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会場から漏れ出る賑やかな談笑の声、煌びやかな光は扉の前に立つ私たちの覚悟を試されているような気がする。ここから先に待ち受けるのは自分たちにとっての決戦の場。相手は絶大な権力を持ち呪いを行使できるほどの実力を持った魔法使いだ。


「・・緊張しているかい?」


隣に立つのは愛する人ではない。自分と目的を同じくする仲間だ。1人ではない事実が勇気を与えてくれる。気遣うように顔を覗き込んだルーカスに笑顔で返した。


「少し。でも平気、覚悟はできているもの」


扉の先に待つ人物に気持ちで負けないようにと気合を入れる。そんな私の顔を見て何を思ったのか、ルーカスはおもむろに私の頬をつねった。


「へ?・・ひ、ひはいんはけほ・・・(い、痛いんだけど)」


突然の行動に戸惑って変な顔をした私に満足したのか、ルーカスはくすりと笑うとすぐに手を離した。


「君の武器は気迫でも、覚悟でもない。人の視線を惹きつける笑顔だよ。それを忘れないで」


ルーカスの言葉でハッとした。


(そうだ・・私の武器は笑顔・・)


身にまとった美しいドレスや装飾品も、綺麗に結われた髪も身に纏っている物は私の鎧だ。今までの令嬢としての自分じゃ足りない。人々の意志と視線を一心に集めて操る待ち望まれた聖女の姿、それが私の演じるべき姿だ。緊張で浅くなってしまった息を思いっきり吐きだしてから深呼吸をした。酸素が身体をめぐって力が抜けていくのがわかる。


「ありがとう。もう大丈夫」


ルーカスの気遣いに微笑みで返すと、満足したらしい彼もまた微笑んだ。


「さぁ、行こうか」


差し出された腕をとるとそれを合図に目の前の扉が開かれる。王族の入場を知らせるラッパが鳴った。

まるで戦いの合図のようなその音に導かれるようにして会場へと足を踏み出した。



わあぁっという歓声とともに拍手に包まれる。ルーカスと合わせて一礼してから会場へと降りる階段をゆっくりと降りる。会場の人々の視線は一心に私たちへと向けられていた。その中には国王の隣で微笑みを浮かべている王妃の姿もある。


ルーカスのエスコートで国王と王妃の前までくると足を止めた。


「静粛に!」


場を治める声で会場が一気に静まり返った。


「皆も知っての通り、長らく失われていた聖女が誕生した!ここにいる彼女、アリス・ルードベルト嬢が今代の聖女であると王の名において宣言する!我が王国は変わらぬ安寧と栄誉を得るだろう!」


国王、アドニスの宣言によって静まり返った会場が先ほどよりもさらに湧いた。


「私、アリス・ルードベルトは聖女としてドラゴンと共にこの国の人々と未来を守ることを宣言いたします」


国王に忠誠を誓うように跪いた。本来なら聖女が国王に膝をつくことはない。身分的には王族と同列に扱われるものだからだ。これはあくまでもパフォーマンス。聖女が国王の下にあると示すことでこの後の要求を聞いてもらいやすくするための。


「稀なる功績を上げた君に褒美をつかわそう。望みをなんだ?」


「・・・・どうか、我が友の罪を再議する機会をお与えください」


慈悲を乞うように切実に訴えかける。願いを口にすると国王は怪訝な顔をする。


「友の罪、だと?・・その者の名は?」


「魔塔主、エゼキエル・ウィンフリードです」


彼の名前を出すと会場は一気に先ほどとは違うざわめきに包まれた。当然だろう。聖女が望む褒美が財宝でも、身分でもなく罪人の罪の洗い直しなのだから。ましてやエゼキエルの罪は決まったようなものだった。国王の隣に立つ王妃の姿をちらりと見上げる。彼女は余裕の笑みを崩さないまま、口を出すことは無かった。どうやら国王の決定を待っているようだ。それが少し不気味だった。


「・・・・いいだろう。再議の日程はまた後日—」


「恐れながら申し上げます。私が望むのは今、この瞬間です」


国王の言葉を遮るのは無礼も承知の上だ。けれど時間の猶予を与えるつもりはなかった。ここで無駄に時間を伸ばしてしまえば、どんな手段に出られてしまうのかはわからなかったから。


「・・・・そこまで言うなら見せてもらおう。聖女の誕生という今日の余興にも相応しい・・・罪人をここへ!」


国王は薄く笑みを浮かべるとまるで試すように私の願いに応えた。




お披露目の舞踏会場は瞬く間に罪人の再議の場に変わった。ここに集まっている貴族たちにも意味がある。彼らは生き証人だ。これから証明される王妃の正体を知った者が不用意に消されたないための。

国王の発言によってエゼキエルが兵に引き連れられてやってくる。この場に連れて来れられたエゼキエルは事前にユーインと入れ替わった紛れもなく本物だ。


「では聖女、魔塔主の無実を示す証拠を見せてもらおうか」


国王の言葉で一歩前に踏み出したのはルーカスだ。


「父上、まずは証言を提示するための証人を呼ぶことをお許しください」


「ルーカス?お前も聖女の同志か・・・いいだろう」


ルーカスが合図をすると私たちが入場してきた扉が開き、1人の青年がゆっくりとその姿を示すように階段を下りて来た。かつての彼女の姿を見たころがある人物ならば、誰もがその存在の意味に気づくだろう。ざわついた人の中には驚きの声を上げる者もいた。


「お久しぶりです、父上」


余裕の笑みをもって王の前で歩みを止めたのは他でもない、正真正銘の第一王子であるヒースクリフだ。国王はその姿を見て目を見張った。


「まさか、ヒースクリフ・・・・生きていたのか・・」


「えぇ、この通り」


久しぶりの親子の対面とは思えないほど短いやり取り。けれど、先代の聖女と瓜二つだという彼の顔を見れば本物かどうかは明らかだろう。聖女を側妃にと迎え入れた国王ならすぐにわかるはずだ。


「会場にいらっしゃる皆様にご説明いたします。彼こそが、側妃であった先代聖女の息子第一王子であったヒースクリフ・フェイ・ティアレインです」


第一王子であるはずのルーカスの言葉がヒースクリフの存在を重くする。ただの平民であった彼の言葉は今や王族に近しい者の言葉に変わる。


「初めに告発します・・・・私の母、先代の聖女であるアマリリス・ティアレインは魔法使いである王妃ローザ・アレクシア・ティアレインの手によって討たれました」


「・・・・・・そのような事実、なぜ今まで隠し今この瞬間に姿を見せた」


驚きとわずかな不快感をもった口調で国王が問い詰める。それもそのはずだ。聖女の本質を示すつもりだった国王の設けたこの場は王族の疑いを示す場となってしまったのだから。


「私の存在は彼女の手によって葬られたからです。亡者の身では何を言っても無駄なこと。だからこそ今まで勝機を伺っておりました。すべては今この瞬間に母の無念を晴らし、仇をとる絶好の機会のために」


「だが、なぜお前の発言が魔塔主を擁護する証言となる?」


「魔塔主である彼もまた、王妃の策略によって陥れられた者だからです」


次から次へと語られる信じられないような事実に周囲の貴族たちのざわめきも落ち着かない。


「まずは私からご説明させてください」


「・・・君は・」


「ルードベルト侯爵家嫡男、マティアス・ルードベルトと申します。現在は療養のため領地に戻った当主の代理を務めさせていただいております」


「ルートベルト侯爵の・・聞いたことがある。たしか君は魔塔に所属する魔法使いではなかったか?そんな君が魔塔主を擁護する証拠を挙げるには、少々疑わしさがあるが・・・」


「ご安心ください、国王陛下」


疑念を含んだ声を晴らすように響いたのは高い女性の声。自信満々に歩みでたのは私の友、ヘレン・シェーファーだ。


「ルートベルト侯爵当主代理が提示する証拠の正当性は我がシェーファー公爵家が保証いたします。なにせルードベルト侯爵家と共に調査に当たったのは我が家ですから」


もちろん、これは後付けだ。証拠の正当性を高めるために、ヘレンがシェーファー家の名を出すことを快く承諾してくれた。これが失敗に終わってしまえば、ヘレンの家にだって被害が及ぶのは免れない。けれど、ヘレンは友のためならばとためらうことなく彼女の父を説き伏せて名乗り出てくれのだ。


「魔塔主の罪の1つである城下町の爆破には、大量の魔石が用いられていました。ご存じの通りそれらは流通も限られているため、一介の貴族では到底手に入れることはできません。手にすることができるとすれば、それは魔塔・・・または王族のみです。そして襲撃があった舞踏会場でもそれが用いられておりました」


「それがなぜ王妃への疑いとなる」


「あの会場で襲撃を行った魔法使いを捕らえたためです。実際に襲撃に合いその場にいた私がは犯人の顔を覚えておりました。その人物は確かに魔塔主の顔をしていました・・けれど、犯人は1人ではなかったのです。罪人をここへ」


ヘレンの合図で2人の男が引きずられてきた。彼らはあの日、確かに私たちを襲撃して逃げた人物だ。連れられてきた男たちの顔を見て人々は息をのんだ。男のうちの1人はエゼキエルと全く同じ顔をしていたから。


罪人たちはそれぞれ王妃から金を報酬としてもらい、城下町と王宮を爆破する指示を受けたことを明かした。そして、報酬は得られずに王妃の手の者によって殺されそうになったとも。


「・・・・これは・・」


夫である国王でも擁護できない状況に言葉を失っている。


「国王陛下、どうか発言をお許しください」


「お前は・・・聖騎士団長。申してみよ」


最後に国王の前に歩み出たのは聖騎士団長を務めるトリスタン・ミラーだ。


「はっ・・・私は先代聖女様の護衛の任についておりました。そして、見たのです・・・王妃殿下の持つナイフが聖女様の胸を貫いているのを。当時一介の聖騎士だった私には何もできず・・・ただ第一王子殿下であらせられたヒースクリフ様をお救いしその御身を隠すことしかできませんでした」


「・・・ミラー卿」


「国王陛下・・・どうか、どうかこの国を救おうとなさっていた先代の聖女様の無念を晴らしていただきたい」


国王の目の前に提示されたのは有力貴族や聖騎士団長の証言、その存在が王妃の罪の証明となる亡き王子の姿。無視できない証拠と先代聖女の無念を晴らすことという切実な願いを前にして国王は考えるように押し黙った。


「父上・・・どうか賢明なご判断を」


ルーカスが国王に詰め寄った。わずかな沈黙の後、会場に笑い声が響き渡った。


「ふふっ・・・・ふふふふふ・・・あはははははははは」


罪人の罪を暴くその場に似つかわしくない、少女のような楽しそうな声だった。


「誰も彼も不確かな証言ばかり。決定的な証拠がないじゃない」


それまでずっと黙ったままだった王妃が不利な状況にもかかわらず、私たちの訴えを嘲笑うように一蹴する。


「でも安心してちょうだい。もうこんな茶番は必要ないわ。観客の皆さまには舞台を降りていただきましょう」


王妃がパチンっと指を鳴らした瞬間、その場にいたはずの周囲の貴族や国王が姿を消した。私たちを擁護してくれていたヘレンやトリスタンの姿もない。人々の喧噪すらなくなった会場は不気味なほどに静まり返っている。


「・・・大規模な転移魔法か」


「ふふふっご名答」


エゼキエルの言葉に王妃は機嫌が良さそうに返した。この場に残されたのは私とヒースクリフ、ルーカス、エゼキエル、マティアスだけだ。どうやら王妃の仕掛けた罠により私たち以外の全員が一瞬でどこか違う場所へ飛ばされたらしい。実際に魔法を使っているその姿を見て背筋が凍る。恐ろしいほどの実力者だ。


「さぁ、ショータイムはここからよ」


追い詰められたはずの王妃は心底嬉しそうに微笑んだ。

読んでいただきありがとうございます。

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