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カゼキリ風来帖  作者: ソネダ
カゼキリ風来帖(8) ~ 山陰奈落の変 の章
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山陰奈落の変 の章(29) ~ カゲロウ分身

 すぐに腰元の刀へ手をかけると、風切あやかは颯爽とウェンシアへと切りかかっていった。

 「あやかさん、そちらはあなたにお任せします!私とせきさんはクァーシアと邪炎獣を叩きますので、あやかさんはウェンシアの相手に専念してください!」

 後ろからサキの声がして、風切あやかは、

 「分かった!!」

 と強く答えて、目の前に居るウェンシアと向き合った。

 ウェンシアは棒立ちである。武器を持っている訳でも戦うための構えをとっている訳でもない。

 このまま速攻で攻撃に転じたならば、

 「間違いなく、斬ることができる!!」

 はずであった……のだが、

 「…………なっ!!」

 斬った!と思ったはずのウェンシアが霧となって消えた。

 まるで炎でも斬ったかのように、風切あやかの黒刀は宙を泳いだ。

 「カゲロウ分身だな。煙に巻くのはコイツらの得意技だよ」

 「その通り、よく覚えてくださいましたね」

 後ろから声がした。風切あやかが振り返ると、そこにはウェンシアが居た……しかし、ただ『居る』訳ではない。

 「分身……って言ってたが、こういうことなのか?」

 そこにはウェンシアが3人立っていた。

 「ま、分身だからな。攻撃を回避するだけに使う術じゃないんだよ」

 「そういうことさ。もっとも、これを使えるのは今じゃ、僕くらいのものでね」

 「確かにそうらしいな……」

 もともと、地底に住んでいる者達は炎の精であり『死霊』であったのだ。

 炎の精であるが故に、炎を操ることは勿論、熱を利用した術を習得しているのが通常であったのだから、大昔の火焔族はほぼ全員が、ウェンシアが使うような『カゲロウ分身』を大なり小なり使えていたのだった。それが今は、

 「使えない」

 のである。

 それは戦うことを忘れてしまったからなのかもしれない。

 大昔の地上との戦いを経て以来、地底の炎の精……もとい『死霊』達は戦うことをしなくなった。それに伴い、戦うための戦闘技術を時が経つにつれて消えて行き、最終的には種族としての『死霊』を捨てて、

 『火焔族』

 と名乗るようになったのだった。

 ナオキから見ても、火焔族のこうした変化は、あの会議室で火焔族を見ていた時には見て取れていた。しかも、それだけではなく、彼等が帯びている魔力の質も大昔とは、

 「まるで別物だな。こりゃ」

 となっていて胸の内で苦笑していたものだった。

 さて……

 カゲロウ分身により、風切あやかが立ち向かう相手『灼炎貴公子』邪炎霊ウェンシアは3人となっている。

 「おい、こんなの聞いてないぞ!?」

 「俺も忘れてた……が、所詮は分身だぜ。本物は一人だけだ」

 「さすがはナオキさま。ご名答」

 3人のうち、1人のウェンシアが笑いながら手を叩いている。他の二人は小さく微笑を浮かべたまま棒立ちでいるところを見ると、

 (あの手を叩いているのが本物か……)

 と見て取ることができるだろう。

 「そうそう。僕が3人居たら、クァーシアを取り合うことになってしまうからさ。だから、分身を作っても本物は一人だけにするようにしているんだよ」

 「……けっ、お前達はいつもそうだもんな」

 ちなみにクァーシアもまたカゲロウ分身を行うことができる……できるのだが、彼女が生み出す分身は、

 「猛る炎を纏った獣……」

 つまりは邪炎獣なのである。

 地上の水の精にもこういった傾向はあるのだが、そういった精霊の作る『分身』というのは、

 「本人の性格や資質、それに人生経験によって異なる……」

 場合が多いのだ。

 例を挙げてみれば、地上の水の精は『水分身』というウェンシアが使う『カゲロウ分身』と同質の術があるのだが、その『水分身』は術者によって、

 「ヤマメ」であったり「ニジマス」であったり、または「カエル」であったりなど、様々なものがあるのだ。

 更に一部の上級水霊ともなれば「人魚」といったようなものまで作り出すというのだから、中々に奥が深いものである。

 蛇足ながら、こういった話は護山家ではあまり知られてはいない。分かっているところで分身の種類は、

 「水の精によりけり」

 であるといったところだろう。

 「さて、君に本物の僕を見抜くことができるかな?ちなみにクァーシアは、いつでも1発で僕を当ててくれるんだ。最高で……30人は出したことがあったけど、それでも1発で当ててくれるのさ」

 「くっ……なめるな!!」

 風切あやかは先ほど手を叩いていたウェンシアへ駆け寄ると、自慢の黒刀を横へと一閃、叩き込んだ。

 「残念だなぁ。それは偽者だよ」

 風切あやかが一閃したウェンシアは煙とともに消え去り、残った2人のうちの一方が、

 「本物はこっち」

 と手を振っている。

 「ちっ!!」

 一つ舌を打ち、更にその手を振っているウェンシアを斬りつけるも、

 「ハハハ、君もせっかちだなぁ。もう少しちゃんと見極めてからやらないと」

 今度は後ろから声がした。咄嗟に振り向きざまに刀を振り上げる風切あやかであったが、

 「くっ……!!」

 僅かに刀身ウェンシアの身体へは届かず、それをウェンシアは後ろに飛び上がり、回避してしまっている。

 「おい、ナオキ、このままじゃどうにもならないぞ。何か良い方法はないのか?」

 「いい考えならある……が、お前がうまくやれるかどうかは分からないぜ」

 「分かった!それをやる。どうしてもやる!!」

 「ま、嫌でもやらせるけどな。どちらにしてもやるなら今しかないからな」

 宙で3回転、それにひねりを加えてウェンシアは床へと着地した。

 それと同時に、先ほどの風切あやかの攻撃で掻き消えた2体のカゲロウ分身が再び現われた。

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