第23話「古の摩天楼」
フォトンの基本五色には、それぞれ特色がある。
白いフォトンを持つものは、バランスよく様々な特別兵装を使いこなす傾向がある。光子回復装置、フォトンシールド、飛行パックやフォトンブレードと隙のない万能型ではあるが、白だけずば抜けた得意分野というものがないのが欠点と言えるだろう。同様の回復機能を持つ緑や、飛行や情報戦を得意とする青いフォトンを共に宿す場合もある。
青は五色の中で最もトリッキーな色として有名だ。電脳スキル、飛行能力、撹乱能力と、主に搦め手が得意な色だ。基本的に専門職で、ハッキング能力がある者に飛行技能は見に着かない等、何か一点を極める傾向にある。ごく稀に情報制御をサポート出来る白や、光学迷彩を持つ黒を同時に発現させる者もいるが、他の色に比べて人数は少ない。
黒も青同様職人気質な色である。基本的に一撃必殺を旨とする為、スナイパーとの相性がいい。しかし五色の中で最も人口が少ない為、未だ傾向が定かになっていない。コンピューターウイルスを精製出来る青や、一撃の火力を増す赤を同時に持つ場合が僅かながらに報告されている。
五色の中で一番火力に秀でているのが赤だ。距離を問わず最大威力を持つ武器は、全て赤いフォトンと相性がいい。黒いフォトンとも相性がいいので、攻撃一辺倒と思われがちだが、意外にも緑色のフォトンとの親和性も発見されている。しかしこれも回復に使う生命力を攻撃に活かしているので、あながち誤解とも言えない。
緑色のフォトンは最もシンプルな色である。パワーか回復、この二択しか存在しない。高出力擬似腕やフォトンヒーリングが得意だが、バランスの白や近接武器を活かせる赤以外のフォトンとは相性が悪いようだ。
もっともこれらは今までの奪還者たちのデータを集めた上での傾向でしかない。攻撃が得意な青もいれば、搦め手が得意な赤もいるだろう。絶対的な判断基準には足り得ないと追記しておく。
――――『日本要塞都市本部 富士に残るフォトン研究の資料』より一部抜粋
旧都庁とは、いくつもの巨大な遺跡が並び立って構成されている。
μが提示したσの眠っている座標データは、その中でも特に高い第一庁舎と呼ばれる遺跡の上層部を指している。
かつては頂上部が二つの塔のように分かれていた第一庁舎も、今は片方が崩壊してしまっているものの、その雄姿はいささかも損なわれることなく、新宿遺跡の象徴として天高くそびえ立っている。
伍行分隊は遺跡群を抜け旧都庁の真下に辿りついたところで、その途方もない巨大さに目をくらましていた。
見上げようにも真下からでは頂上は霞んで見えない。
これが本当に人の手で造られたものなのかと、分隊全員が心底驚いていた。
■小此鬼》分隊員『ったく、でかきゃいいってもんでもねぇだろうに……こんなでけぇと、掃除すんのも一苦労だったんだろうな』
■毒島》分隊員『無駄にでかくて手入れが面倒……まるで小鬼の胸のようだし』
遺跡泥棒たちを殲滅した青島達は先遣隊と合流したが、面子はほとんど先月にコクーンタワー調査に赴いた伍行分隊で構成されていた。
顔なじみが多い所為か、人外圏にいてもどこか陽気な雰囲気が流れていた。
鉄拳を加えようと小此鬼は毒島を追おうとするが、毒島はわざわざパワードスーツのステルス迷彩を使ってまで熊野の影に逃げ切った。
熊野は呆れて物も言わず、正面を向いたまま背部に装着してあるサブアームで毒島の襟首を掴むと、小此鬼の眼前に差し出した。
小此鬼がすかさず拳骨を加えると、サブアームは毒島を解放する。
■熊野》分隊員『馬鹿なことやってないで行くぞ』
それらを伍行は黙って見過ごしている。もっとも伍行が何も言ってこないという安心感があったからこそ、隊員達も冗談を挟んだのだろうが。
■伍行》分隊員『……陣形はさっきの通りに、発砲は俺の合図を待て。今のうちにオートマタも展開しておけ』
伍行の合図に周囲が色とりどりの光子に包まれ、隊員たちの周囲に各々のカスタマイズを施されたオートマタが展開される。
ふと青島は、毒島だけオートマタを展開していない事に気がついた。
■青島》分隊員『あれ、毒島さんもオートマタは持ってないんスか?』
■毒島》分隊員『相変わらず青島は目ざといし。ボクのオートマタは戦闘用じゃないから今出しても意味ないだけだし』
どこかどうでもよさそうに『なるほどなー』と感心する青島を尻眼に見つつ、伍行は隊員たちに号令をかけていく。
■伍行》分隊員『それでは潜入開始……もし敵を発見したら即報告しろ』
今回の奪還は、五行分隊の他にもさらに二つの分隊を同時展開させているので、かなりの大所帯になっている。
とはいえ先に二つの分隊が先行し、安全確認を行ってから伍行分隊が進むので、実際のところ伍行分隊の役割は青島の護衛と監視ということだ。
警戒態勢をとりながら上階への階段へ進む途中、ふと青島は背後に気配を感じる。
ようやく冷静になったμも気がついたのか、指をクラシックの指揮者のようにスッと降ると、青島の視覚モニターには伍行のステルス型オートマタ、黒の三號が映し出された。
■青島〉μ『監視……のつもりかな?』
『恐らく……タツヤ、先程は私としたことが失態を晒しました。申し訳ありません』
すまなそうに謝るμに、青島はゆっくりと首をふった。
■青島〉μ『ミユは俺を守ってくれたんだろ? 何の問題もないさ……問題なんかいないんだ』
どこか自分に言い聞かせるように呟く青島に、μは若干怪な態度を取るも、それ以上何も言ってこないで、いつものように青島の周りをフワフワと浮きながらついていく。
遺跡を進みながら、青島はチラリと伍行の黒の三號に目を向ける。
この機体には、感心を通り越して恐ろしささえ感じてくる。
オートマタがいくら優れた光学迷彩を使っていても、臭いや音を消す事は出来ない。
ましてや人間のように抜き足など出来ないオートマタが、全く音もたてず移動しているということは、おそらくパワードスーツ用の反重力装置を使っているのだろう。わずか数㎝、数㎜でも浮いていれば足音は立ちようがないという訳だ。
だがいくらパワードスーツ用でも、精々跳躍力を増したり着地のショックを和らげたりする程度の出力しかない反重力装置で浮く為には、ボディはほとんとスカスカにしなければならない筈だ。
入念に考えられたカスタマイズもさることながら、真に恐るべきはそんなオートマタ容易に操作し切る伍行のテクニックだ。
黒の三號一体操るだけでもかなりの集中力を要するだろうに、伍行は隊員に指示を出し自分も行軍しつつそれをこなすのだから、やはり感心というより恐ろしいと言うべきだろう。
そうこうしている間に、一行は二階への階段を発見する。このまますんなり目標地点まで階段が崩れてなければいいのだが一行が昇り始めようとすると、伍行がすぐに停止するよう指示を出した。
伍行から送られた動画データを見ると、階段を昇り切ってすぐのところに蟲型の征服種が、多数徘徊している様子が映し出された。
陸戦型の軍隊蜂に似ているが、尻尾の針や羽はなく、完全に地面のみを生活圏にしている大王鋏という征服種らしい。
それぞれが一メートルはあろうかという巨大な蟲達は、何をする訳でもなくグロテスクに尖った顎をギチギチと鳴らしながらうろついていた。
動画をよく見ると、フロアの奥の方までびっしりと蟲達がひしめき合っているのが分かる。おそらくこのフロアそのものが、この大王鋏の巣なのだろう。
先遣隊もここは避けて通ったらしく戦闘の痕跡はない。
伍行分隊も指示された迂回ルートに沿って、さらに上層へと向かうのであった。




