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カゼキリ風来帖  作者: ソネダ
カゼキリ風来帖(8) ~ 山陰奈落の変 の章
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山陰奈落の変 の章(27) ~ これは罠?

「これは意外に動きやすいな」

 重たそうな見た目に反して、地底龍の鎧は、

 「軽い……」

 代物であった。

 「そりゃァ、巨大な地底龍の身体を覆っているものだからな。本体が動けるように、各所に生きる工夫があるんだよ」

 ナオキが得意そうに話している。

 「へぇ、その地底龍ってのはどんな奴なの?やっぱり怖くて強いのか……?」

 佐渡せきが恐る恐る問いかけた。自分が身につけている鎧の持ち主について、いささか興味があるらしい。

 「そうですね。この鎧をつくるのに倒した地底龍は火焔堂と同じくらいはありましたかね」

 「火焔堂……」

 正面の建物だけでも5階建ててあるという。

 もちろん、火焔堂と風切あやかや佐渡せきを大きさで比べたならば、とても比較にならないだろう。火焔堂の方がとても大きいのだ。

 そんな火焔堂と同じくらい、

 「大きな地底龍」

 と話すのだから。とても想像できたものではない。

 「大きさは大よそ21m、地底でも特に奥地に生息している龍で、たまにアイトス周辺にも上がってくるんですよ。あやかさん達に差し上げたものはそうですね……100年ほど前に倒したものでしたでしょうか」

 「へぇ、100年……って、えっ!?差し上げるって、この鎧、もらっちゃっていいんですか!?」

 「もちろんですよ。そうでもしないと、私達も気がおさまりません――本来なら、私達で解決しなければならないことをあろうことか、地上の方々へと強力を求めてしまっているのですから」

 そのことを思うとサキは胸が痛むのであろう。顔を落としてしまった。

 「こいつはな。地底世界じゃ最高級の宝なんだぜ?地上へ持って帰ってみろよ、何処へ出ても恥ずかしくはないぜ」

 ナオキが無邪気に笑いながら、風切あやかの地底龍の鎧をバンバンと叩いている。

 「そういうこったから、気にすんなよ。いざとなったら俺がなんとかしてやっからさ。地上のこともバーンアウトのこともな」

 「ナオキさま……」

 「だー!!から『さま』はいいだろ?今はオレよりお前の方がエラいんだから、オレを『さま』付けする必要は全くないの!!分かったか?分かったな!!」

 「はっ、はい……」

 「そんじゃもう行くぞ。いつまでもぼやぼやしている場合じゃない……ま、それでもケリはちゃちゃっとつけてやっから、留守の連中はメシを作らせておくように言っとけよ」

 「……はい。あの時は流れてしまいましたけど、今度は……今度こそは戦勝会……いえ、地上の方々との『交流会』を開きましょう!!」



「わあぁ……」

 声が響いている。

 「いよいよ始まったみたいだな」

 風切あやかが言うように、バーンアウト正面では邪炎獣よ火焔族の戦いが開始したのだった。

 その声と騒ぎを聞きつけて、邪炎獣は大地を蹴って移動していく。火焔族の声に負けないような、高い咆哮をあげながら進んでいくのだ。

 そうした火焔族とサキの考えた『陽動作戦』はどうやら、

 「成功したみたいだな」

 ナオキが頷いた。

 バーンアウトの裏手を見渡す限り、邪炎獣の姿はどこにもない。

 「むしろ1匹もいないのはどうなんだろ?」

 佐渡せきはぽつりと言ったものだが、

 「そんなこと言ってる場合じゃないだろ」

 風切あやか以下、ナオキやサキは一切取り合わない。

 もしもこれが罠であったとしても、だからといってどうすることもないのだ。

 「時間がない。猶予もない」

 なのである。

 「出てくる奴は問答無用でブチ倒せ!生きて残しとく必要はまったくないからな!!」

 「わ、分かったよ」

 思わずナオキの迫力に押され気味の風切あやかであった。

 さて……

 バーンアウトへ侵入してからというもの、やはり、

 「敵との接触……」

 がない。これはどういうことなのだろうか。

 「さすがにちょっと変だな。おい、サキ!どう思う?」

 風切あやかの肩の上へとまっているナオキが、前方を走るサキへと声をかけた。

 「ええ。私も準備運動に邪炎獣の100匹や200匹倒すつもりだったので、これには拍子抜けですね」

 「…………」

 さらりとサキは言ったものだが、邪炎獣の『100匹や200匹』というのは、風切あやかや佐渡せきにとっては、

 「とんでもない数……」

 であることは言うまでもない。

 まともに戦うとしても5匹が精一杯といったところだろう。

 「おい、あやかはどう思う?」

 「な、いきなり私に話を振るのか……?」

 正直、サキの話だけでもついていけない風切あやかなのである。

 そんな自分が意見を話したところで、まったく参考にならないのではないだろうか……。

 そのうえ、風切あやかは地底世界のことなどまったく知らないのだから、

 「そんなこと知る訳ないだろ……」

 というのがもっともなのだが、

 「あやかさん、どうでしょうか?」

 サキが期待の眼差しで意見を求めるものだから、何も答えないのも申し訳なく思い、

 「も、もしかしたら、奥で待ち構えているとか、あるかもしれないな」

 苦し紛れに思ったことを口にしてみたものだった。

 「…………」

 「…………」

 ナオキとサキが真面目な表情で風切あやかを見ている。

 (おいおい、あてずっぽうだぞ!?そんな顔をされても……)

 当の風切あやかは困ってしまう。現に、今は顔から火が出そうな思いをしているのだが、その一方でサキは、

 「なるほど!!」

 と真に迫ったような声を発すると、

 「あやかさんもそう思いますか!実は私もそう思っているのですよ!!」

 と大きく頷いて応えたではないか。

 そして何かを確信したような綺麗な光を称えた瞳を見せ、

 「恐らくはこの先に、邪炎獣を100匹や200匹……あるいはそれ以上を集めて待ち伏せていることでしょう!これは気を引き締めなければいけませんね!!」

 高らかに叫ぶと腕を2,3度振るい、闘志をむき出していた。

 「そ、そうですね……」

 風切あやかは閉口して、サキを眺めていた。

 これが地下世界の住民の考え方や行動なのだろうか?

 (思考や言動がぶっとんでいて、正直、着いて行きづらいぞ……)

 心の中で苦笑をしていたものだった。とはいえ、悪い人柄ではないのは風切あやかにも十分なほどに分かっている。

 (――自分と同じで真面目な人種なんだ……真面目も突き詰めるとああなってしまうんだ)

 一種、自戒の思いを胸に刻んだのだと、その後、風切あやかは高山はるかに語っていたと言われている。

 さて……

 長々と続いている廊下を進んでいくと、ついに広い部屋へと出た。

 「ここは……」

 一同が足を止めると、まず周囲を確認した。

 部屋はとても広く、その全体を炎が煌々と照らしている。

 集会場、といえばそういえるのかもしれない。机や椅子などは一切ないが、この広さならば、多くの人員を一同に集めることアできるだろう。

 「この場所なら、思う存分に戦うことができるだろうな」

 ナオキがそう呟いた瞬間だった。

 「その通りですよ。ナオキさま」

 声が響いた。

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