第五話
今更ですが一万pv突破してたので記念に。
どうにか落ち着きを取り戻した俺は、モフりたい衝動をどうにか我慢し、当初の目的通りにオススメを聞くことにした。
「あの、オススメとかってありますか?」
「はい〜。つい最近、オルバフォメットの群れが討伐されたばかりですので、そのステーキなんかがオススメですよ〜」
ステーキか。そこまで長居するとは思えないけど、周り見てるうちにお腹空いてきたし、まあいいか。
「それじゃあ、それでお願いします」
「かしこまりました〜。オルバフォメットのステーキですね〜。すぐお持ちしますので〜、少々お待ち下さ〜い」
そう言い残すと、あっという間に厨房に走っていった。さすがは冒険者ギルドの酒場で働いているだけはある。なんとも動きの早いことだ。
ちなみに、オルバフォメットとは端的に言うと毛の無い牛の魔物である。
オルとはこっちの世界で「ハゲ」を意味し、魔物化することで火魔法を操る能力を得て、冬場でも体温を高く維持出来るようになり毛が全て抜けたところからその名が付いたらしい。
らしい、というのは、後から名前を付けたのに鑑定で名前が表示される理由が分からなかったためだ。
この事について王城で聞いてみたりもしたが、誰も彼もが「女神様が〜〜〜」だのと抜かして詳しいことがわからなかったため、とりあえず保留ということにしておく。
そうして益体もないことを考えていると、すぐにさっきのキツネの獣人の店員がステーキを運んできた。
……そう、運んできたのだ。台車に乗せて。
(ちょっと待て。これグラム単位で量れるレベルじゃないぞ?どう考えてもキロ単位だろ…)
そう、そのステーキは、もはやステーキと言うよりもただの丸焼きのような物だった。どう見ても子供と同じくらいの大きさはある。それでも魔物として見れば小さい方なのだろうが。
「お待たせしました〜、オルバフォメットのステーキです〜。熱いのでお気をつけて食べて下さ〜い」
「そこ!?注意するところって温度なの!?どう考えてもこんな大きさのステーキ一人で食べろって無理あるんだけど!?ってかそもそも、こんなサイズの肉ステーキって呼ばねえよ!」
余りの事態に驚き、思わず敬語を使うのも忘れる俺だった。
が。
「あれ〜?お一人で食べるんですか〜?てっきり勇者様方全員で食べるとばっかり〜……」
キツネの獣人の店員が微笑みながら言ったその一言を聞いて、俺は一気に警戒レベルをマックスまで引き上げた。
なぜなら、俺たちが勇者であるということはあの時その場にいた人間と王族、貴族の一部を除けば、よほど地位の高い人のみにしか知らされていないからである。
つまりそのことを知っているこの店員は、ギルドでもかなり権力を持っているということになる。
「…一応そのことは箝口令が敷かれてるはずだけど……。何で知ってんの?ただの店員じゃねえよな…。あんた、何者?」
「ああ、やっぱり〜!貴方も勇者様なんですね〜!是非一度お会いしたかったんです〜!握手して下さい、握手〜!」
「い、いやあのさ…。質問に答えてくれよ…。握手ならあとでいくらでもするからさ」
余りのフレンドリーさに、毒気を抜かれてしまった。もしこれを狙ってやったのだとしたら大したものだが…。
「分かりましたぁ、ちゃんと後で握手して下さいよ〜?……コホン。改めまして、私はリーナ・ウェルフェンド。18歳、三つ星冒険者です〜」
……ん?
「ウェルフェンド…?」
「あ、ギリアス・ウェルフェンドは私の父親です〜。よく似てないって言われるんですよ〜、……まああんなゴリラみたいなやつに似なくてよかったですが」
「いやそこまで言わなくても……って!?騎士団長の娘ぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「はい、そうですけど〜?そんなに驚きます〜?」
「そ、そりゃまあ…」
あんなゴリラからこんな可愛い娘が生まれるとは思わないだろう。
と喉まででかかったがそれは何とか堪える。
「てか、あいつはケモミミなんて生えてなかったよな……?いやまあ生えてたら気持ち悪いけど。ゴリラにケモミミとか誰得?って感じだけど。てことは、もしかしてハーフなのか?」
そう。
それが二番目に気になったことだった。
人種についての説明は受けたが、ハーフやクォーターなどについての説明はなかったのだ。
ファンタジーでは、よくハーフは迫害される設定が使われていたので、気になったのだが。
「はい、私は人と獣人のハーフですよ〜?あっ、別に迫害とかはされてないので、気にしないで下さいね〜?まあ、一部の地域では迫害されてるハーフもいるそうですが…」
とりあえずその一言を聞いて安心したのだった。
なぜなら。
(これで獣人とでも心置き無く子供が作れる……!)
という理由があったからだ。
この世界は一夫多妻が許可されている。
それなりの地位の人間に限るが。
冒険者でいうなら、二つ星以上で一夫多妻が許可されるのである。
せっかく異世界に来て、しかも勇者なんてネームバリューのある職業についたのだから、ハーレムを目指すしかない、と考えていたのだ。
他種族との子供を作っても迫害されないというのは、ハーレムを目指すにおいてかなり重要なことだった。
そのため、握手をねだるゴリラの娘や、その娘がなぜ勇者を知っていたのか、それどころか運ばれてきたステーキのことまで忘れていても、致し方ないことだった。
……ちなみに勇真が正気に戻る頃には、無視されていたキツネの獣人が膝を抱えていじけていたのだが、機嫌を取るためにステーキを半分以上分けなければいけなくなったのは余談である。
この牛、大人の牛でもそんなに大きくありません。文中の通り、人間の子供サイズです。なぜそうなったのかは……機会があれば本文で説明します。なければ暇な時にどこかに書き足すなりします。