13話
そうしてシエルに市街まで道案内をされると、貧民街の鬱屈とした雰囲気から一転、明るい街並みが見えてきた。
「じゃあな、リンツ。ロボ。お前たちといるの、その、悪くなかったぜ」
「私もよ、シエル」
「ガンバレヨ、シエル」
それぞれお別れを言って、いざ市民街へ!
またキョロキョロ見回していたらカモられるもんね。
しっかりと、堂々と歩かなきゃ!
そう思っていたら通路の角にパン屋さんを見つけた。
住み込み、食事付きですって!?
なんて好待遇!
「とりあえず行ってみよっか、ロボ」
「ソウダネ、リンツ」
そうと決めると一直線!
openと書かれた扉を開いて、中へ入るとパンのいいにおい!
「おや、いらっしゃい。お嬢ちゃん、お使いかい?」
「いいえ、表の貼り紙を見たの!」
「表の張り紙って、求人募集の?ううん、お嬢ちゃんたちに務まるかどうか」
「精一杯頑張ります!」
思い切り頭を下げる。
店主らしきおじさんはそれでも唸っていたけれど、やがて大きなお腹をポンと叩くと大きく頷いた。
「分かったよ。そんな若い身空で職を求めるたぁなんか事情があるんだろう。ここで断って変なところで仕事されても目覚めが悪い。いいぜ。ここで働いてくれや」
おじさんはニカッと笑ってそう言った。
「やったぁ!ありがとうございます!おじさん!」
「セワニナル」
ロボが小さく前屈みになってお辞儀をする。
「おっ、随分と旧式のロボだな」
「はい!私の子守りロボットで相棒のロボです!」
ニコニコしながら答えると、おじさんはまた頷いて奥へ行ったかと思うと戻ってきて私にエプロンを渡した。
「これが店の制服だ」
「制服……!」
密かに憧れていた制服というもの。
簡単なエプロンだけど、頭からすっぽり被って両手を出す。
「どうかしら?」
「似合う似合う」
「ロボニハ?」
「えっ、ううん。このサイズはちょっと。明日には用意するからそれまで待ってくれよ」
「ワカッタ」
しょんぼりするロボに制服を見せつける。
「どうかしら、ロボ!」
「リンツバカリ、ズルイ」
コロコロ転がって、足にぶつかって抗議される。
威力は弱くしてくれているから痛くないんだけどね。
「さて、と」
おじさんが店内の椅子に座って私達にも座るように促した。
「君達の個人識別番号を教えてもらおうか」
「なんで?」
「働くのに身元不明だと何かあった時に困るだろう?」
そうかしら……。あっ!
でもね、ごめんなさい。
「言えないの……」
政府とは関わっちゃダメだって、ゾフィさん言っていたもの!内緒よ!
「言えないなら雇うわけにはいかないな。政府にも申告しなきゃいけないし」
やっぱり、絶対に言えない!
私が縮こまっていると、何かを察したのかおじさんが頭を撫でてくれた。
「分かったよ。うちの客には政府の下っ端もくるけれど、尋ねられたら姪っ子だって言っておくさ」
「ありがとう!おじさん!」
「ははは。その分きっちり働いてもらうぜ?」
「任せて!」
「マカセテ!」
その時、来店を知らせるベルが鳴った。
「いよう、旦那。パンを何個か貰おうか」
あの泥棒だ!
おじさんは露骨に嫌な顔をした。
「またあんたか。貧民街の連中だと思って値引きしたりおまけしてやったりしたけれど、あんまり来られてもうちも繁盛しているわけじゃない。困るんだがな」
「今日はその心配はないぜ。臨時収入が入ったからよ」
そう言って懐から出したのは私のお財布!
「やっぱり!私のお財布をすった泥棒!返してよ、そのお金!」
泥棒は一瞬やばいって顔をして慌ててお財布を懐にしまい込んだ。
「その路銀を使われたら困るのよ!私はゼフって人に会わなきゃいけないんだから!」
その言葉に泥棒はぽかんと口を開いた。
「なんだい、お前さん。ゼフのおっさんと知り合いかよ」
「えっ、あなた、ゼフさんの知り合い!?」
なにがなんだか分からないけれど、私達が混乱している間におじさんが泥棒に凄んだ。
「おい。なにがなんだか分からんが、嬢ちゃんの財布は返してやれ」
泥棒はおっかなびっくりして慌ててお財布を私に返してくれた。
「いくら減っている?」
「夕食一食分くらい」
おじさんがまた怖い顔をしたけれど、泥棒は視線を逸らして口笛を吹いている。
ごまかそうっていってもそうはいかないんだからね!
ああ、でも。
おかえり、私のお財布!
「リンツ、ヨカッタネ」
「ありがとう、ロボ!」
おじさんは泥棒の後ろ手を掴むと、私に言った。
「さ、お嬢ちゃん。早速の初仕事だ。俺がこいつをそこの交番まで突きつけている間に店番を頼むぜ。商品を覚える勉強もしておきなよ」
そう言って、ひねあげた両腕を持って泥棒さんと出て行った。
自業自得、とはいえちょっと可哀想かも?
私を置いて行ったのは多分交番で識別番号を聞かれないようにするため。
おじさんってちょっと怖そうだけど、いい人ね!
私、ここなら働けるかも!




