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【改訂版】破滅を招く呪いの悪役令息は攻略対象と仲良くなりたい~ヒロインだって頑張ります!~【更新停止/未完】  作者: 瀬那つくてん(加賀谷イコ)


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第1章 物語の始まり【2】

 ダイニングの前に辿り着いたとき、廊下の角からアラベルが出て来た。ラゼルに気付くと、途端にアラベルの表情が曇る。アラベルを怖がらせないため、ラゼルは努めて優しい笑みを浮かべた。

「おはよう、アラベル。良い朝だね」

「あ、うん……お、おはよう……」

 アラベルは怯えつつも挨拶を返す。ここで無視してはラゼルがどんな行動に出るかわからない。アラベルはなるべくラゼルを刺激しないようにしているのだ。

 アラベルは母親譲りの綺麗な金髪を、眉毛が完全に隠れるほど長めに垂らしている。それが気弱さを際立たせているようだった。緑色の瞳が綺麗で、可愛い顔立ちをしている。体の線は細めで、身長はラゼルとそう変わらない。自信なく背中を丸めており、運動より勉学を好む性質のように見えた。

 ダイニングには、父と義母、ジークハイドの姿がすでにあった。ジークハイドの視線は相変わらず冷たく、そんな極寒の右隣に座らなければならないのが冷え性には辛い。ラゼルが冷え性なのかどうかは知らないが。とは言え、ジークハイドはアラベルのことがなければラゼルに無干渉だっただろう。関心があるわけではないのだろうが。

 ジークハイドは父親似の美形で、吊り上がった青色の瞳とスッと通る鼻筋がクールさを演出している。アラベルとは対照的に気の強さが感じられた。アラベルは母親似だ。

「ラゼルとアラベルは、今日は何をするの?」

 公爵夫人が朗らかに問いかける。庶子であるラゼルにも優しく接するのは、実に愛情深い女性である。

 ジークハイドは父の手伝いがあるようだが、ラゼルとアラベルは休暇中であるためほとんどの時間が自由だ。ラゼルはすでにやることを決めている。

「今日は書籍室で本を読もうと思っています」

 微かに残るラゼルの記憶によれば、キールストラ公爵邸の書籍室は様々な本が大量に取り揃えられているらしい。読書家としては見逃せない場所だ。

「あら、それならアラベルと一緒に行ったらどう? アラベルはいつも書籍室にいるから」

 ラゼルがアラベルを虐げているなどとはつゆ知らず、公爵夫人は穏やかに微笑んで言う。アラベルからすれば地獄の誘いだろう。

「いえ、邪魔をしたら悪いですし、僕は僕で行きますよ」

「そう?」

「邪魔なんかじゃないよ……! い、一緒に行こうよ」

 アラベルが慌てた様子で言った。その表情は相変わらず怯えた色を湛えており、仲良くしようと思って言ったのではない。ラゼルの機嫌を損ねないようにしているのだ。

 それでも、わざわざ意地悪なことを言う必要はないだろう。

「そう? じゃあご一緒しようかな」

 アラベルは安堵したように薄く微笑む。ラゼルの加虐性に機嫌は関係ないように思うが、こうして顔色を窺いながら接し続けているのだとすれば不憫だ。ジークハイドの冷ややかな横目がそれを物語っている。ラゼルは男の兄弟が欲しいとずっと思っていた。最初の任務は、兄弟となったアラベルをただただ甘やかすことだ。



 キールストラ家の食事会は、食後のお茶まで同席して締められる。だが、ラゼルが最後まで席に着いていることは、微かに残った記憶によれば滅多にないことだったらしい。ラゼルは家族に対する愛情はなかった。食後のお茶をともにすることを馬鹿馬鹿しく思っていたのだ。いまのラゼルは、家族と過ごす時間を大切にしたかった。それが破滅を防ぐことに繋がるのではないかと考えているのと同時に、これからともに生きていくことになる家族を大事にしたかった。

(……たぶん、ラゼルはこの席に座ってるのが嫌だったんだな)

 紅茶を啜りながらそんなことを考える。左隣のジークハイドも優雅にティーカップを傾けているが、その雰囲気は空気だけで人を殺せそうだと思えるほど寒い。本来のラゼルが怯むようなことはないだろうが、とにかく居心地が悪かった。

「今日はラゼルものんびりとお茶を飲む時間があるのだな」

 父が朗らかに言う。その斜交いで義母も穏やかに微笑んでいる。ラゼルの左半身が冷え切っていることを知らない表情だ。

「家族の時間は大事ですから」

 ラゼルは努めてにこやかに言う。父と義母はラゼルの狂気性に気付いていない。この言葉と笑みが本物であると思っていることだろう。現在のラゼルにとっては本物なのだが、ジークハイドは冷ややかで、アラベルは俯いている。これが本物であることは、これから時間をかけて伝えていくしかないだろう。

「休暇が明けたら寮生活だし」と、義母。「この時間を大事にしてくれるのは嬉しいわ」

 そのとき、アラベルが喉に詰まらせたように小さく咳き込んだ。そこで、そういえば、とラゼルは考える。学院寮ではラゼルとアラベルは同室だったはずだ。まさに地獄の日々。アラベルとしては学院に戻りたくないことだろう。学院寮に戻るまでのあいだに、アラベルとの関係を修繕しなければならない。

(改心したことをジークハイドにもわかってもらわないといけないよな……)

 先は長いように思えたが、破滅を防ぐためにはエンディングまで駆け抜ける必要がある。ヒロインのことをまったく覚えていない現状、学院に戻ったときにどうなるかはわからない。この貴重な時間を有効活用しなければならないだろう。

(せめてお茶くらいゆったり飲めるようになりたいな……)

 アラベルはラゼルに怯え、ラゼルはまた、ジークハイドに怯えていた。



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