表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/42

一章 奴隷生活 02

 女は、有紗を悪趣味な応接室へと連れて行った。


(何これ……)


 個性的な内装に有紗は顔を引きつらせる。

 室内は、色の濃淡の差こそあれど、何もかもがピンクで構成されていた。

 壁際には謎の人物像が設置され、あちこちに貼られたお札のようなものが室内の異様さに拍車をかけている。


 応接室のソファには、軍服姿の初老の男性が座っていた。

 白髪交じりの茶色い髪は綺麗になでつけられており、ピンと伸びた背筋もあいまって硬質な印象を受ける。

 瞳の色は赤紫だ。赤味が随分強いという事は、貴族の中でも偉い人なのかもしれない。

 軍人という単語から想像した姿とは全然違う、紳士然とした格好いいおじさまである。

 そんな人物が、この悪趣味な空間にいる姿はかなりシュールだった。


「お待たせいたしました、バルツァー閣下。彼女がお問い合わせいただきました異世界人のアリサ・タナカです」

「確かに見事な黒い瞳だね。魔力も全くない。これでどうして生きているのか不思議だ……」


 バルツァーと呼ばれた男は立ち上がり、有紗の全身を値踏みするように見つめた。

 そして、手を伸ばすとこちらの顎を無遠慮に掴み、命じる。


「口を開けなさい」


 高圧的な物言いにカチンときたが、逆らえば首が絞まるかもしれない。有紗は大人しく口を開いた。


「健康状態に問題はなさそうだね。元はいい所のご令嬢だったのかな?」

「答えなアリサ。閣下のご質問だよ」


 女に促され、有紗は渋々と口を開いた。


「……特にそういう事はないです。私が住んでいた国は先進国で裕福だったので……」

「ほう、興味深いね。私が二十年ほど前に見たテラ・レイスとは随分と違う」

「テラ・レイス?」

「そちらの世界の人間を表す言葉だよ。大昔こちらにやって来た異世界人が、自分でそう名乗ったのが由来のはずだ」


 テラ――確かラテン語で『地球』を表す言葉だ。レイスは英語の『民族』だろうか。


(アース・レイスじゃ語呂が悪いからテラ・レイスにしたのかな……?)


 有紗は首を傾げた。


「かつて私が見たテラ・レイスは肌も目も黒かった。栄養状態が悪いのか随分と痩せていてね……。国が荒れていて、まともに食べていけないから兵士として働いていたそうだ。まだ年端もいかない少年だったのに」


 有紗は目を丸くした。


「肌が黒い……。少年……?」

「人としての種がもしかして違うのかな? 肌の色だけでなく顔立ちも全く違う」

「その人は今どこにいるんですか? 会えますか?」

「残念ながら亡くなったよ。こちらに来た時には、既に大怪我を負っていてね……手を尽くしたんだが助けられなかった」


 バルツァーの言葉から有紗はアフリカを連想した。


(同じ地球の人だったとしても、日本人とは限らない……?)


 かの地域では、あちこちで内戦や紛争が起こっているとニュースで報じていた気がする。


「どこの国の人かわかりますか……?」

「申し訳ないが覚えていない。気になるなら調べてあげるけど、すぐには無理だ」


 バルツァーの回答に有紗は落胆した。


「テラ・レイスは、男であろうと女であろうと魔力の豊富な王族や貴族にとってはとても価値のある存在だからね。残念だったよ」


 そこには言外に『奴隷として』という但し書きがつくのだろう。有紗はおぞましさに震えた。


「さて、店主、この子はいくらだ。言い値を出そう」

「……五千アルムでいかがでしょう」

「随分ふっかけるね」

「この子は生娘ですし、競りに出せばもっと高騰しますよ。軍との今後のお付き合いを考えての価格設定です」

「なるほどね」


 バルツァーは意味深に笑ってから頷いた。


「わかった。払おう。テラ・レイスにはそれだけの価値がある」

「ありがとうございます」


 商談は成立し、有紗の身柄は彼に引き渡されることになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ