月に憑かれた月天子 遥か彼方
月に憑かれた月天子 遥か彼方
助けてください 月天子
どうかわたしたちをお救いください
なぜ人は争うのでしょう。
それをどうしてわたしが止められましょう!
父も兄も戦に狩られて異郷に葬られました。
母は鉄の雨にうたれて血の海に沈みました。
残ったのは幼い妹とわたしだけ。
食べるものもろくになく、妹は日々、病んでいきます。
あんなに明るい子でしたのに、今では笑うこともありません。
ただ人形のように虚ろな目でどこか遠くを見ているのです。
妹の心は、もうあの子のからだに宿ってはいません。
きっと鬼に心を持って行かれてしまったのです!
わたしはただ、あの子の魂まで持って行かれぬよう、祈るしかありません。
妹を助けてください
わたしには、あの子を見るに忍びません。
戦は終わるでしょうか。
暗い水底に、明るい光は差すでしょうか。
ああ、月天子
どうか
どうかわたしたちをお助けください。
※
―――人間とは、何と身勝手で、何とおろかなのだ……
人は私に様々な言の葉を投げかける。
祈り
うたい
嘆き
笑い
呪う
私を見上げ、「美しい」と賛美する者
残酷だと恐れる者
想いを馳せる者
不気味だと忌む者
神と崇め信仰する者
私の下で果て逝くものたち
そして新たに生まれ来るものたち
私は地を照らし、人々を彼方から見下ろす。
今宵も多くの者が殺し合い
多くの者が果て
多くの者が涙をこぼした
仲間の命を奪い、何を得ようと言うのか
おろかな人間。
己のあさましさに気付かぬ、あわれな人間たち。
しかし私は何も出来ぬ。
娘よ、もう無駄な事はやめろ。
私には何も出来ぬと言うのに。
そのような眼差しで、私を見るのではない。
「神」と言う名で私を縛りつけた、いまいましい人間たち。
神など、この世界には存在し得ない者。
私に願いをかけようとも、それは無意味な事であり、人間たちの勝手な押し付けである。
私は月
ただ青い星を、遠く彼方から見下ろすだけの存在。




