94、み~つけた。
風魔法で声を拾いつつ、死角になる壁から二人の様子を伺う。
下りになっているので私達からは良く見えるがメノウからは移動して見上げないと見えない為、ベストポジションだ。
「ですから、貴方がそこを退いて下されば私の用事は終わるのですわ!!」
女はサキュバス族のようだ。こちらからは巻いた角とピンク色の長い髪とそこからすらりと伸びた華奢な手脚しか見えないがサキュバス特有の香りがする。[魅惑の香り]、サキュバス、インキュバスが持つ特殊スキルだ。この場にいる者達には効果はないけど...。
「はぁ、何度も言ってるだろう。ここから先は誰も通すことは出来ん。馬鹿なのか?」
女は先に進みたいが、メノウは拒否の言葉とため息を吐きつつ軽く毒をつけて返した。
「何ですって!ちょっと美形だからといって調子に乗らないことね!!私を誰だと思っているの!」
案の定、女はメノウに激怒するが本人は全く気にせず冷笑を浮かべている。だが、恐らく女に対し研究欲が刺激されるものがあったのだろう少し柔らかい笑みがでた。
「今さら素敵な笑みを見せられても遅いですわよ、私は闇ギルド[魔女の宴]三姉妹が三女、欲の魔女サジェスタ。もうお喋りには飽きましたの。勿体ないですが、そろそろ貴方を殺して目的を果たさせていただきますわ。」
彼女は、魔女三姉妹の欲の魔女サジェスタと名乗った。確か私が水晶越しに会合したのは、宵の魔女アルアネシス。真っ赤な口紅した瑠璃紺色ドリルヘアーの次女だったはず。
( あとは長女だけか...。名前なんだっけ?)
メノウがわずかに出した笑みは知らない者が見れば麗しい部類に入るだろう。サジェスタは少し惜しむ色を滲ませたが腰にある武器を取り出し攻撃を始める。
攻撃を軽く避けながらメノウは懐に手を入れ何かを取り出しサジェスタに向かってピンッと指で弾くように飛ばした。
「やれやれ、一年かけてやっとここまで修復してあと少しなのに邪魔だ。この先に行っても魔王は甦らん。低能な女には言っても無駄かも知れんがな。」
首を軽く振りながらメノウがサジェスタに言葉を投げた途端、飛ばしたものの辺りからいきなり囲む様に襲い現れた蔦が触手のように蠢きサジェスタに巻き付いて拘束する。見た目は護衛君3号のようだが見たことがない動きなので新種の拘束に特化したものだろう。
「な、何ですの!?これ...むぐっ...」
巻き付かれとドサリと倒れ込んだサジェスタは何か言おうとしたが口が蔦に巻き付かれて塞がれた。「んー!んー!!」と何か喚いているが言葉にはなら何とか拘束を破ろうとグネグネしている。
そんなサジェスタを一瞥して奥の方へと顔を向けた時に呟いた言葉が気になった。
「とんだ邪魔が入ったな。...さあ、早く無かったことにしないと。」
この先には、聖樹から延びている根がある。恐らく聖樹の根が傷ついた事に関係がある発言の可能性が高い。証拠隠滅するつもりか?
(無かった事にしてもらっては困る、お仕置き案件ですからねメノウ。ちゃんと理由を聞かないとね~。)
私はリゼル達にここにいるように伝え、気配を完全に消してメノウに近付く。丁度奥に気を取られ私に背中を見せているので一気に背後をとった。
ガシッ...
メノウの肩を捕むとピシリと音がなったかのようにメノウが固まったのを感じた。ゲーム時代も同じ様なことが多々あった。研究に没頭しその尻拭いをしてきた私の苦い思い出は、ゲームか?これ本当にゲームなのか?って感じの無理ゲーだった。バグですか?って何度言いたかったことか。思い出すと段々、威圧が無意識に強く流れるのを感じる。自制心、自制心。
メノウが恐る恐るこちらを振り返ろうとするのがわかるが途中で止まった。こちらから少し見える顔色はあまり良くないようだ。
こちらとしても問いただしたいことがあるので諦めて向き合って欲しいものである。
先程の女が邪魔をしなければ、そんな表情でサジェスタを冷や汗を流しながら睨み付けるメノウ。そんなメノウに私は目が笑えない状態で微笑むと早く向き合いやすいように声をかけた。
「久しぶりね、メノウ。いえ、[血濡れのエルフ]って呼んだ方がいいのかな?」
少し涙目になったメノウが更に顔を青くしたが口元がひきつるだけで何も答えないので更に問う。
「ああ、賢者様?私の事をお忘れですか?」
あくまでも優しく尋ねた。が殺気が少し威圧と共に込められたしまったようだ。自制心。肩を掴む手の力が思ったよりも強くなっているがこの位、彼等には何ともないので大丈夫。自制心。
これ以上振り向かないと危険信号を感じたのか、全力でギギギギッと私の方に顔を向けた。
「...エル...ノラ...。」
何とか振り絞り出したと思われる声で名前を呼ばれたので少し威圧を下げる。逃げられないように肩はそのままだが。
メノウは私が本物か確かめるように頭の天辺から足の先まで見て視線を顔に戻す。そのエメラルドの瞳の色には喜び、懐かしさ、戸惑い、そして恐怖と焦りが複雑にでていた。
美しい新緑の髪は左の肩に弛く一つに竜のひげの組紐で結ばれて胸元にかかっている。
サジェスタに見せていた冷たい印象は今は無く少しオットリとしたような美形だ。長く尖った耳には昔私が作った銀のカフスが二つ対でつけられていた。効果は常時回復。
研究時にはモノクルを掛けるが今は外しているようだ。モノクルには状態異常無効が付いているのだが、この二つがないとメノウはすぐに戦闘不能になるので必需品だ。
しばらく目線を合わせていると背筋がゾクリとした。なんだろう悪寒がする。
気のせいだと軽く払いながら聞こうではないか、賢者様の偉業を本人の口から。
「説明してくれるかな?」
私がこれまでに聞いたメノウの活躍はもっとあるよね?五年間は少なくともあると知ってるよ?どこで何をしたかちゃんと研究ノートに書き留めてるの知ってるよ?
さぁ、私に話してごらん。
今度はちゃんと目も笑えるようにゆっくりと微笑んであげる。若干震えている気がするが気づかないであげるよ。悪寒は消えたし。
目が泳ぎだしたメノウが口を開いたり閉じたりしているが言葉を出してくれないとわからないよ。
冷や汗が止まらないメノウに私が詰め寄るが不意にメノウの瞳に私以外の人物が映った。




