2000(7.5) must be
・・・教師
月岡先生は私の目を見てこう言った。
私の隣に座る母は、何を思っているのだろう。隣にいるから表情は見えない。
3年生になる前に、少しずつ将来の進路を考えるように言われていて、その第1歩目の話し合いが今日、2学期終わりの三者面談だった。
私は、特に将来の夢がない。
小さいときはケーキ屋さんになりたかった。それから夕方のニュースのお天気コーナーに出てくる天気予報士のおじいさんが好きで、天気予報の人になってみたいと思っていた。
でも、中学生になってからは特にない。
事前に提出した進路希望のアンケートも、A高校の普通科に行きたいとだけ書いて出した。何がしたいわけではない。とにかく普通科であれば選択を猶予できると思った。
そんなあいまいな私の気持ちを察したのか、月岡先生は三者面談が始まって早々、早口で話し出した。
「娘さんは、周りの子に聞くと真面目な優等生みたいな印象を持たれてます。男女問わず。僕は最初はおとなしい控えめな子だと思っていたんですが、担任になって彼女と接する機会が増えてから、そうでもないな、と。ふふふ、ごめんよ、悪い意味じゃないからね。
あとは、『誰かのため』を考えている。というか、自分のことを考えるのは得意じゃなくて、困っている誰かを助けるために自分はどうすればいいかとか自分がどう立ち振る舞えばクラスがよくなるか、とか、自分を周りに合わせる方を無意識に優先する。これは集団生活では非常に重要な立場ですけど、苦しくなってくることない?(私の顔を見つめる)
確かに真面目で、僕も安心して頼み事も出来るし、助かってはいるんですけど、完璧な子とは思ってないです。あ、親御さんにそんなこと言うのは失礼ですけど、、、(母、失笑)。
うーん、ちょっとおっちょこちょいなのかな、まあ、忘れ物とかテストのケアレスミスは直してほしいとは思うんですけど。おっちょこちょいな部分は大人になるにつれてカバーできるようになればいいと思いますし、基本的な部分はこのままでいてほしいと思っています。
で、事前にアンケートした進路については、本人自身がどうしたいかまだわからないようですね。まだ2年生、14歳なんだからこれは当然だと思います。ご家庭でもよく話し合ってみてください。まずは自分は何が好きか、何が得意か。家族や友達に、ミカコは何が上手か、何が向いていそうか聞いてみてもいいと思う。それである程度絞れたら、次はそこに向かってどういう風に進学すればいいかは、僕たち教師もサポートしますから、まずはどういうことに興味があるか、ざっくりでもいいので方向性を考えてみてください。
・・・それを踏まえて、ここからは僕の個人的な意見です。
僕は社会科の、歴史の教師ですが、彼女は社会科全般得意みたいですね」
「そうなんです。なんだか社会科好きみたいで、小さい頃から地図が好きで、主人の買ってきた旅行ガイドブックを眺めてしましたし、今も家でもおとなしいと思ったら歴史の教科書を小説みたいに読んでることがあります」
これまで黙っていた母が、月岡先生の話にかぶせるように、月岡先生以上に早口で答えた。
月岡先生はにっこりして、
「教科書を読むのはとてもいいことです。予習復習にもなりますし、自発的に読んでくれるのは教える側としてもうれしいです。僕は社会科の時の様子しか知りませんが、授業もよく聞いていてくれるし、実際テストの点もいいです。
今お話ししたこと、4月から彼女を見てきて、僕が思う彼女に向いている職業は
・・・教師
僕の経験上、教師が向いていると思います。社会じゃなくてもいいですけど、社会がいいかもしれませんね。教師の僕が言うので間違ってないと思います。」
教師、学校の先生が向いてるのか
月岡先生が言うなら本当かもしれない。
その夜、入浴後に自室に戻り、三者面談の話を思い出しながら机の上のクローバーの押し花を眺めていると、背後から
「おねえやん先生になるん?」
ノックもせず妹が部屋に入ってきてそう話しかけてきた。リビングで母が父に三者面談のことを話しているのを盗み聞きしたのだろう。
「え?わからんよ
っていうか心臓に悪いから突然部屋に入るのやめてくれない?」
私がそう返すと妹は突然真顔になり、
「でもおねえやん教えるの上手いよ?この前、分数の計算教えてくれたときわかりやすかったよ。先生、いいと思う」
そうか。
私は先生が向いているのか。なれる?なる?ならなきゃいけないのか?
自分ではよくわからないけど、自分になりたいものは無いし、向いているというならやってみてもいいかもしれない。
とりあえずどうやったら教師になれるのか、調べてみようと思った。




