第22話「青島の用途」
遅れて駆けつけた周囲の奪還者たちは、何が起こっているのか理解出来ないまま、青い閃光に襲われる遺跡泥棒の末路をただ黙って見続けていた。
後続も含め二十人近くいた遺跡泥棒が、ものの十数秒でただの肉塊に変わり、最後の一人に留めを刺そうとした時点で、ようやく青島の意識が体に戻ってきた……それは最初に一芝居うった青年であった。
いつの間にか両足が潰れ、両手も切り飛ばされていた青年が、砕けたヘッドギアの隙間からだまってこちらを見つめている。
垣間見える虚ろな瞳が恨めしそうに見上げているのか、憎たらしそうに睨みつけているのかさえ青島には分からない。
どうしてこうなったのか、どうしてこんな事をするのかも分からないまま、同じように無感情に見下ろしていた青島は、何も言わず手に持つ翼刃を青年に振り下ろす。
頭部を両断され、断末魔も恨み声も上げないまま青年は静かに息絶えた。
全自動戦闘支援誘導システムが止まり、青島が纏っていた青い光が消えていくと同時に、回りに奪還者が集まってきた。
■伍行》中隊員『任務完了。先遣隊は各隊長の指示に従い、帰還するものと伍行隊に合流するものに分かれてくれ』
■伍行〉青島『どういうつもりだ?』
相変わらずテキパキと指示を出しながら、伍行は同時に青島を問い詰めてくる。
■青島〉伍行『……質問の意味がわかんないっス』
■伍行〉青島『どういう考えで、これをやったのかと聞いているんだ』
青島を問い質す通信の裏で、他の奪還者に指示を出しているようだが、そちらは青島の耳には入らない。
もっとも伍行の忠言すら、今の青島の心には届いてはいなかったが。
■青島〉伍行『別に何も考えてないっスよ……ただ殺れって言われたから殺っただけっス……隊長も言ったじゃないっスか、用途を果たせって。俺の用途はμの言う通りにすることなんだから、問題ないっスよね?』
珍しくμが口を挟まないと思いぼんやりと周囲を見回すと、μはまだ怒りが抜け切っていないのか、何も言わずワナワナと体を振るわせていた。
自分を守る為に怒ってくれた事は素直に嬉しかったのだが、それ以上に何か空虚な感情が青島の心を埋め尽くす。
全自動戦闘支援誘導システムに体を明け渡している間、何か見たような気がしたがそれも思い出せない。思い出せないのならば、大したことではないのだろうと青島は思考を放棄する。
■伍行〉青島『そうか……』
それきり伍行は個別の通信を打ち切ったが、青島も特に何も言いださず黙って指示に従い隊列に合流して再び都庁を目指し始める。
青島は去り際にチラリと青年の死体を見下ろしたが、やはりなんの感慨も沸かず、すぐ目を逸らすのであった。




