36、要、必須魔法
「ナハト、後ろにゴブリン二匹!気を抜かない!」
「はい![アクアバレット]!」
常に[索敵]を発動させていても体が反応出来なければ意味がない。かれこれ三時間ほど連続でゴブリン相手に闘っているので発動した魔法の威力も狙いも落ちてきていた。
「リゼル、ナハト!そろそろ山小屋に戻るよ。」
ナハトの放った水魔法がゴブリンにダメージを与えるが致命傷ではない。鉄色の銀髪を乱し額から大量の汗を流しながら膝をつく。怒ったゴブリンがナハトに襲いかかろうと向かって来ていたが顔を上げるのが精一杯だった。
私は愛剣の柄に手をかけようとして止めた。
スタッ!
ザシュッ!
ゴブリンに近付かれる前にリゼルが間に入り、ロングソードで一閃する。
リゼルもまた大量の汗を流しあちこちゴブリンの青い血と泥で汚れていた。
「ハァハァ...大丈夫かナハト?」
疲れから少し震えた手でナハトに手を差し出す。ナハトは差し出された手をガッシリとリゼルより小さな手で掴んだ。
「あ..りがとう、リゼル。」
起き上がり汗をを含み少しベタついた髪を横にながす。
「ねえリゼル、山に登る前より体が軽い気がする?」
「ん?あ~、確かに軽い気がする...今は疲れて良くわからないけど。」
「確かに...フフフッ。」
疲れのせいか少しハイになっているようで頭があまり回らない。
「二人ともだいぶ魔力も体力も上がってるからだよ!よく頑張ったね、今日は山小屋に泊まって明日出発だよ。」
二人に回復薬(少)を渡す。
二人は素直に受け取り飲み干した。一気に回復させないのは自然に任せるためだ。
山小屋にある井戸から水を大きな湯桶と木の桶に汲み魔法で温めお湯にして布を二人に渡す。
「服をそこに置いといてくれる?洗浄魔法で綺麗にするから。」
「いや、水浴びついでにそのまま洗うつもり....?」
「「えっ!!そんな魔法あるの!?」か?」
言いかけた言葉を止めリゼルとナハトが驚きの目を向けてくる。
「ん?あるよ?・・・神官を極めると聖域魔法と洗浄魔法を覚える事ができるんだけど洗浄魔法は汚れた物を全て綺麗にするからピカピカになるんだよね。」
「神官?女神教の神官は神の魔法である聖域魔法は使えなかったぞ、せいぜい神官長が浄化魔法くらいだ。使えるのは大神官長かその上の教皇様ぐらいじゃないか?」
浄化魔法は洗浄魔法の前に覚える魔法で精神汚染や血などの穢れを綺麗にする。だが洗浄魔法は全てを洗い浄める、つまり強化版だ。
「エルノラは教皇さま?」
「違うよ!私は賢者様の弟子だよ。」
(賢者、教皇どころか女神だけどね...前に無かった医術師がゲーム時の治癒術師にあたるのかな?神官は極めると名前が変わって大神官へ変わるのかも出世みたいな感じかな?歴史書でも読んでみるか...)
「賢者様の弟子....?」
ナハトがじっと私を見つめてくる。
「俺は賢者様だと思ってる。」
リゼルもじっと見つめてくる。
私は視線を合わせないように目を泳がせた。
「フフッ、エルノラの顔面白い!」
「プッ、確かに目が泳ぎすぎだ。」
「...イシシ肉のスペアリブを作ったから食べて貰おうと思ったけどお預けかな?パンは沢山のあるからおかわりもできるし、野菜スープも用意したんだけどね~?」
リゼルとナハトが慌ててごめんなさいをしてきたので許してあげる。そしてご飯を用意するために山小屋に入った。
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二人はエルノラが山小屋に入ったのを見て汚れた服を脱ぎ空の桶に入れていく。大きな湯桶から木桶でお湯を汲み頭から被ると血や埃が流されていく。何回か繰り返した後、布をお湯に浸して身体を拭いていく。綺麗に吹き終わったら余った湯で布を洗い絞ったら体の水分を拭き取った。
全て終えてリゼルがナハトに小さな声で言った。
「ナハト、エルノラはあんまり目立ちたくないんだ。もしかしたら賢者様かそれ以上の存在かもしれない。だけど本人が教えてくれるまでは俺は聞かないつもりだ。」
「...僕はエルノラが何者でもいいよ。強くなってエルノラを守るんだ!今は記憶がないし弱いけど...リゼルもそのつもりでしょ?」
リゼルはナハトを見て少し驚いた。
(まだ幼い子供だと思ってだけど男の目をしているな。)
「ああ!ただエルノラは先程みたいに常識にズレがあるというか自分からボロを出す事が多いんだ。賢者の弟子で本人は通しているがアルネストでは賢者だと公認された。」
「それってエルノラ知ってるの?」
「恐らく上手くごまかせたと思ってるかも ....まあ、口外はしないと言っていたから大丈夫だよ。」
「フフッ、じゃあ僕たちが早く防音と索敵をマスターしてエルノラを守らないとね。」
「そうだな!」
リゼルとナハトは二人でガッシリと握手をかわした。




