呪いの魔女
ゲーム的な話をすると聖女は司祭の上級職ではなく、聖女は聖女として生まれ上級職はない。女性の聖者及び司祭は聖女にはなれないのだ。
一つの国に一人か二人生まれるが、覚醒条件を満たす事ができない場合がほとんどとフレーバーテキストに書いてあった。
聖女はゲーム内で使用可能キャラクターにいなかったので、イベント発生もせず、詳細不明なままだ。
ただ、その祈りはこの世を照らすと言われている。
そのわりに登場した聖女はゲームシナリオの都合か山奥や立ち入りしにくい場所に住んでいたが。教会とかそういうとこでお気軽に会えたほうがよかった……。
で、私がこの聖女だという。
女神のお告げにより確定したと言われても違うな、という気持ちだ。
だいたい、この時期にいる聖女はやべぇやつだ。4作目のお助けキャラにもなれば裏ボスになるのである。
背景も語られず、欲しがるのは一つの宝箱。元王都にあるそれを持ってきてくれれば、強力な武器や防具を提供し、魔法すら与えてくれる。
しかし、偽りのものを持っていったり、他者に奪われたり、壊れたりすると彼女は正気を失ってしまう。
あるいは、正気でいるように見せる必要すら無くす。その狂乱は暴虐の限りを尽くし、大体は全滅である。初見殺しもいいところの技も使う。連作内の最凶の裏ボスなどといわれる。
場合により聖女ではなく、魔女にもなるのだがその場合でも流れはほぼ同じだ。
どちらも最凶の名にふさわしいラスボス超え。
というものに転生したということでよろしい? 困惑しきりだ。そんなすごい力、感じたことがない。それがあったとしたらもっと前に色々起こっているはずだ。工場でのいろいろとかさ……。
「本当に、私が聖女だと思います?」
役人を捕まえてこっそり尋ねると嫌そうに、本当に嫌そうに顔をしかめた。
「状況証拠が揃っているから、そうなんだろうな」
私が犯罪でもしたのかという言い方である。その上、畑のほうを睨んでいる。
……まあ、季節感無視、育成速度爆速、なんて奇跡と言われたら、そ、そうかも、とは思う。やっぱり異常だったのだね。人が来るのがわかってたら隠したんだけど、寝込み襲われたから。
「聖者様がそういったなら、そうだ。それ以外の話は分が過ぎる。
君だけは異を唱えていいが、状況は変わると思わないほうがいい。適度なところで折れるんだな」
不満そうな顔の私に追加でそう言い放って離れていった。はっきりと一線引かれてる。面倒事はお断りというのとはちょっと違う感じがした。
どちらかというと気に入らんと言わんばかりだ。
やっぱり聞いてもいいこと無かったなとちょっと反省する。
まあ、せっかく見つけた墓守を持っていかれるんだから、そうかも。また、探す必要があるかもしれないし。
役人の背中にわかりましたと素直に答えて今日のところは、早めに寝ることにした。朝、早すぎたしね。
……。
……。
……寝れるかっ!
がばっと起き上がって、状況を確認することにした。
聖女というのは、納得がいかない。魔女という方が理解可能だ。
聖女の対のように語られるのが魔女だ。享楽的、世のことを考えることもなく、自らの望みを果たすことしか考えない。
生まれた時からの魔女はおらず、魔女になるもの。その魔女となった理由は不明である。過去なきもの。そうとも呼ばれる。ということではあるらしい。これもフレーバーテキストから。
魔女は仲間になったが、能力は偏っているし、選択によってはすぐに仲間を離れる。取り扱いしにくいキャラクターである。過去を語られることもないが、なにかにひどく絶望した結果らしいと匂わせがあったりもする。
本筋に関わった魔女がいないからな……。サブイベントで探しに行かないと仲間にならない。これもまた山奥か行きにくい場所で。何か様式美があるのだろうか。
それはともかく、私としては皆の安寧を祈るより魔女のほうが向いてる。
この世を呪って、あの人を追い込んだ奴らも皆、ひどい目にあってしまえばいい、私の見えないところで! という気質だ。
殴り込みに行くようなくらいの能力もなかったのでそう思うくらいしかできなかった。
聖女なら、彼の愛した国が乱れずに続きますようにとか祈りそうだ。そういうのちょっと無理。
国も共に滅べばいい。
本音のところはそれだ。
だから、因果が逆なのではないかと思えた。
私が呪ったから、病は発生し、私が他のことに気を紛らわせたから進行が止まった。しかし、再び呪ったから、再開した。
こっちのほうがしっくりくる。
どうして、いきなりできるようになったのかは不明のままだが。
ただ、外から見ればわからないだろう。会ってもいない先王を慕う者がいるなんて呪われたものにとっては想像外に違いない。それもこんなバカデカ感情を拗らせているなんて思いもよらない。
その結果、癒しだけが知られマッチポンプが完成した。いい感じに利用すると国を牛耳れそうなやつだ。
ちょっとだけ、君臨することを想像した。理性がお仕事してくれるかちょっと自信がない。被害者面してる人たちをぶっ飛ばして速攻詰むなと想像できた。
いやはや、私の狂信者具合を舐めてはいけないなと少し反省する。
反省したところで、現場で暴れない保証はないんだが。
本当のところはここで祈っていたほうがいい。ただ、役人他2名を残し、さらに中央まで報告されるなら、ここに居させてくれそうもない。 だからといって他国に行くのは最後の手段にしたい。国境越えは中々厳しい。途中で行き倒れる。
現状では、ごねてごねてごねまくる、が最適解だ。
相手が別の条件を出してくるまでひとまず待ったほうがいい。手持ちの札もほとんどない。それならば無策で元王都に行くより、魔法や奇跡の一つもできるよう練習したほうがましだ。
力の一つでも見せつけてやれば多少は態度を変えるだろうし。
それにしてもいきなり聖女と言われてもな。魔女でもいいけど。
どうして、今なのか。
幼女無双できれば助けられたんだろうか。……いや、無理だな。そういうの嫌う人だった。子どもは子どものままでいなさいと優しく言うひと。
そして、子どもを子どものままでいさせたら、だめだったことにとても傷ついた。
手遅れ。
なにもかも。
「私にできることってなんだろ」
今、ここからでも間に合うこと。
あの魔女や聖女のように欲しがればいいのだろうか。あのたった一つの宝箱を。
その中身が語られることがない。
ただ、彼女は言う。
『おかえりなさい。そして、おやすみなさい。良き眠りを』
そして、燃やしてしまう。跡形もなく、灰にして、微笑むのだ。
……。
墓守ならば、墓守らしく、死者を弔うものだろう。
「よし! 決めた」
何もかも遅かった私ができるのは弔いだ。
私は残されし、宝箱を探しに行く。
私は音を立てないように外への扉を開けた。明るい月が空にかかる。少し離れたところにテントがあるが、3つあるところをみると個別に作ったらしい。
テントの中は真っ暗で眠っているらしい。夜番をするという話をしていたのだが、やめたのだろうか。
それは好都合だ。
「おいで」
その場で呼ぶと白いものがやってきた。
ようやく白い化け物の正体も察しがついた。
祈りの聖女には謡う精霊が、呪いの魔女には嘆きの魔物がついていた。
いまはどちらでもないこれの正体だけは判明している。あの人の契約精霊だ。主を失い彷徨っていたものを彼女が拾った。それだけは明確に書かれていた。
遅くなってごめんね、うちに住む? と問えば困ったようにうなずいて、小さい犬に化けた。
ああ、あの人は犬が好きだったなと思い出して、泣いた。思えば一度も彼のために泣いたことがなかったように思える。
前世はともかく、今世で彼をよく言うことはできなかった。その死を悼むことも。




