第13話 “きゃん”とカズト
コーヒーとケーキを買い、互いに向き合って席に座る。
長身の和斗と、派手で若い“きゃん”の姿に、少し店内がざわついた。
「ね…。」
「なに?」
「奥さんとどっちが好き?」
口に含んだコーヒーを若干ふいてしまう和斗。
「そりゃぁ~…。」
睨みつける恵美扮する“きゃん”。
和斗はこうなったらヤケとばかりノリを変えることにした。
「“きゃん”に決まってるじゃん。かわいいよ。いつもキレイだ。」
「ありがとう。も~、サービス一杯しちゃう!」
完全にお世辞と分かった恵美は、和斗のコーヒーに砂糖やらミルクを多量に入れた。
なされるがまま苦笑いする和斗。
「オレの濃ゆいの飲んでみる?」
といって笑いながらコーヒーを突き出す。
「あたし、苦いの苦手なんだって…。」
恵美はそれを笑って両手で突き返す。
「遊びじゃないよ?ホンキだよ?」
といって、半分歯ぎしりしながらもう一度コーヒを差し出す。
「んふふ…。」
和斗が半怒りだろうが意に介さず、もう一度突き返す。
和斗は笑って試しにそれを飲んでみた。
「(甘…。)もうお前を見ていると(怒りで)全身が熱くなってくる感じ…。」
といいながら、この姿の恵美を見られたくないのかソワソワ、キョロキョロと辺りを見回す。
「ふふ…もう限界みたいだね?家に行く?」
「マジ?行きたい!今すぐ行きたい!」
「ふふ。ガツガツしすぎ…じゃ、行きましょうか。」
「ウン。やったぁ!“きゃん”大好き!!」
と言って、立ち上がり、ガバッと恵美の肩を抱く和斗。
小声で
「これで満足か?コンチクショーーッ!」
「んふふ…。後で返答致します。」
「後からかよ…。」
肩を抱いたまま車に乗り込む二人。
コーヒー店の仕切りがある隣の席では…
恵子と冬子がその話を聞いていたのであった…。
はじめは、恵子が和斗に気付いて呼びかけたのだが、見知らぬ女と一緒だったので、二人してつい立てに身を隠して聞いていたのだ。
「…今の…カズト君だよね…?」
「双子じゃなきゃね…。」
「どーゆーこと…??」
「知らないよ!あいつ…こんなことしてたなんて。19年間、裏でこんなことしてたの?あたしを…あたしをだましてたのぉ??」
「なにかの間違い…って思いたいけど…あの会話聞いちゃあねぇ…。」
恵子、人目もはばからず泣き出してしまった…。
それを冬子は慰める。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
和斗の車の中。二人は笑いながら話しをしていた。
「あ~面白かった!」
「はっはっは!なかなか面白かったけど、コーヒーちょっとしか飲んでないよ。お金もったいね~。」
「ね。カズちゃん、今のうちに写真撮って、あたしに送って?あ!そうだ!」
「なに?」
「夏祭りのときに、男子に告白されたのよ。」
「え?マジ?じゃぁ、彼氏できたの??」
「いやぁ…まだ好きかどうか分からないから、デートを何回かしてみようって言った。」
「へー。そーなんだ。青春だなぁ…。」
「でね?その人とラインじゃない、ラインみたいなのやってんの。LMっていうやつなんだけど、カズちゃんにもそっちに登録してほしいの。“きゃん”として。」
「え…なんでよ…。」
和斗は露骨にいやそうな顔をした。
「いや、その男子の相談とかしたいから。ケイちゃんにはまだ言ってないのよ。男性の意見をききたいと思って。だから、内緒ね?内緒。ケイちゃんには言わないでよ?あたしが“きゃん”だって。」
「え~…。オレにできるかなぁ…。ケイちゃんに隠し事なんて…。」
「そこが娘との信頼関係が問われるところです。ちゃんとした父なのか、児童虐待の父なのか。」
「なんか腹立つわ~。オレ、虐待した覚えなんてないんですけど。」
「本人はそう思ってても、思春期の娘の心は複雑なもんじゃん?」
「はぁ…。分った。分った。」
「じゃ、写真撮って!」
スマホを構えて、写真を撮る和斗。
恵美はそのスマホを預かり、LMというメッセージアプリを入れた。
「ハイ。登録完了。“きゃん”ちゃんのアイコンは今の画像にしといてあげたから。」
「あっそ…。」
家に到着。恵美は兄妹が誰もいないことを確認してから二階に上がり、速攻で化粧を落とした。
これで、“きゃん”の存在を知っている家族は和斗しかいない。




