山陰奈落の変 の章(28) ~ 満場一致
「こんないい所で待ち伏せとは、中々気が利くようになったじゃないか?」
「それはもちろん。この晴れ舞台を見てもらうには……」
「特等席でなければならないでしょう?」
部屋の奥から二つの声が響いている。
一人は赤いタキシードを着ている赤い髪を短く流した少女である。そしてもう一方は、赤いドレスを着た同じく赤い髪をした少女……もっともこちらは先ほどの少女と違って髪は長い。
「手前の奴はこの前みた奴だな……名前は、ウェンシアだっけか?」
「ああそうだ。奥に居る方がクァーシアだな。オレも見るのは久しぶり、昔とまったく変わってないぜ」
ということらしい。
奥に控えているクァーシアには黒い炎を纏った邪炎獣が3体、彼女を護るように静かに佇んでいる。
「思ったよりも少ないじゃないか。もっと居るんじゃないのか?邪炎獣は」
風切あやかやナオキ一行に対して、立ち塞がっているのは、ウェンシアにクァーシア、それに黒い邪炎獣3体だけであった。
他には一切いない。外を護衛している邪炎獣を中へ置いておけば、いくらでも彼女達は有利になるだろう。しかし、ここにいるのはそれだけなのである。
「あまり数がいても良くないでしょう。私達としても、無駄な争いはしたくは……」
「ないのですよ。ナオキさま。あなたの実力はよく知っています。そんな姿になっているとはいえ……」
「私達を圧倒するだけの力は十分にお持ちでしょう?ですから、出来るだけ、話し合いで済ませようと……」
「僕達は考えているのです。」
小さく笑いながらクァーシアとウェンシアは話している。
(……コイツら、そんなつもりはまったくないな)
風切あやかは眉をひそめた。クァーシアとウェンシアの様子はとても信じるに値するものではないのだ。
態度こそは穏やかで、戦いを始めよう……という意思は出してはいないのだが、
(どうにも私達のことを見ていない)
そのことが見てとれるのだった。
一応は、『話し合い』を申し込んではいるのだが、当人達にはそのつもりがない……言うなれば、そういったことを、
「楽しんでやろう」
としているというべきだろうか。
クァーシアとウェンシアが浮かべている小さな笑みも、それを含んでいるように見えるのだった。
風切あやかの後方にいる佐渡せきでさえ、戦いを避けられる二人の提案に楽観的な考えを持ってはいないようだ。険しい顔をして二人を睨んでいる。
サキも同様だが、もとより戦いのうえでしか、この問題を
「解決することは出来ない……」
と決心していたので、二人の提案があろうとも既に臨戦態勢へと入ってしまっている(もっとも、戦いの構えはとっていないが……)
「意見は満場一致みたいだな」
ナオキが呟いた。
「ふっ、私達は貴方がたのことを思って、停戦を呼びかけたというのに……」
「そうさ。僕達の計画が成就すれば、ナオキさまやアイトスの……おや、なんだったかな?火、ひ……ひえん?」
「火焔族よ、もう私達とは関係ないからって、忘れてしまったのね」
「勿論、僕が覚えているのはクァーシア、君のことだけ、だよ」
「はは、嬉しい」
「…………」
「やっぱりおかしいな、こいつらは……」
風切あやかが苦い顔をしてクァーシアとウェンシアを眺めていた。
この二人と、これから一戦を交えるのだ。その相手が、このようにふざけた態度を取っているのでは、
(どれだけの実力を秘めているのか……)
それが未知数に思えてしまう。
戦うだけなら、アイトスへ来る前に1度ウェンシアと戦ったことがあったものの、あの時とは、
「状況が……」
全く違うのである。今回の戦いは地上の存亡をかけた決戦なのだ。
「おい、あやか、もういい。アイツらのおふざけに付き合っていてはダメだ」
「そうです。あやかさん、バーンアウトには時限装置も付いています。下手に時間を稼がれても、私達の負けなのです」
「……分かったよ」
風切あやかはナオキとサキへそう呟くと、刀を構え、キッとウェンシアを睨みつけると、
「そういうことだそうだ!ここでお前達を倒してやる。いちゃいちゃするなら、その後でゆっくりとやるがいいさ」
と高らかに言い放ったのだった。




