逃がさないから」 

「まっ、待っ」

「『サジタリウスの矢』」




 空が、砕ける音がした。



 


 ────




「……ふぁ〜……やっぱり強いコトダマ使っちゃうとすごく眠くなるぅ……」


 ソラは眠そうにあくびをする。


 さっきまで鉄の魔族がいた場所は、先程まで鉄の魔族だった魔力の塵が舞い、地面には斜めから途方もない長さの杭でも刺した後のような、綺麗でまっすぐな、底の見えない穴が開いていた。


 軍勢の大部分と指揮官を失った魔物達は総崩れになり、聖帝国の地上軍が一方的に魔物達を殺し始めていた。


 ソラはむにゃむにゃと先程の聖帝国の魔術師に念話を送る。 


「じゃ、私また寝るから残ったのはよろしく〜」

「承知致しました!!!」

「『おうちテレポート』」


 ソラがそう言った直後、瞬時にソラはその場から消え、遥か遠くの聖帝国ガルガルシア内へテレポートした。

 そこは序列上位の勇者達に与えられた使用人つきの豪華な屋敷、その中のソラの寝室内。



(……またすぐ起こされるんだろうなぁ……あ〜あ……)


 ボフッとソラはベッドに寝転がる。


(……サクラちゃんは保養期間中か〜……いいなぁ〜。しかもまた昇進して序列9位から6位だし……いやそれは休暇明けからだっけ……まあそこはどうでもいいけどスピード出世だなぁ。私抜かされるじゃん……やだぁ休暇減らされるぅ……)


 今はベスターメルン帝国に旅行中の友達、サクラ・キサラギのことを思い浮かべたソラは、『戦闘期間』真っ最中の自身の今の状況と比べてしまい気分が落ち込む。


 そして聖帝国ガルガルシアの勇者は、序列が上がると各種対価も休暇も増え、序列が下がると容赦なく対価も休暇もすぐ減らされる仕組みとなっている。


 聖帝国ガルガルシアでスピード出世を続けているサクラに序列を抜かされ休暇を減らされることを考えると、ソラは憂鬱さがまるで抜けないのだった。


(……まぁ……サクラちゃんに抜かされるのは仕方ないかなぁ……だってあの子……)






(私より強いもん……)



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