第一話 デウス・カエデ
『蒼い空、白い雲、豊かな大地…
上げていくとキリがないこの素晴らしい世界
これは神が作った揺らぎのない永遠の状態である。』
ゴーン、ゴーン
他の音を消しさり、空間を予鈴の音で満たす。
本を慌てて閉じる。その本には世界の歴史、と書かれていた。
ここはメーティス図書館。このエル・テヴィーナ聖騎士学校が誇る国内で最も大きい図書館だ。
この図書館では国内外から集めた本が多くあり、歴史的価値のある古代の文献も所蔵されている。
予鈴の音を聞いた生徒たちのほとんどは最高学年だろうか、卒業試験に向けて勉強をしている。皆急いでものを片付けて蜘蛛の子を散らすように皆それぞれの教室へ帰っていく。
デウス・カエドも先ほどの本を手に取り、急足で図書館を出た。
(後ちょっとだけ読みたかったな)
自分の寮を経由し、歴史書を置いてから先ほどより早い足取りで訓練場へ向かう。
丁度本鈴が鳴り、デウスはギリギリで講義に間に合った。
そこにはすでに多くの生徒たちが集まっていた。
訓練場の中央には剣を突き立てている男がいた。
「この講義で行うのは、対人戦になった時、最も有効な手段を自分なりに見つけ、実践する授業である!」
そう豪語するのは元聖騎士団団長を務めてきた、ギルフォード・バルザックだ。
聞いた話、使徒の加護を受けていて、その実力も団長の名に恥じることはない。
今回の講義内容は「対人護身術」
ぞれぞれ生徒同士で組み、お互いに技を仕掛け合う。
武器や拳法などを駆使して相手をねじ伏せる実技の講義だ。
デウスはこの講義にあまり興味がない。
なぜならこの世界は基本的に平和だからだ。元々魔王がいたらしいが、ずっと昔に勇者によって倒されている。危険、というならばせいぜい国家間の戦争と力をつけた一部の魔物や魔人ぐらいだ。
だからこの“対人”とういう名のついた講義はただの人同士の潰し合いを体現している惨めなものだ。
こんなことしてるくらいなら先ほどの歴史書を読んでいる方がいい。そうとしか思えない。
デウスはギルフォードの説明中ずっと歴史書について考えていた。
(確かあの歴史書、書いたのは勇者一行の賢者様だったな)
「そこのお前!私の話を聞いているのか!お前ずっと上の空だぞ!」
デウスは咄嗟に周りを見た。もう説明は終わっていた。どうやら今は相手を決めて組み手をするらしい。
「すみません。少し考え事をしておりました。」
言い訳をするつもりはない。ここは正しいことを言ってー謝ろうとした。
「お前はあいつと組め。」
ギルフォードが指差した方向には特待生ライド・ガエルがいた。
ライルは天使から加護を受けていると有名だった。
特待生としてこの学園に入学、自分の才能に驕れることもなく筆記試験でも学年上位だ。
だが、ライルは特待生だが模範生ではない。
講師やお偉いさんには愛想良く振る舞い、成績下位のものには軽蔑して皆の前で恥かしめを受けさせたりもする。だからこそ彼の周りには彼と同じせい
「わかりました。オイ!ライド!お前、俺と組め。」
ライドはこちらの声に反応したが声の主がデウスだと分かった途端聞こえなかったフリをした。だが講師からの指示だと知ると渋々うなづいた。
2人はは中央の闘技台に移動し、お互いに定位置についた。
「両者、はじめ!」
ギルフォードの号令でライドは拳を前にして構えた。
デウスはなんの構えも取らずにただライドを見ている。
『天技 加速』
ライドは一瞬でデウスの目の前に来ていた。
デウスは攻撃に備えて腕を重ね、防御体制を作る。
しかし、ライドは拳が腹の横に構えてあり、デウスのガードを破るつもりだ。
デウスは防御をやめ、下から上にかけて拳がくることに、対応し横へ避ける。
そのままライドを視界に収めつつ、後ろへ下がる。
「お前、危ねぇな!いきなり相手をアッパーで殴るとか頭どうかしてるんじゃねえか?」
少々煽り気味だがこれくらいじゃないと奴には響かない。
「君こそ、成績底辺らしく、地でも這いずり回っていろ。」
「うるせぇ!黙ってろ!関係ないだろ」
デウスはこんな講義は嫌だと言っておきながら実際には筆記は成績は下位の中の下位。普通、この学園では成績が極端に悪い者は3ヶ月ごとに退学処分になってしまう。
「ライド!お前は俺にどうせ勝てないんだから。煽ったって意味ないぜ。」
デウスはライドとの距離を十分にとっていた。
今のお互いの距離は2、3メートルあった。
(このくらいで十分かな?あいつを場外まで吹っ飛ばせるのは)
『神闘技 一式 鉄塊拳』
この言葉が聞こえる頃にはデウスの姿はそこにはなく、ライドが先ほどまでいた場所にいた。
皆がライドの行方を探していると、彼は闘技台の端にいた。
(あれ?少し力足りなかったかな?)
デウスが成績下位ながらも退学にならない理由、それは今回のような実戦形式の講義で必ず最高成績を得ているからだ。
「ギルフォード先生、これでいいですか?」
デウスは満面の笑みで振り返った。




