第1章 物語の始まり【7】
自室に戻ると、ラゼルは改めて自分のステータスボードを眺めた。異世界転生といえばチート能力だが、ラゼルの能力値に爆発的なものは何もない。闇の魔法に手を出していない現状、ラゼルが得意とする氷属性の魔法がずば抜けているわけでもない。異世界転生だと気付いたときからチート能力には期待していたが、そう易々と叶うものでもないらしい。
(断罪イベントをチートで乗り切れるかと思ってたけど、能力がないなら諦めるしかない場合も考えられるな……)
これからヒロインに断罪されることがあるとすると、氷属性の魔法ではなんとも心許ない。ヒロインは光の魔法を持つ特別な女の子。ただの氷属性の魔法では圧倒的な戦力差があるだろう。
(チート能力がないなら、やっぱり断罪イベントを回避する方法を見つけないといけないってことか……)
この先、ラゼルはすべての攻略対象との良い関係性を構築することを目標としていく。この世界の住人であるラゼル・キールストラとして生きていく。そのためには断罪イベントの回避は必須となる。そのためには、ヒロインとも良好な関係性を築く必要があるだろう。
(他の攻略対象との関係性がどんなものだったか覚えてないけど、良好ではないんだろうな。いまから挽回できる程度だといいんたけど)
ラゼル・キールストラの記憶が薄いのは、攻略対象たちに対する関心のなさによるものなのかもしれない。ラゼル・キールストラはヒロインにも興味がなかった。あらゆるものへの関心が薄かったのだろう。ジークハイドとアラベルとの関係性を覚えていたのは、それなりに関わりがあったため。ラゼル・キールストラは、他の攻略対象に対して自分から関わりに行くような人柄でもない。ある程度の苦労を想定しておくに越したことはないだろう。
考えるのをやめ、ラゼルは本に手を伸ばす。書籍室にあった物語の本で、前世のライトノベルのような軽さはないが、本の虫であるラゼルにはその読み応えがちょうどいい。こうして寝る前の時間、物語の本を読むことが一日の楽しみのひとつとなっていた。この穏やかな時間が終生、続くように。ラゼルはそう願わざるを得なかった。




