プロローグ 02
(ここ、どこ?)
慌てて飛び起きた有紗は全身を確認した。すると、服がつぎはぎだらけの着古した民族衣装に変わっていた。
生成りのブラウスにコルセットのような形の胴衣とスカートは、見た目は可愛らしいが生地の質が悪く、肌に当たっている部分がちくちくして着心地が悪い。
また、首には金属製の首輪が付けられていた。
「なにこれ……」
有紗は呆然とつぶやく。
「やっと起きたんだね」
声をかけてきたのは、同じ牢の中にいた女の子だった。
「へえ、ホントに異世界人だ。不思議な目の色だね。どうりで奴隷商人共が大はしゃぎする訳だ」
「あの……あなたは? それにここは一体……」
「あたしはウルスラ。テト村の出身だよ。今年はどこも長雨で作物がやられたからね……。口減らしの為に売られちゃった」
あっけらかんと告げられた内容に、有紗は目を見張る。
「売られたのはあんたも一緒だろ? 異世界人なんて希少だからね。捕まえた奴は今頃金貨ザクザクで大笑いだろうさ」
「は……?」
異世界人、希少、売られた……?
有紗の脳裏に浮かんだのは、親切にしてくれた夫婦とペトラの姿だ。
(あの人達が、私を、売った……?)
「異世界人ってのは市民権がない上に、高い魔力持ちのお貴族様にとってあっちの具合が滅茶苦茶いいって噂だからね、高値で売れるのさ」
「うそ……」
ウルスラの説明に有紗は呆然とする。
「嘘じゃないよ。あたしら庶民には関係ない話だけど、貴族ってのは、魔力の性質や量の釣り合いが取れないと、気兼ねなくそういうことが出来ないんだって。異世界人ってのは、理の外にある存在らしくてさ……。男だろうと女だろうと、奴隷としては最高級品なんだ。あんたは綺麗だから、きっと行き先は高級娼館か偉い貴族のとこだろうね。運がよけりゃいい生活が出来るよ。正直羨ましい。あたしは器量もそんなに良くないし魔力も普通だから、労働奴隷にされる可能性が高い」
そう告げると、ウルスラは自嘲めいた笑みを浮かべた。
彼女の顔立ち自体はそう卑下するほど酷くない。しかし、栄養状態が悪いのか、髪はぱさ付いていて、唇から覗く歯は黒ずんでいた。そういう所が、彼女の商品としての価値を下げるのかもしれない。
「私だけ首輪を付けられているのは、高く売れる商品だから?」
ウルスラの首には何もなかったので聞いてみると、彼女は首を横に振った。
「あんたの首に嵌ってるのは隷属の魔術が込められた魔道具だ。ホントは抵抗力の高い貴族に使われるもんだけど、異世界人には魔術が効かないって言うから付けられたんだと思う。普通はこっちだよ」
ウルスラはそう言うと、右手の甲をこちらに見せてきた。
そこには、赤く煌めく刺青のような文様があった。
「奴隷紋って言うんだ。隷属の魔術が込められてる。こいつがある限り主人には逆らえないし自傷も出来ない。あたしらの運命は主人になる奴によって決まる」
「そんな……」
有紗はぺたんと座り込み、呆然とウルスラの顔を見つめた。