第12話 二人っきりの初デート
仕方なく娘を車に乗せて走り出す。
向かうは和斗の行きたかった靴屋。
到着し、和斗は申し訳なさそうに恵美に言った。
「メグは…ちょっと車で待ってて??」
「だ~か~ら~。ネグレクトなんだって!車内放置児童じゃん…あたし…。熱中症で死ぬよ?いいの??」
「はいはい。わかった…その恰好か…。」
靴屋に入る二人。店員が近づいてくる。
「いらっしゃいませ…。 杉沢様。」
「やあ。このカタログに載ってるやつさぁ。ある?」
「こちらにございます。」
店員に案内され、陳列棚からカタログのものをつかみ出し、履いてみる。
恵美は自分の履きたいものを探しに行く。
「杉沢様もスミにおけませんな。このことはケイちゃんに報告した方がよろしいでしょうか?」
「やめろよ…娘だよ。メグミ。」
「まさか?メグミちゃん?ご冗談でしょう~。キャバ嬢と同伴デートじゃございませんか?」
この店の店員も和斗の友人の一人だった。
「なんか文化祭でキャバクラやるのに練習してんだと…。なりきり練習?こっちはいい迷惑だよ…。」
「なるほど~。そーなんでございますか。ホホホ。…よく…お似合いで…。」
「どっち?靴のこと?娘とのこと?」
「両方でございます。お買い上げでございますか?」
「ウン。ばっちりだ。やっぱり思った通り。カズちゃん最高だぜ!」
「ホホホ。…かしこまりました。」
恵美がひょいと陳列棚の端から顔を出した。
「ね。カズちゃん。あたしも買って欲しいのあるんだけどぉ~。」
「わ!…なんだよ…お前かよ…。急に出てこられると、誰だかわかんねーよ。」
「おやおや。本当でございます。」
「んふふ。」
「なに?どれを買って欲しいの?俊足か?」
「あのねぇ。小学生の運動会じゃないんだから…。これでーす。」
まさに、キャバ嬢が履くような派手なものを出してくる恵美…。
「なんでだよぉ~。運動靴でやれよぉ~。」
「ダメダメェ~。他のみんなも履いてくるのに、あたしだけ運動靴?それじゃぁナンバーワンになれなーい。」
「あー…。ナンバーワンどうこうはいいとして…。みんな履いてくるのに、メグだけ履いてないのはダメだろうなぁ…。」
「そうそう。ヨースケさんもそう思うでしょ??」
「さようでございます。」
「ヨースケ…裏切ったなぁ??」
「ちょっと履いてみるね?」
二人の前で足を通してみる恵美。
「ふむふむ…?うん?…ちょっと小さいでございましょ??」
「うーん…ホントだぁ…。」
「もっと大きいのありませんでしたか?」
「うん、このモデルはこれだけだったよ?」
「ちょっと在庫を見てまいります。」
走っていく店員の洋介。
「も~、お父さんの友達困らせるなよぉ~。」
「なによぉ!ヨースケさんならいいでしょ?小さいころから知ってんだから!」
洋介が戻ってきて言うには
「あいすいません。現在当店には在庫がありませんでした。S市の店の方にあるので取り寄せいたしましょうか?」
「マジ?S市にあるの?じゃぁ、オレ、月曜日に支店に行く予定あるから取りに行くよ。」
「本当でございますか?杉沢様。」
「ウン。大丈夫。店って、国道沿いのあそこだよな?」
「さようでございます。」
「じゃぁ、S市の店の方に話ししといて。」
「かしこまりました。」
恵美は「やった!」と言って小さくガッツポーズをとった。
お金を払って、店の外に出る親子。
和斗の腕にからみつく恵美。
「あのさ、まだ家に帰らないでよぉ。どっか行こ!どっか。」
「どーせ、イヤだっつってもネグレクトっつーんだろ?」
「正解。」
「じゃ、軽く山の方をドライブするか…。」
「何言ってんの??」
「は?」
「この恰好を見せなきゃ意味ないでしょ?コーヒー店行きましょう。コーヒー飲みに。あたしは…苦いからコーヒー嫌いだけど…。」
「なんでだよ…。」
またまた顔を抑える和斗。
車に乗り込み、近くのフランチャイズコーヒー店に。
人気なので、たくさんの人で賑わっている。
「これから、あたしのこと“きゃん”って言ってね?」
「一応聞いてみよう。なんで??」
「あたし、アイドルグループ“ワンワン探検隊”の“きゃん”に似てるんだって。カズちゃん知ってる?」
「見たことはないけど、知ってる。人気がある可愛い人なんでしょ?」
「そうそう。だから、あたしの店での名前は“きゃん”にしようと思って。」
「そーですか。でもここで呼ばなくてもいいよね?」
「いや、あたしをメグミって知られたくないの。なりきりたいの。協力して。」
「え~…やだなぁ…知ってる人に見られたら…お父さん知り合い多いんだぞ??」
「知ってる。知ってる。だから、逆にウワサになったら面白いと思って。」
「やだよぉ…ケイちゃんに嫌われちゃうよぉ…。」
「男ならグズグズ言わないの。」
「そーゆうところはケイちゃんにそっくりだなぁ…。」
腕に絡みついたままの恵美。いや…“きゃん”。
まぁ…娘とこうしているのも悪くないと和斗は思った。




