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斬機走甲/´スラッシュダッシュ  作者: 石川湊
四章/変化´覚醒
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第24話「色のない世界」

 迂回する為階段へ向かっていると、再び伍行から止まる指示と動画データが送られてきた。どうやら次の通路の角を曲がったところに、獣型の征服種(レックス)が二体いるようだ。データベースにアクセスしてみたところ、地鰐(ジワニ)という征服種(レックス)らしい。

 長い胴体に対し手足と尾は短く、胴体とほとんど同じ大きさの顎が特徴的な征服種(レックス)である。

 伍行のオートマタから送られ続けているライブ動画が通路の反対側も映し出すが、他の征服種(レックス)は視認出来なかった。おそらく先遣隊の撃ち漏らしだろう。


■伍行》分隊員『戦闘準備、一瞬で仕留めろ』


 伍行の指示を受けると、分隊の先頭を務める先輩三人のパワードスーツが赤くフォトンの輝きを灯し始めた。

 伍行の合図で、先輩たちは先手必殺のタイミングで奇襲をかける。伍行がいちいち細かく指示を出さなくても、先輩たちはどのように動くか既に熟知しているようだ。

 三人が一斉に飛び出すと同時に前二人の腕にフォトンが密集し始め、それぞれの専用武器、高圧縮フォトンアックスと高周波フォトンブレードを装備した。

 そして前衛の武器が展開するよりもワンテンポ早く、後衛のショットガンが地鰐に雨あられと撃ちだされる。

 地鰐は体中に銃弾を負うものの致死には至らず、その巨大な顎を大きく開け雄叫びを上げようとするものの、既に武器を携えた二人の前衛がオートマタを従え地鰐の眼前に迫り、地鰐に何もさせないまま速攻で留めを刺した。

 何度も訓練したのであろう完璧な連携、青島はそれを見て純粋に凄いと思ったがそれ以上に胸を占めたのは――


『我々の方が速いですね』


 青島のが思った事を、μ(ミユ)が代弁するかのように呟く。

 ちゃっかり録画していたのか、先程の奇襲の映像にもし青島が攻撃していればという映像を編集したものが映し出された。

 翼刃(セイバー)を呼び出す必要がないという差もあるし、そもそも翼刃(セイバー)があれば牽制が必要ないという違いもあるが、もっと根本的に青島は他の隊員と比べて余りにスピードが逸脱していた。

 結果は言うまでもなく、青島の方か効率よくかつスピーディに地鰐を仕留める事が出来るというものだった。


■青島〉μ『まぁ……命令がないならやる必要もないだろ』


 ポツリと呟く青島を、μ(ミユ)は驚いたように見つめるが、見るだけでそれ以上何も言ってこなかった。μ(ミユ)が何か言いたそうにしていることに青島は気がついていたし、何が言いたいのかも大体察しはつくが、青島はもう疲れ切っていた。考えることに……時代に逆らう事に。

 フォトンが霧散しバックパックに再装填され、素手に戻った前衛組が隊列に戻ると、一行は再び上の階を目指し歩いていった。

 頭からどっぷりと被った返り血を払いながら、小此鬼が陣形に戻ってくる。

 隣には彼女のオートマタが一体、伍行のもの同様従来のモデルより一回り小さく、両腕を丸々フォトンブレードに換装してあり、フットパーツには小型のフォトンジェットを装備と、一気に敵の懐に潜りこみ、一撃で仕留めることだけを想定したカスタマイズが施されている。

 元々赤くカラーリングされているとはいえ、返り血で真っ赤に染まった姿はまさに小鬼(ゴブリン)のようである。


■小此鬼〉青島『ん? どうした青島、今日はやけに静かだな』


■青島〉小此鬼『やだなぁ小此鬼さん、俺だって遺跡の中くらい静かっスよ』


■小此鬼〉青島『手前ェどの口が……あぁ、さては今日は黒沼がいねーから寂しいんだろ?』


 小此鬼の言葉に青島はハッとした。

 言われるまで黒沼が隊列にいない事に全く気がつかなかった事に驚いたのだ。いつもの自分なら、合流してすぐに気がつきそうなものなのに。

 そして妙に今回の調査は間が長いと思っていたが、そういえば自分はもっと色んなものを発見しては黒沼に聞いていなかっただろうか?

 しかし……今の青島には世界が妙に色褪せて見えていた。

 必要のないことに、どうしても関心を向けられないのだ。

 むしろ以前の自分は、どうしてこんな戦闘には関係のないことに興味をもてたのか分からない程である。


■伍行》分隊員『先遣隊からの連絡だ、50階にベースキャンプを設置したらしい。今日はひとまずそこまで行くぞ』


 旧都庁は未だ奪還者(リテイカー)の手が全く入っていなかったので、コクーンタワーよりも荒れ放題だ。

 視界を塞ぐように咲き乱れる植物群、乱雑にまき散らされた瓦礫の山、先遣隊がいるとはいえ慎重に進まなければならない。

 軍隊蜂を壊滅させたものの、依然として新宿遺跡は人外の領域なのだ。

 今日中に二十三号機(シグ)を回収し、帰還するのは不可能だろうと思っていたが、やはり大所帯となるとどうにもまどろっこしいと青島は思いながら、隊列に従い上を目指していく。

 先遣隊が露払いしてくれているおかげで殆ど接触しないものの、旧都庁があまりに広大な所為か取りこぼしの征服種(レックス)はちらほらと残っていた。その度に伍行は、それぞれ癖のある隊員たちを的確に使いこなす。

 戦うべきか迂回するべきか、戦うのならどの隊員に任せるべきか、迂回するならどのルートを使うかなど、基本的に考えるのは全て伍行一人で、隊員は誰一人伍行に意見すること無く、いかに伍行の指示を的確にこなすかを考えているような動きだった。

 もうまもなく50階というところで、伍行が不意に立ち止まった。

 なんでもこの先の44階は、先程同様階全体が征服種(レックス)の巣のようになっているらしいが、食い荒らされた亡骸が、どうも征服種(レックス)の中でも手に負えないタイプの物のようだ。

 つまり、この巣の主はそれ以上に危険ということになる。

 正体は分からないが、近づかないに越したことはないだろうと説明を受け、伍行分隊はさらに迂回して上を目指していくのであった。


■青島〉μ『そういえば前も聞いた気がするけど、μ(ミユ)は仲間を回収してどうするんだ?』


 伍行は青島たちにはちっとも戦闘を任せないので、半ば退屈気味だった青島はなんともなしにミユに質問した。

 μ(ミユ)は意外だったのか、驚いた顔で青島に振り向く。

 二十三号機(シグ)を回収したいと言い出したのはそもそもμ(ミユ)なのだから、それ程意外な質問だったろうかと青島が首を傾げていると、


『まだ分かりません……そもそもσ(シグ)がまだ起動出来るかどうかも不明ですし、ひとまず回収してみないことにはなんとも……』

 μ(ミユ)にしては珍しく要領を得ない答えだったが、確かに肝心のσ(シグ)の状態が分からないことにはどうしようもないかと納得し、青島は再び黙々と隊列についていった。

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