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記憶の箱  作者: yamico
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私は真っ暗闇にいた。

死んだらあっちの世界に行けるのかな。

悪魔やムイはなんて言うだろう?

また呼んでもいないのに来たのかって言われちゃうかな。


私はドアを探した。

しかしいくら探してもドアはみつからなかった。


真っ暗闇は真っ暗闇のままだった。


どこかに箱が落ちていないか探すことにした。

いつもならどこに箱があるのかすぐにわかるのに今日はまったくみつからない。


私は歩き回るのに疲れてしまった。

その場に倒れこんだ。

真っ暗闇で寝そべると平衡感覚を失った。

まるで無重力の世界で浮いているかのような錯覚がした。


私はいったいどうなってしまったんだろう。

いつまでたっても暗闇に変化はなかった。


時間の感覚もない。

どのくらいここにいるのかもわからない。


私は暗闇になってしまったのだろうか。

何もないこの暗闇の一部に。


────


急に四角が見えた。

そして声が聞こえた。


人が泣いている声が聞こえる。

私はまた誰かを泣かせてしまっているのか。

どうしていつもこうなんだろう。

何事もなく寿命をまっとうする人もいるのに。


私はまた病院のベッドにいるのだろうか。

それならば治癒魔法が効くかもしれない。

私は治癒魔法を使おうとした。


(あれ?どうやるんだっけ?)


私はいろんなスキルを使おうと試そうとしたがやり方を忘れている。

頭の中で願ったことが実際におきていたことも、何もできなくなっていた。

(暗闇は嫌だ 目を覚まして)と何度も願ったが目を覚ますことはなかった。


ポッカリと見える四角い光。

手を伸ばしても届かない。

すごく遠くにあるようだ。


私は考えることもやめてしまった。

考えても何も変わらない。

ただこの無の中で永遠に過ごすのだろう。


私は目を閉じた。


────


『シア!』

聞き覚えのある声が聞こえた。

ほっぺにもふもふの感触がする。


「アリ!」


私はゆっくりと目を開けた。

そこは真っ白な世界だった。

「アリ?どこなの?」

感触はあるのにアリの姿は見えない。


『シア、すまない。』

この声は悪魔?

「どうして謝ってるの?」

『あいつを元の世界に戻したから…あの時情けをかけずにいたら…』

「ライハのせいじゃないわ。」


『シアさん…』

「ムイなの?」

『あなたをお守りしたかった。いつもそばにいたかった。』

ムイは過去形で話をしていた。

もうそれは叶わないということなのだろう。


「ねぇみんな、私はどこにいるのかな?もうみんなには会えないの?」


『シアよ。おぬしに救われた命は数えきれんぞ。魔王として感謝する。たくさんの魔族を救ってくれてありがとうな。』

魔王までそんな別れの言葉を言うなんて。


私は今度こそ死んでしまったのだろう。

死後の世界がどうなっているのかなんて知らないけど実際は何もないのかもしれない。

死んだら終わり。


生きている事自体が奇跡なのかもしれない。

当たり前に息をして当たり前にご飯を食べる。

そんな些細な全てが本当は奇跡なのかもしれない。


命は尊い。

1度失ったらそこで終わりだ。

やり直しはきかない。


もし次があるならば『命を大事にしよう』と思った。


真っ白な世界に箱がある。

棺のように見えなくもない。

私は迷わずにその箱に入った。


ゆっくりと暗くなっていく。


────


「色野先生!そっちお願い!」

「はい!」

冬の高速道路で玉突き事故がありたくさんの死傷者が出た。

この病院にも何人か回ってきた。


「わかりますか?病院ですよ!名前を言えますか?」

「田中真理です。」

「田中さんですね、痛いところはありますか?」

「胸が…」

私は失礼しますと言って服をめくりあげた。

出血はないが胸が変色している。

「服、切りますね。」

田中さんは意識を失った。

「急いでライン取って!挿管するよ。」

私は口の中に器具を入れてチューブを取り付けた。

「急いでCT撮るよ!」

「はい!」


「腹腔内で出血!外科の先生呼んで!オペ室準備!」


救急救命は戦場のようだった。

みんなが必死に戦っていた。

命を守るために。

命を繋ぐために。


私は高校生の時に階段から落ちて意識不明の重体になった。

脳死判定もされてあとはチューブを抜くだけというときに奇跡的に目覚めることができた。

医師は「奇跡だ」という言葉を何度も使っていた。


今思えば医師がそんな言葉を使うなんておかしな話だ。

しかしそれは他に言いようがなかったのかもしれない。

そして私はその『奇跡』を無駄にしないように努力を重ねて医師になった。


医師になるのは簡単なことじゃなかった。

たくさんの人に助けられ、迷惑をかけた。

それでも私は諦めず努力を続けた。


そして研修医を経て独り立ちしたのである。

私は救急救命を選び、未だに修行中である。

完璧な医師なんていない。

毎日が試練で毎日が修行である。


救える命があれば救えない命もある。

救えなかった命を思ってやりきれなくなることもある。

自分の力不足だと自分を責めることもある。


それでも私は命に向き合う。

やり直しのきかない唯一無二のものに。


ふとした時に思うことがある。

私には違う人生もあったのではないかと。

自由に空を飛び回り、悪いやつを倒していくような。

まるで夢物語の人生。

ときどき私は夢の中で冒険に出る。

動物や妖精と一緒に悪いやつをやっつけるんだ。

そしていつも隣には優しい顔の男の子がいる。


夢の中の私は幸せそうだ。

夢はいつもいいところで終わる。


目を覚まして私は現実を生きる。

そして命に向き合う。


簡単ではない。

困難なことも多い。

人生の喜怒哀楽が凝縮したようなこの場所に私はいる。


「佐々木先生!お願いします!」

「色野先生おつかれ。あとは任せて。」

田中さんはエレベーターに乗って行った。

これから緊急手術だ。

佐々木先生は腕のいい外科医だ。

きっとなんとかしてくれる。


「色野先生、こっちをお願いします。」

「今行きます!」


こうやって命を繋いでいく。

私は私ができる最高のことをする。

ただそれだけの繰り返しだ。

しかし同じことは一つもない。

目の前にある命は一つとして同じものはない。


だから私はそんな一つ一つを大事にする。

全ての命を救うことはできない。

魔法でも使えたらよかったのだろうけど、それは夢の中の話だ。


奇跡なんて起こせない。

だから私はベストを尽くす。

自分で自分を嫌いにならないように。


私は今の自分が好きだ。


────

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