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カゼキリ風来帖  作者: ソネダ
カゼキリ風来帖(8) ~ 山陰奈落の変 の章
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山陰奈落の変 の章(21) ~ 作戦会議

 蒼水れいを見送ったあとで四人は炎焔堂の会議場へと移動した。

 そこには赤い着物をまとった火焔族が着席しており、サキが入室すると一斉に頭を下げた。

 「これが火焔族か……」

 風切あやかが思わず息をのんだ。

 争いを忘れて平穏に暮らすことを選んだ種族……と先ほどの会話では聞いていたものだったが、

 (ここにいる者たちは……)

 一人一人が武芸に長じている。いや、武芸であるかはどうかは分からない。地上の護山家では護山家では刀を用いた剣術に武術を主に使っている。だがここは地上世界ではなく、それとは全く違う世界……地底世界なのである。

 ともすれば武芸の具合も違うであろう。

 現にクァーシアは『邪炎獣を操る』という能力を持っているし、ウェンシアについては火炎弾を放出して攻撃をするという……。

 この会議場にいる火焔族も何かしらの武芸や能力を、

 (持ち合わせている)

 と風切あやかは感じ取っていた。一人一人の身体から、ただならない気配を感じたのだった。

 「おはようございます。早速ですが、皆様に報告があります」

 サキが挨拶をすると、会場内は静まり返り、全ての火焔族の視線がサキのもとへと集まった。

 (……見られているな)

 自然、サキの隣にいる風切あやかと佐渡せき、それにナオキにも視線が注がれている。

 「この方々は、地上から参られた風切あやか様、佐渡せき様、それに……」

 「久しぶり、だな?もう俺のことは覚えていないかもしれないが……」

 サキの紹介を遮って、会議席へ集まっている火焔族へ声を掛けたナオキであった。

 多くの年月が経ってしまっているとはいえ、元は地下世界の支配者である。火焔族がざわめきだした。

 「どうでしょうか?ナオキさま、覚えている顔はいらっしゃいますか?」

 「ああ、そうだな。結構居るな……というより、死霊の頃の名残があるからここに集まってるんだろ?コイツらは」

 会場に歓声が溢れた。どうやらナオキの登場と自分達のことを覚えていてくれたことが余程に嬉しかったらしい。

 今のナオキの姿はあの頃のナオキとは大分姿形が異なってしまっている。いや、ほとんど別物になってしまっているといって良いだろう。

 しかし、それでいて火焔族の歓声を得られたということは、

 「火焔族とナオキは強い信頼関係、主従関係で結ばれている……」

 ということになるのかもしれない。

 風切あやかも会場の雰囲気に圧倒され、只々、黙って立っているだけになってしまっている。

 「再会を喜びたいところだが、俺達には問題がある。そうだな?」

 ナオキも火焔族とその歓声を前にして、昔の感覚が蘇ってきているらしい。

 小さい鳥のような姿ながら、机に立っては声を張り上げて叫んでいる。

 「はい、ナオキさま。私達はクァーシアとウェンシアの二人からバーンアウトを奪還しなければなりません」

 「ココにこれだけの人数を集めたってことは、ある程度作戦は決まっているんだな?」

 「勿論です!」

 サキもどうやら気持ちが乗ってきたらしい。先ほどまでは見せなかった嬉しそうな明るい表情を浮かべ、ナオキの言葉に頷いている。

 「まずはこれをご覧ください」

 そう話すと会場が暗くなり、正面の幕に図面が映し出された。

 「これは……!?」

 その図面は地図のようだった……いや、それよりも、どういった仕組みでどうやってこんなものが映し出されているのか……。

 そのことの方が風切あやかにとっては不思議でたまらなかったのだ。

 地上世界でも一種の『魔術』や『まじない』といったものは存在しているし、そうした力を使えば、このように図面を壁に映し出すことはできるのかもしれない。しかし、そういったものを見たこともないし、興味もない風切あやかにとっては、

 (これが地底の技術なのだろう……)

 と思うほかはなかった。

 「現在、このようにバーンアウト周辺はクァーシアの操る邪炎獣によって防衛されています」

 なるほど、バーンアウトの裏手にあるマグマ地帯を除いては邪炎獣を示している赤い点が密集している。これでは正面の邪炎獣の群を蹴散らさない限り、

 「バーンアウトへの侵入すら難しいんじゃないのか?」

 ということになる。

 「しかし、方法はあります……バーンアウト裏手にあるマグマ地帯を進むのです」

 「……そんなことが?」

 「はい。いくら地底に住んでいる私達でも、マグマを渡って平気ではすみません。それが故に、クァーシアとウェンシアは裏手の守備を手薄にしているのです」

 なるほど、サキの話すとおり、バーンアウトを取り巻いている邪炎獣の群は地上を隙間なく埋めているのに対して、マグマの上には一切展開していない。

 「私達は長年の研究で、マグマの上を渡る技術を身につけています。あの二人は、私達と関係を全く持っていなかったので知らないことでしょうが……」

 「なるほどな。だが、邪炎獣を完全に無視することはできないな。正面の連中を引きつけておかないと、裏手の方にも流れ込んでくるだろ?」

 「そうしたことで人数が必要なのですよ、ナオキさま。ここにいる者達に正面の邪炎獣をひきつけて貰っているうちに、私達……少数の部隊で中にいるクァーシアとウェンシアをやっつけます」

 「だとしたら時間との勝負だな。中に入るのは、俺とお前とあやかと……せきだっけ?そいつでいい」

 「たったの四人でか!?」

 風切あやかが驚きの声をあげた。

 この会議場に集まっている火焔族は誰もが屈強で力強い雰囲気を持っているのだ。そんな火焔族を差しおいて、自分達……それも4人という極めて少ない人数で乗り込むなんて、

 「無謀すぎる……」

 と風切あやかでなくても思うだろう。

 しかし、会議場に集まっている火焔族からは一つの反対の声も上がらなかった。皆、黙ってナオキの提案を聞き入れているようだった。サキもまたにこにことしながら、それを聞いていた。

 「おっ、おい、いくらなんでも四人じゃ無理がある!」

 誰も抗議をしないので、仕方なく風切あやかがナオキへと詰め寄ると、

 「バカ言うんじゃないぞ」

 「それはお前だろ!?」

 「俺が決めたことだぜ?間違いなんかないんだよ。この四人でやれるといったらやれる……第一、これには他ならない俺が含まれているんだぜ?俺がわざわざそんな泥舟に乗ると思うのかよ」

 「うっ、それは……」

 そう言われれば確かにそうだろう。敵の本拠地に乗り込むのである。もしも失敗したら、

 「命はない……」

 と考えるのが妥当だろう。

 それを踏まえればナオキが自分から四人(戦えそうにないナオキを含めなければ三人)で潜入をすると言ったからには、何か考えがあるのかもしれない。

 「お前のかったーい頭でも分かるように根拠を教えてやるよ。おい、サキ、教えてやれ」

 「かったいってなんだよ。かったいって……」

 「はい。あやかさんでも分かりやすいように説明しましょう」

 「サキさんまで……」

 風切あやかが苦りきった顔でサキを見た。それを小さく笑ってサキは受け流している。

 サキの説明が始まった。

 まず少人数での突入については、あくまでも倒すべきはクァーシアとウェンシアだけなのだ。

 バーンアウトを取り巻いている邪炎獣はクァーシアが生み出し、操っているのである。つまり、クァーシアさえ倒して……いや、最低でも戦闘で気を失わせてしまえば、それだけで邪炎獣は全て消滅してしまうのだ。また、クァーシアの能力の特徴として、生成する邪炎獣の数が多ければ多いほど、一つの個体の能力は小さくなり、またクァーシア自身の能力も小さくなるのだ。つまりバーンアウトを取り巻くだけの邪炎獣を作り出しているということは、それだけクァーシア自身に、

 「負担がかかっている……」

 のである。

 それを考えれば、クァーシア自体の戦闘能力は、

 「殆どない」

 とサキは考えているのだった。

 またそうなれば、当然、クァーシアには護衛がついていることだろう。

 そこで戦うべきなのがウェンシアと護衛として傍にいるであろう上級邪炎獣なのだ。

 クァーシアの傍にいる上級邪炎獣はバーンアウト侵攻時に三体いるのをサキは確認していた。

 「戦う相手を分担します。一つはウェンシア、もう一つは上級邪炎獣三体です」

 「あやかはどっちと戦うんだ?ウェンシアか?それとも邪炎獣なのか?」

 ナオキが面白そうに笑いながら聞いてきた。

 「そっ、そんなの私が決めていいことなのか?」

 「そうですね。そこは私も聞いてみたいですわ。どちらが良いでしょうか?」

 「サッ、サキさんまで……」

 サキもナオキと同じように面白そうな顔をして風切あやかへ問いかけている。

 元上司と部下の関係であり、また主従の関係であったナオキとサキは趣向が似通っている部分があるようだった。

 さて……

 それにしても風切あやかとしては困った質問であった。

 自分が本丸のウェンシアと戦って良いものなのだろうか……?

 いや、ウェンシアは本丸だけに強力な能力と実力を有していることだろう。

 考えてみると、とても風切あやかでは相手が出来ないような気持ちがする。

 ……それでいてサキ(もとの考えはナオキだが)が戦う相手を選ばせる意図は一体なんなのであろうか。

 「じゃ、邪炎獣三体……ではないでしょうか?」

 恐る恐る風切あやかが答えた。正直なところ、どちらを選んでも互角で戦うことは出来ないと思うのだが、

 「ばーか!ハズレだよ。お前が戦うのはウェンシアの方だ」

 「なっ、なんだよ。それはそれでどういうことだっ!?」

 ナオキはウェンシアと戦う方が良いといっている。しかし、それがどういう根拠のもとにそう言っているのか、風切あやかにはとても理解できなかった。

 「確かに、大ボスはウェンシアだけどな……だが、それ以上に上級邪炎獣は強いぞ?ウェンシアを八分とすると六分が三体ってところだ」

 ちなみに通常状態のナオキは二十ほどだそうな。先の山城 暁との戦いの際に見せた状態ならば三十ほどだろう。それが今は力を使い切ったことと山城 暁に力を封じられたことにより、その力具合は三分程度になってしまっている。

 「それと見落とせないことがあってだな。恐らくクァーシアとウェンシアは地底世界の至宝、暗黒石を持っている」

 「暗黒石?」

 暗黒石は持つものの力を増大させる地底世界の秘宝である。

 もとはこの力を使って、ナオキは地底世界の覇権を握っていたものだったが、水霊である流 ヒスイとの戦いに敗れたとき、

 「諸共に封印されてしまった……」

 のである。

 そして何者か……いや、流 あさひにより封印が開放されたかと思えば、所持していた暗黒石は影も形もなくなっていたのだった。

 「その話と暗黒石がどんな関係にあるんだよ?」

 「もともとクァーシアとウェンシアは、そこまで力のある死霊じゃなかったんだ」

 「はい。普段は二人の世界に陶酔していたり、たまに悪巧みをしては周囲を扇動したり……頭は良いのですが、それをやり遂げるための力を持ち合わせては居なかったので……」

 基本的に味方を持たないクァーシアとウェンシアは、悪巧みを考えても、それをすることは出来なかった。だから、周囲を扇動し、とんでもない事件を引き起こすことを得意としていたのだ。

 その最たるものが大昔の地底世界の地上侵攻だろう。そして現代に至ってはバーンアウトを占拠、掌握へ至っているのだから堪ったものではない。

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