↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
104/104

100

お墓参りを終え、アストラに別れを告げた私たちは城下まちを見渡せる丘に来ていた。回帰前ヒースクリフと初めて会ったときの丘だ。あのときと同じ夕日のさすこの場所で見る景色はあのときとは全く違う。


ちらりと隣を歩くヒースクリフを見る。回帰してからも、私たちはここで一度出会った。けれど、ヒースクリフはきっとそのことを覚えてはいないだろう。それほどに、彼は復讐に囚われてしまっていたから。

聖騎士団の鎧が夕陽を反射して少し眩しい。鎧に身を包み、夕陽を受けたヒースクリフの姿はまるで絵に描いたように美しい。聖騎士としての彼の姿も半年たった今では見慣れたものになり聖女である私の護衛をするようにもなった。こうして並んで歩くこともほとんど日常と言えるほどに彼の隣を歩くことになじんでいた。


「・・・今更だけど、どうして聖騎士団に入ったの?」


並んで歩きながら話すのは彼が聖騎士団に入団した経緯だった。王族としての身分を取り戻したヒースクリフは当初、王兄として執務の補佐をするのかと思っていたが、どういうわけか聖騎士としての道を選んだ。もとより剣技に長けているため能力としては申し分ないけれどその選択をしたことが不思議だった。私としては当然の疑問を口にしたつもりだったけれど、ヒースクリフは何を言っているんだと言わんばかりの顔をする。


「わからないのか?」


「う、うん」


少し驚きを含んだ声に私の問いがおかしいのだろうかと考えを巡らせる。けれど、そんな私の様子を見てヒースクリフは少し呆れたように小さく息をついてから真剣な表情で私を見た。


「決まってる。お前を一番傍で守るためだ」


「・・・・え」


「いくら護衛のためとはいえ、お前を守る役割を他の男たちに譲るつもりはない」


青い瞳にまっすぐ見つめられて一瞬言葉を失った。


「あ、ありがとう」


顔が一気に熱くなり赤く染まっていくのがわかって思わず俯いてしまう。


(聖騎士団に入団した理由が、まさか私を守るためだったなんて・・)


ヒースクリフはあの戦いの後からこうして真っ直ぐな好意を言葉と行動で伝えてくれるようになった。それを嬉しいと思う反面、どこか申し訳ないと思う自分もいた。せっかく憎しみから解放された彼のことを聖女としての自分の存在が彼を縛りつけてしまっているのではないか、と。


「・・・・でも、聖女に縛られることはないわ。あなたはもう自由なんですもの。これからの人生、あなたの望むままに生きてほしい」


自分の思いが彼を縛り付けることがあってはいけない。そう思って浸ってしまいそうになる喜びから一歩身を引いた。私としては当然のことを口にしたつもりだった。けれど、ヒースクリフにとってはそうではなかったらしい。ふと隣を歩いていたヒースクリフは足を止めた。


「ヒースクリフ?」


どうしたのだろうかと振り返る。最近では穏やかな表情の増えた彼にしては珍しく不機嫌そうな顔をして私を見ていた。


「まさか逃げるつもりじゃないだろ?」


「え・・・?」


「俺を救っておいて無責任に放り出すつもりじゃないよな?」


何を、と問う前にヒースクリフは私たちの間の数歩分の距離を一気に詰め寄ると私の身体を抱きしめた。


「逃がさない。絶対に」


言い訳すら封じ込めるように耳元で呟かれた言葉と抱きしめられる腕の力強さに身体が固まってしまう。


「責任をとってくれ。復讐に走って1人死ぬはずだった俺に、愛することを教えた責任を」


切実な声にヒースクリフの思いが伝わってくる。


(・・・本当に、いいの・・?)


私の愛が報われなくてもいい。ヒースクリフが、他の女性を選んでしまっても彼がそれで幸せになってくれるならそれでいいと、心からそう思っていた。彼が私を愛していると言ってくれたときも心の底から嬉しく思う一方で怖かった。自分の感情が彼の重荷になってしまうことが。だから彼からの言葉に自分の思いを返すことができなかった。でも、もう遠慮しなくてもいいのだろうか。今だにためらう心に彼の言葉と行動が勇気を与えてくれる。そっと抱きしめてくれる背に手をまわした。


「逃げるつもりなんてない。私は・・・・あなたを、愛してるもの。ずっとあなたの傍にいたい」


この世界で報われることのない思いだと思っていた。一方通行で伝えることもできない思いだと。一度こぼれた想いが溢れて、涙で視界が滲む。私のその姿にヒースクリフはどこか安堵したようにクスリと笑うと指先で涙を拭いそっと唇を合わせた。流れるような一瞬の出来事に驚いて目を見開く。瞬く間に去っていた彼の熱が少し寂しく感じてしまう。


「どうやら俺は一度心を決めたものに対して執着する性質らしい。・・・・だから覚悟しておいてくれ」


至近距離で見つめる空色の瞳には私しか映っていない。顔を真っ赤にして、驚きで固まった少し間の抜けた表情をした私。自分で選んだ道の先にこんな未来が待っているなんて、ただの貴族令嬢として生きていたときには想像もしていなかった。愛することを知り、愛した人のために選んだ道が今という未来に私を連れてきてくれたんだ。


きっとこれから先も私たちは愛する人たちを思いながら自分たちの未来を切り開いていくのだろう。


これは愛する者たちのための選択が紡いだ未来の物語。

読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。