第十四話
もしかしたら今日中にもう一話あげるかも。
この世界は地球とかなり似ている。1年は360日で12ヶ月、1週間は6日。だが、曜日などはなく、週末に休養日が一日必ずあるくらいだ。
時間も一日24時間となっていて、朝六時から午後九時までの間に三時間おきに、一の鐘、二の鐘といった形で時計台の鐘が鳴るようになっている。まあ、時計は高価なのか、王城と時計台くらいでしか見たことはないが。
三の鐘が鳴った頃、四季と一緒に食堂に向かうと、すでに他の勇者たちは揃って俺たちを待っていた。
あれ、騎士達がいない。もしかして勇者だけで迷宮に潜るのだろうか。
そんなことを考えていると、食堂にリアが入ってきた。
「皆様お揃いのようですね。それでは出発したいと思います」
うーん、やっぱこのメンバーだけで行くのかな。甚だ不安だ。
明らかにトラブルの匂いしかしない。外で待っていることに一縷の望みをかけて、リアに聞いてみることにする。
「なあリア、騎士達ってついてこないのか?」
「ええ、迷宮には皆様方のみで潜っていただきます」
まあ、ですよねー。
あれかな、まがいなりにも騎士だから、王都からは出せないってことかな?
いや純粋に実力差もあるか。今の俺たちの実力からしたら、騎士団長以外では副団長二人を除いて足手まといにしかならないからな。そう考えると正しい判断か。
そんな事を考えていると、何を勘違いしたのか、西原先輩が俺を煽ってきた。
「はっ、なんだ、ビビってんのか?そんなんだから偽勇者とか言われんだよ!」
楽しそうだなおい。
まるで鬼の首を取ったような反応だ。何でこいつは俺に対していつも喧嘩腰なのやら。
面倒だが、俺ではなく隣の四季が怒りそうだったので、とりあえず手を握ってやり落ち着かせてやる。
「あのさ、別に俺はあんたみたいな小物に何言われても気にしないけどさ。チームワークとか考えろよ。たった七人しかいないんだから、協調性とか大事にしろよ」
まあ、気にしないと言いつつも全くムカつかないわけではないので、小物と言ってやることで溜飲を下げる。
今回はこれで勘弁してやろう。あんたの想い人も、笑いを堪えて普段の鉄面皮が剥げかかってるしな。ざまあみやがれ。
思わず嘲るような笑みを浮かべた俺に気づいたのか、それとも北川先輩に笑われそうになったことに傷ついたのかは分からないが、急に俺を睨んで怒鳴ってきた。
「てめえ……俺のことバカにしてんのか!やろうと思えばテメーなんざ速攻でぶっ殺せるんだぞ!」
俺は普段訓練の時など、適度に手を抜いているため他の勇者には俺が弱いと思われている。
なのでそれも分からないようなやつに何を言われても何とも思わないのだが……。
「いい加減にしてよ!いくら先輩だからって言っていいことと悪いことがあるでしょ!」
残念ながら、四季は我慢できなかったようだ。
まあ、怒ってくれること自体はありがたいんだけどなあ。
「うるせえな、てめえには関係ねえだろ!」
「大有りよ!あなたのせいでみんなの空気が悪くなるでしょ!もうずっと黙ってなさいよ!」
うーん、相変わらず暑くなると口調が変わるな、四季は。
と、そんなことよりもそろそろ止めないとだな。リアも困っちゃってるし。
だが、どうやら手遅れだったようだ。北川先輩が背後に黒いオーラを立ち昇らせて二人に近づいた。
「ねえ」
「あんだよ!……って、麗!?」
ん?今西原先輩、北川先輩のこと名前で呼び捨てにしてなかったか?
「私たちはこれから死ぬ危険もあるようなところに行くのよ?さっき楠くんも言っていたけれど、今から仲間と喧嘩してどうするの?それで誰か死んだら責任取れるの?」
あー、結構怒ってるな、生徒会長。
さっき名前呼びされてたことも考えると、向こうにいたときから仲良かったのかな?だからこそ過剰に厳しくしてるのかもな。
「はっ、誰が死のうと知ったことじゃねえよ!俺と麗、あと女どもくらいは守ってやるが、それ以外はどうだっていいね!」
あーあー。
そんなんじゃ北川先輩が振り向いてくれるわけないだろうに。アホなのかこいつは。
サラッと俺と樹は死んでも構わない発言をされたが、そんなことも気にならないほど西原先輩が哀れだった。
「……相変わらず最低ね。あなたはどうでも良くても私たちは良くないのよ。もうこの際口を開かないでくれないかしら?それが嫌ならもう意味もなく楠くんや南条さんたちに絡んだりしないで頂戴」
おおう、あの誰にでも優しい生徒会長がここまで言うとは。視線におよそ熱というものが籠ってない。
あ、西原先輩少し震えてる。まあ好きな人に睨まれて喜ぶわけもないか、変態でもあるまいし。
「南条さんも南条さんよ。こんな人、まともに相手しなければいいのよ、楠くんみたいに」
「ご、ごめんなさい……。ゆーくんがバカにされたと思うと、つい……」
あ、ションボリしてる。うーん、普段ならほっとくけど、今回は半ば俺のせいみたいなものだし、少し助けてやるか。
「あー、北川先輩、そこまででお願いします。今回のは俺も悪かったですし……それにほら。早く出発しないと、リアも困ってますよ?」
俺の言葉に、ようやく北川先輩も落ち着いてくれたようだ。一つため息をついた後、少し苦笑いを浮かべる。
「ごめんなさい、あなたが気にしていない以上、私がどうこう言うことじゃなかったわね。それに、早く出発するために止めようとしたのに私が熱くなって話を長引かせているんじゃ世話ないわよね。フェシリアさんも、ごめんなさい」
そう笑いながら言った北川先輩に、俺は思わず見惚れてしまった。
この人こんなに美人だったのか。いつも鉄面皮みたいだから知らんかった。
そうして少しボーッとしていると、まるで考えを読んだかのように四季と茜が俺の頬を抓ってきた。
「っっ痛ぇ!何すんだよお前ら!特に四季!折角止めてやったのに!」
「ゆーくんが生徒会長に見惚れてるのが悪い!」
「そうだよ!見惚れるなら私に見惚れてよゆー兄!」
そんなことを言っている二人にどうすればいいのか分からず混乱している俺を見て、リアと北川先輩は、思わず顔を見合わせて笑うのだった。
い、一応出発したから!