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第七十七話 知らなかった精霊の世界

 昨日買ってきた食材を使って、ケイオス専用のご飯を作っていた。MP回復効果のみに重きをおいた結果、青汁みたいなのが出来た。


『マナジュース』

品質:普通

特性:元気ハツラツ

性能:ものすごくMPが回復するけど、超絶不味い

効果:MP回復(超高程度)


 早速試飲してもらったら、ケイオスが「うっ……」と短い呻き声を上げた。それでも何とか飲み干した後、吐きそうになるの必死に堪えている。


「もっと、マシな味にならないのか……」

「良薬は口に苦しって言うし、栄養のあるものは不味いんだよ」

「何だその意味の分からない持論は!」

「でも栄養はばっちり取れるでしょ?」

「それはそうだが……精神的に辛い……」

「ここに来て、舌が肥えちゃったんだね」

「仕方ないだろ! お前が作るやつ、他は美味いし……」


 どうやらケイオスの餌付けは着実に成功していたらしい。何だろうこの、懐かない狂犬を拾って少し心を開いてもらえたかのような嬉しさは!


「…………だから犬扱いするな!」

「心読まないでよ! 何か不公平だ……」

「そりゃー主の危険を察知するために備わっている能力だからな。嫌なら邪な事は考えないようにする事だな」

 

 心の中で助けてって叫べば、ケイオスには伝わるって事だし安全面では心強いけど、普段は遮断して欲しいわ。


「ケイオス」

「何だ?」

「精霊の里に帰りたい?」

「…………どうだろうな」

「何をしたら、また里に入れてもらえるの?」

「よほどの功績を残さないと無理だろうな。精霊にも格付けがあるのは知ってるか?」

「知らない……そんなめんどくさそうな顔しないでよ!」


 ゲームの中でそんなドロドロした話が語られるわけないし。精霊の悪戯っていうのも、おやつを勝手に食べちゃったとか、可愛らしい子供の悪戯だと思ってた。


「おまえの兄が言っていただろう? 黒を纏うのは邪悪な精霊が多いって」

「確かに、馬車の中で言ってたね」

「俺のように人工物から生まれた精霊は、必ずどこかに黒を纏っている。人の作り出した物には、綺麗な心も汚い心も混じっているからな。逆にシルフィーのように自然から生まれた精霊は、純粋故に黒を持たない」

「質問! そもそも精霊って、どうやって生まれるの?」

「何百年も生き続けた物には魂が宿る。身が朽ちた時に、俺もシルフィーも精霊としての生を受けたのだ」

「シルフィーと一緒に生まれたの?」

「そういうわけではないが、まだ精霊になる前に助けてもらったのだ。遠い昔、俺は神剣であいつは大樹だった。世代を跨いで受け継がれる名剣として、俺は人々に使われてきた。しかし代々俺を受け継いだ一族は滅び、俺は人々の手を転々と渡り、最後は森で朽ち果てた冒険者と共に野ざらしで転がっていた。そんな俺の傍にあった大樹が、シルフィーだった。あいつは俺が錆びないように、雨風から守ってくれた」

「そんなことがあったんだ」

「だが森はモンスターの放った火で燃え、シルフィーは枯れてしまった。そこからさらに永い年月が経ち、枯れた大地でボロボロになった俺もようやく死を迎えた。その後精霊としての生を受けて、偶然にもシルフィーに再会したんだ」

「何だかロマンチックだね」

「だがしかし、シルフィーは最初俺の事を覚えていなかった。何度も説明してやっと思い出してくれた」

「…………どんまい」


 温度差が、悲しい。


「精霊の隠れ里に入るには、精霊の森で修行を積んで力を授かった者だけしか受け入れてもらえない」

「ねぇ、ケイオス。精霊の森に出てくるヒトダマみたいなモンスターってもしかして……」

「生まれたばかりの精霊達だ」


 うわー!

 敵だと思って普通に倒して進んでたけど、あれは皆修行中の精霊だったの!?

 すごい罪悪感が湧いてきた。


「人間に襲いかかるのは、自我を失った精霊だから気に病む事はない」

「そ、そうなんだ……」

「ほとんどの生まれたての精霊は、自力で体を維持できる程のマナを確保できずに消えるか、他者から奪おうとして闇に染まり返り討ちにあう。苦労して力を手にして里に入れてもらっても、待っているのは特権階級の世界だ。聖域を維持するのに必要なマナを提供出来るのは、自然の精霊のみだ。人工物の精霊のマナは歪みをもたらすから、主に雑用ばかりやらされる」


 あんなに和気あいあいとしてた精霊の隠れ里に、そんな隠された裏の顔があったなんて!


「なんて顔してんだよ」

「だって、精霊の世界がそんなシビアだったとは思いもしなかったんだよ……シルフィーを追いかけ回してるただのストーカーかと思ってたけど、苦労してたんだね。ああでも、嫉妬でエルンスト様に悪戯するのはもうしちゃ駄目だよ?」

「…………ここに居るのがバレちまった以上、もうしねぇよ」

「よしよし、いい子!」

「だから俺は犬じゃねぇ、頭撫でんな!」

「別に犬扱いしてるわけじゃないよ。頭撫でて頑張ったねーって褒めてもらえると、嬉しくない?」

「分からない。そんな事、してもらった事ねぇから」

「じゃあこれからは、私がしてあげる! 貴方の主だしね!」

「ほぅ、そうか。出来るものならやってみろ」


 ケイオスは椅子から立ち上がると、不敵に笑って言った。


「なっ、それはずるい!」

「悔しかったらでかくなる事だな」


 子供に対して何と大人気ない……ケイオスに比べたら私なんて生まれたての赤ちゃんみたいなもんじゃないの……生きた年数的に。


「…………やっぱり、そのままでもいい」

「何で?」

「お前が成長して強くなったら、俺なんて必要なくなるだろ? それなら、そのままチビのままでいい」


 プイってそっぽ向いてるから表情は見えないけど、声色はなんか寂しそうに聞こえた。


「ケイオス、見た目と違って意外と感情豊かなんだね」

「なっ!」

「だって、捨てられるかもって心配してるんでしょ?」


 神剣の時を合わせたら、ケイオスは今まで数えきれないほどの出会いと別れを経験して来たはずだ。そうして人との関わりが多かった分だけ、自然の精霊より人間の感情をより理解して学んできたのかもしれない。


「やっと見つけた主を、そう簡単に失いたくはないだけだ」

「精霊と誓約を結べる人ってそんなに見つからないの?」

「俺のように男で戦うことしか出来ない精霊と、わざわざ誓約を結ぼうなんて者は少ないからな」

「どうして? 頼りになるじゃん、用心棒!」

「そこまで魔力が高い者は大抵強いからな。わざわざマナを供給してまで誓約を維持する必要もない」


 確かにセシル先生みたいに強い人は、わざわざ誓約を交わす必要もないだろうな。養うのに、食費の方が高く付くだろうし。


「たまに愛玩用に誓約を交わす者は居るが、それも見目が良い女の精霊ばかりだ」


 なんか響きがあまりよろしくないな。ペットみたいにしてるって事だよね。けしからん!


「ケイオス、私は番犬なんて思ってないからね!」

「最初は思ってただろ!」

「ごめんごめん。でも色々話聞いて貴方の事も分かったし、今はそうだね……家族だと思ってるから」

「家族?」

「そう、家族。このお屋敷で働いてくれている人も、私にとってはみーんな家族! だからケイオスも家族! 困ってる事があるなら遠慮なく言って欲しいし、逆に私が困ってる時は助けて欲しい。家族ってそうやって助け合って生活するものだから。色々迷惑かける事もあるかもしれないけど、これからよろしくね!」

「…………っ!」


 返事がない。嫌だったかな?

 無理に距離を詰めすぎたのかもしれない。まずは顔見知りのご近所さんぐらいにしたが良かったのだろうか。


 そんな事を考えつつケイオスの顔を覗き込むと、見てはいけないものを見てしまった。手の甲で顔を隠すケイオスから、水滴がこぼれ落ちてくる。


「ご、ごめん! これ使って!」


 ポケットから慌ててハンカチを取り出して渡そうとしたら、とある事に気付いた。


 ケイオスの流した涙が頬をつたい顎から離れた瞬間、固形化して落ちていく事に。床にはクリスタルのように輝く石がコロコロ散らばっている。


「はっ、精霊の涙!」


 倒さないともらえなかった貴重な素材が、床にポロポロ転がっているだと!?


 ハンカチをそっと引っ込めると、その腕をがしっと掴まれた。


「今、素材に目が眩んだだろ?」


 ぎくっ!


「だ、だって、拭いたら勿体無いよ! もっとじゃんじゃん泣いていいよ。この際、たまった心の汗を綺麗に流してしまおうよ!」

「リオーネ。お前は家族と素材、どっちが大事なんだ?」

「そ、そりゃあ勿論家族だよ」

「目を泳がせながら言うな!」

「ケイオスの流してくれた涙ごと、私の大切な家族だよ! だからもっと泣いていいんだよ?」

「おかげで一気に引っ込んだわ、どうもありがとなぁ!」


 達の悪いチンピラのような顔でお礼を言われた。嫌味か!


 ちなみに散らばった精霊の涙はありがたく頂戴して保管した。

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