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あなたを見送るための  作者: あかね


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祈りの聖女

 追加来客の馬車がやってきた。

 豪華、というより、ごつい。高級車来るかと思ったら、軍用車来たみたいな。引いてる馬も世紀末に覇王を乗せてそう。

 つまりは明らかに偽装もなにもなく、威圧にかかっている。一般人はもう近づかない。ごろつきだって逃げ出す。


 私も逃げたい。

 なにかを察したのかがしっと両肩役人に抑えられている。痛くはないが、逃げそうな素振りをすれば痛くなる予想がついた。

 両脇もヘクター氏とデルタ氏がいるし……。


「懐かれないように」


 意味わからん忠告もされたし。


 その馬車から降りてきたのは小柄な人物だった。薄絹を羽織っているように見えたが、すぐに外れた。あたりを見回して、あっと小さく声をあげた。


「その人、聖女です!」


 ……は?


「お会いしたかった!」


 目の前に少年が立っていて、勝手に渡しの手を両手で握っていた。

 瞬間移動した。間違いなく、瞬間で、移動した。


 うわっ、特殊スキル持ちとわめきたくなる。


「宣託通り、黒髪で青い目、ですね。溢れんばかりの魔力でずっとわかってました。お迎えに来るのが早くなって申し訳ありません」


「あのよくわからな……」


 今、迎えに来るのが早くなった、って言った? そこは遅くなったというべきところでは。

 少年を改めてみるといたずらが見つかったと言わんばかりのウィンクが……。


 こいつ、2周目か? 転生者か? あるいは他の何かが?


「詳しくお話させていいただきます。

 ……あの馬車、乗ります?」


「粗末な家ですが、どうぞ、お入りください」


 話を聞くには他にいい場所がなかった。


 再び私の家。

 役人と少年と元白い人、それからお世話係と名乗った人物が家に入った。デルタ氏とヘクター氏は畑の世話をしてくれるらしい。

 それにしても名乗らない一族が揃った……。もちろん私もだ。


 少年は聖者としか名乗れない規定があるので聖ちゃんと呼んでほしいと謎の要望を出してくるし。もちろん却下した。

 白かった人は話をするのに名乗る必要性を感じてなさそうで、お世話係のひとはほんと給仕するために残ったから名乗らないだろう。

 役人は、まあ、前からだし。


 私はベッドに座ろうとしたけど、家主だからと椅子に座らされた。その対面に少年である。残り三名は立っているので圧迫感がある……。しかし、ベッドの耐久力を考えると座ってほしいと勧める気にはなれなかった。

 ひとまず、少年側が提供したお茶を入れてから本題に入ることになった。


「一年ほど前に女神様より神託がありました。

 聖女が覚醒した。望みを叶えれば幸いが、望みを断てば災いが訪れる。

 そう言われました」


「はあ……それで?」


「教会内でも探すべきか、探さざるべきか紛糾しました。

 結論から言えば、災いも怖いので探しておこう、となりました。もし見つけてもお迎えに来るつもりはありませんでした。

 しかし、これが中央の知ることとなり、お迎えに行くようにと言われ、今、こうなっています」


 にこりと笑いながら言うことでもない。

 役人が渋い表情を隠しきれてないので、彼の望みでもなかったっぽいな。暴露されたことに焦っていたら、もっと違う顔しそうだし。

 給仕をしていた人は無表情で控えている。

 白かった人だけが、少し困ったように薄笑いしていた。一々イラっとするなと視界から外し、考えているような時間を取る。


 もちろんここを離れることはない。動かないには明確な理由がいる。少なくともわがままと一蹴されない理由が。


「私が聖女かどうかはさておいて、ここを離れることはありません」


「承知しました」


 私の考えを表明するだけのつもりが、あっさりと少年が引き下がる。むしろ予定通りと言わんばかりだ。そして、そのまま席を立った。


「帰りましょう」


 ためらいもなかった。給仕の人は驚きもせず従い、役人は私を睨んだが何も言わない。

 ただ一人だけ慌てていた。


「そんな、もっと良い生活を送ることができますよ。

 粗末な服ではなく、美しい絹やきらめく宝石も、それから甘い菓子、働かずとも望みが叶います」


 そういったのは元白い人。つまり、女はこれに揺らぐだろうと思っている。その言葉で従うと自信満々といった雰囲気が鼻につく。


「いりません。

 祈りの生活で満たされております」


「祈りは他の地でもできるではありませんか。中央の城に居室を用意しましょう。夫となる男も」


「ここで祈れ、そうでしたね?」


 役人に話を振った。彼は苦い表情のまま頷く。色々立場を悪くさせるようなことに同意させた。ちょっとだけ悪いなと思う。しかし、彼は連れてきた責任を取るべきだ。


「この地で、墓守しろと言ったのはその中央議会です。

 それならば、議会の同意を得ることが必要ですね」


 なにも決めることもできない議会の同意。これほどの無理難題はないだろう。

 自らにかかった呪いが恐ろしくて、初めて一致団結できるかもしれないが。


 この言葉に即応は出来ず、一度戻りますと白い人が言う。引き際としては、まずまずといったところだ。これ以上ごねても仕方ないと。


「皆の安寧を祈ってください」


 余計なことは言っていったけど。

 彼だけが先に中央に戻るらしかった。少年は近くの村の井戸の浄化を終えたのち帰還する。そうでもしないと襲撃しそうなのでと怖いこと言っていた。

 襲われたくないので、念入りにお願いした。


 苦笑で了承と小声での忠告がささやかれた。


「聖女には処女性が必要と議会にも周知していますが、身辺に注意してください」


「気をつけます」


 生々しい話を年下から聞かされると何とも言えない気持ちになるな……。人権、ああ、人権をください。たぶん、あと百年はなさそうだけど。


「姉さんは綺麗なんですから、もっとずっと気をつけてください。油断しすぎです」


「わかりました」


 ものすっごい気を使われたんだと思う。こんな小さい、痩せた女がきれいなはずもない。

 わかってんのかなという顔をされたけど、追加で何か言われることもない。


「そういえば、一つだけ聞いておかねばならないことがありました。

 ほしいものはありますか?」


 私は黙って首を横に振った。

 それを求めるには遅かったから。


 聖者御一行様は去っていき、役人とヘクター氏、デルタ氏が残った。

 むっつりと黙ったままの役人をそっとして、野菜たちの様子を見に行った。ちゃんと水やりされ、雑草も抜かれている。

 ちょっと疲れたようなヘクター氏が野菜をもいでいた。手慣れていて農家かと思うくらいだ。


「見送らなくてよかったんですか?」


「ん? ああ、私は嫌われてるのでね。理由はあるから気にしないでいいよ」


 それ以上聞くなということだろう。承知のかわりにお野菜を収穫したかごを覗き込んでおいしそーですねと呟く。

 はい、たっぷり、と重いかごを渡された。


「そっちは交渉決裂かい?」


「はい。贅沢といわれても必要ありませんからね」


「王都での贅沢三昧は悪くないんじゃない?」


 ヘクター氏が腑に落ちないような顔で尋ねてきた。まあ、ここの質素極まる生活と比べたらねぇ? という意味合いはわかる。

 普通に遊んで生活できるなら、遺恨のない相手と一緒なら考えなくもないけど、今の私にはあり得ない選択だ。


「あなた方は親しい女性に、美しい鳥かごで暮らすのが幸せと言えるの?」


 その答えに戸惑ったようで返答はなかった。

 ま、そうだろう。貧乏人は贅沢に飛びつくと思ってる。そういうものだと。


 別の場所にいたデルタ氏に近づくと察したかのように振り向いた。後方を取るの難しそうだ。身のこなしも鈍重じゃないし……。


「どうしたんだい?」


「使っていい場所はそっちですよ。

 雨が降った場合のみ、家に入れてあげますが基本的に野営してください」


「そりゃありがたい」


 そう言ってから私の籠を覗き込んでうまそうだよなと感想を述べられた。移動中は野菜なんてしなびてと訴えてくる。

 かわいそうなので、肉と野菜の物々交換と燃料としての薪を提供してあげた。

 なんか、拾った薪がすぐ使えるものだと思っていたら勝手に乾燥されて、使いやすいようになっていたらしい。

 まあ、聖女なら仕方ないんじゃない程度の扱いだった。


 皆、私が聖女であるということに疑念は抱かないのだろうか? 聞いたらひどいことになりそうなので、いわないけどさ。


 聖女、ねえ。


 このゲームの聖女って言うとアレなんだけどな……。

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