12話
「朝だぞ。起きろ」
私の朝は、シエルによって起こされた。
「もう朝なの?」
「お前、よくこんなソファで寝られるな」
「寝かせた本人が何言っているのよ」
私はバネを跳ねさせながら言った。
「それがこの部屋で一番上等なんだよ」
「そうなの」
私は、昨夜は暗くてよく見えなかった倉庫内を見回した。
確かに、壊れたロボットの腕や映像を映さない画面装置、積み上がった金属片。
ジャンク品に囲まれたこの部屋からしたら家具といえるのはこのソファと缶の籠を裏返した机の代わりのものだけだった。
「今日は金を稼ぐんだろう?表への門が開くまでしばらくある。粗末だが、朝飯ぐらいは食わせてやる」
昨日は何もなかったのに?
不思議に思ったけれど、併設された小さな台所に昨日はなかった袋が置かれていた。
昨夜か朝のうちに調達してきたんだろう。
「私も手伝うわ!」
一宿一飯の恩って大事よね!
私が腕捲りをしてシエルの近くによると、シエルは驚いた顔をした。
「お前、料理なんて出来るのかよ」
「ロボと二人旅をしてきたのよ?出来るに決まっているじゃない。ゾフィさんにも褒められたんだから!」
「誰だよ、ゾフィって」
私はもっともな質問に、朝食をシエルと肩を並べて作った。
とは言っても、パンとスープだけだけれど。
食べながらジャンクの山を見てシエルに問う。
「シエルはジャンク屋さん?」
シエルは首を横に振る。
「違う……とは、言えないな。この品々を売るのは確かに仕事だけれど、お前のロボとかは直せない」
「すごいわ!その歳で一国一城の主なんて!」
「やめろよ。貧民街でも力のない奴がやる仕事だ」
「ゾフィさんのところではそんなことなかったわ」
「それはそのゾフィってやつが旧式ロボットすら治せる技量だからだろう」
私は目を瞬かせた。
そういえば、新型アンドロイドが普及している今、旧式のロボットを直せる技術なんか珍しいのかも。
長年ロボと一緒にいたから忘れていたわ。
ゾフィさん、やっぱりすごいのかも。
私がゾフィさんとの楽しい日々を思い出してホームシックになっていると、シエルが食べ終えたお皿を片付け始めたので、私も慌てて食べた。
「美味しかったわ!ありがとう、シエル!」
「あんな硬いパンと具もないスープで悪かったな」
シエルは捻くれ者ね!
「お礼はちゃんと受け取るべきだと思うわ!」
シエルは小さく笑うと頷いた。
「そうだな。ありがとな、リンツ」
ロボがころころ転がってこちらへやってくる。
「シエル、リンツノメンドウミテクレテ、アリガトウ」
やっぱり、ゾフィさんが直してくれてから大きなお世話が多くなった気がするわ。
「ロボ!ロボは私の子守りロボだからって、それはちょっと私に失礼だわ!」
「旧式とはいえ子守りロボットまでいたのか」
シエルが両眼を開いた。
「お嬢様だったって言ったじゃない」
「ああ、そうだったな」
シエルは、バツが悪そうな顔をして目を逸らした。
なぜか尋ねたくて、シエルに声をかけようとしたところで大きなベルの音が鳴った。
「朝の八時だ。市街への門が開く」
「そうなの?それじゃあ、私は市街へ行って職を探してみるわ。止めてくれてありがとう、シエル。またね!」
「だから、この貧民街では……」
「死ななくても会えたじゃない。また会えるって私、信じているから!」
シャッターを開けてもらい、大きく手を振ってバイクを押して市街を目指す。
「……待てよ、やっぱり心配だから市街の門まで見送ってやる」
シエルの言葉に私はにんまり笑う。
「やっぱり優しいわね、シエル」
「そんなんじゃねぇよ」
ロボがサイドカーから喋り出す。
「リンツモ、シエルモ、テレテル」
「照れていない!」
私とシエルの声がまたハモった。
そうしてお互いの顔を見て、小さく笑ってやがて大きく笑い合った。




