92.偽造ぷちエリ出現
テティの種族と精霊を確かめた俺たちは森から帰ってきた。
午後の王都の大通りを歩いていく。
俺とテティが手を繋ぎ、後ろをエルフの美女シェリルが歩いている。
シェリルとテティが美女と美少女過ぎるのか、街を歩く人たちが二度見していた。
ひょっとしたら親子と思われたらどうしようかと、少しだけ心配する。
リリシアは気にしないだろうけど。
――と。
店に向かうため大通りから一本裏の通りに入ったところ、妙な露店を見つけた。
閉店した店の前に、ごろつきのような男二人が板と柱を組み立てて露店を作っている最中だった。
傍には小さな瓶の入った木箱が置かれていた。
テティが、可愛い声で驚く。
「えっ!? ぷちエリ!?」
彼女のいう通り。
露店の看板には『ぷちエリ大特価!』と書かれていた。
まだ表に出ていない値段表には1万ゴートと記されている。
俺は呆気に取られて露店を見ていた。
想像以上に早すぎる。一体どうするべきか。
見逃すなんてのはもってのほかだが。
店を組み立てていたごろつきがニヤニヤしながら話しかけてくる。
「おう、買ってけよ! 死んでも生き返る万能薬だ。安くしとくぜ!」
「何言ってんのよ、偽物じゃない!」
「なんだとこのやろぉ! 本物のぷちエリに決まってんだろ!」
「半額なんてありえないでしょ!」
「安いのは製造途中で弾かれた訳あり品だからな。でも中身はちゃんと回復するぜ?」
「そんな――んぐっ」
まだ言い返そうとしていたテティの口を俺は塞いだ。
引きずって少し離れる。
ごろつきどもはその様子をニヤニヤ笑って見ていた。
――俺やテティが誰か知っているのか?
テティが眉間にしわを寄せて俺を見上げる。
「どうするの、アレクさま?」
「なに。普通に対処すればいい――が、ちょっと準備がいるな」
俺は子機を出して耳に当てた。
「コウ、作り替えたか?」
『はーい、ますたー。店のも在庫も、全部クラウン印入れたですー』
「ありがとうな。今、店は忙しいか?」
『いつでも閑古鳥です?』
「暇ってことか。じゃあリリシアに五本ぐらい持ってきてくれるよう言ってくれ。場所は――」
説明しようとしたらコウの言葉に遮られた。
『子機の場所はわかるです。アタシから伝えるです』
「そうか、頼む」
俺は通話を切るとテティとシェリルに言った。
「テティ、冒険者ギルドまで走ってエドガーにすぐ来るよう伝言してくれ。シェリルは衛兵を呼んできてくれ」
「はいっ、アレクさま!」「わかりました、行ってきます!」
二人のエルフは飛ぶようにその場を去る。
場所的に店の方が近い。
リリシアが先に来るだろう。
というか同じ裏通りに露店出すとかもう、完全に営業妨害だろ。
――じゃあ、やるか。
あとは相手から手を出させてケンカに発展させる。
それを人々に見せつけて、目撃者として証言してもらう。
さっきテティが騒いだことで、まだチラチラとこちらを気にしている人たちがいるからいけるだろう。
俺はゆっくりと露店に近づいた。
二人の男をじろじろと観察する。
二人とも三十は越えていそうな男だ。髪はぼさぼさで無精ひげをはやし、服も薄汚れている。
主犯格、といった感じはしない。誰かの命令で動いてる下っ端だろう。
この年になってもまだ下っ端なんだから、俺と同じぐらいうだつの上がらなさそうなおっさんだと思われた。
そこで俺は相手を怒らせるため、過去、自分が言われたことを思い出しながら言った。
「ぷちエリの偽物を売ってぼろ儲けしようってか」
「はぁ? どこに偽物って言う証拠があるんだよ? さっき言っただろ、訳あり品だっつってよ」
「訳あり品なんて出ない製造法なんだがな? ったく、お前ら『その年になって、こんな仕事しかできないのか?』」
「「あ?」」
ごろつきどものニヤニヤ笑いが固まった。
俺は鼻で笑いつつ、言葉を続ける。
「こんな小さい仕事して楽しいのか? 『つまらない仕事ばかりして、何のために生きてきたんだ?』」
「ケンカ売ってんのか、てめぇ?」
男の一人が露店から出てきて俺の前に立つ。
顔が怒りで紅潮している。
「ケンカ? お前ら程度じゃ相手にならないから、やめとけ。『どうせまた失敗するよ。大きな仕事を一度も成し遂げてないお前じゃ無理だ』」
「ぶっ殺す!!」
男がナイフを抜いて襲い掛かってきた。
俺はバックステップして、ナイフをかわす。
男はただ怒りに任せて何度も振るうが、大ぶり過ぎて簡単に避けられる。
――全部、勇者として任務失敗した時に言われた言葉なんだがな。
怒らなかった俺は偉かったのかもしれない。
まあ、当時はすでに倒してたから見つけられなかったなんて気付かなかったしな。
「ふん、この程度か。『君も頑張ってるんだろうけど、この程度じゃ働いたうちに入らないよ』」
「くそがぁぁぁ!!」
顔を真っ赤にしてさらに大ぶりで切りかかって来る。
俺がかわすとたたらを踏んで止まり、また向かってくる。
俺は冷静に攻撃をかわしながら、周囲に目を配った。
周囲には証人となる人々が集まってきている。
「いったいどうしたの」「あれ、アレクさまじゃないかい?」「あいつがいきなり襲ってきたんだよ」「ぷちエリって……逆切れでもしたのか?」
遠くから白い修道服を揺らしてリリシアが走ってくる。
後ろには金髪をなびかせて走るシェリルと、数人の衛兵の姿も見える。
――よし、もういいだろう。
俺は拳に聖波気を込めつつ言う。
「そろそろ終わりにしようか――ハァッ!」
大ぶりなナイフをかいくぐって、男のみぞおちを思いっきり殴りつけた。
「ぐはぁっ!」
男は吹き飛んで建物の壁に激突した。
腹を抑えてうずくまる。
殴っても跡が残らないヒールパンチ。
手は出していない、相手が勝手に転んだ、と言い訳できる優れものだ。
男が一撃で倒れたのを見て、もう一人の男が逃げ出そうとした。
「くそっ、覚えてろよっ!」
男は悔し気に捨てセリフを吐いて逃げ出した。
しかし、ぼさぼさ髪の長身男が、すっと現れて逃げ道をふさぐ。
「ここは通行止めっすよ?」
「な、なんだお前! どけ――痛ててっ!」
エドガーが逃げようとした男の腕をねじりあげて壁に押さえつけた。
そこへまずリリシアが駆け付けた。
「ご主人様っ」
リリシアが小瓶を渡してくる。
俺は受け取ると頭上に掲げた。周囲に見えるように。
「こいつらはやってはならないことをした! 見えるか? 本物の『ぷちエリ』は王室ご用達、クラウン印が入っている! 王様のお墨付きだ! それを偽造したこいつらは犯罪者だ!」
ざわざわっと遠巻きにしていた人々が騒ぎ出す。
「なんてことを!」「まあ! ぷちエリって国王様が認めてたのね!」「そいつぁすげぇ!」「あいつら、やっちゃいけないことをしたんだね」「さすがアレクさまなんだからっ」
よく通る澄んだ子供の声まで聞こえた。
チラッと見ると、エドガー隊の子供たちだった。頼んでなかったのに、扇動に付き合ってくれたらしい。
あとで何かお礼しないとな。
そしてシェリルが連れてきた衛兵たちが到着した。
隊長らしき男が、前に出てくる。
「いったいなんの騒ぎだ!」
「隊長さん、そこの二人がクラウン印を持つぷちエリの偽物を売りさばこうとしてたんですよ。それを注意したら襲い掛かってきて……」
俺は本物のぷちエリを隊長に手渡した。
彼はまじまじと小瓶を眺める。
「本当か!? どれ……こ、これは正式なクラウン印! ――お前たち、この者たちをひっ捕らえろ!」
「「「ははっ!」」」
衛兵たちがすぐさまごろつきを縛り上げる。
男たちは必至で反論する。
「違う、本物だ!」「クラウン印なんて、聞いてねぇ!」
しかし衛兵たちは周囲の人々に話を聞いていく。
「あの男たちがいきなり襲い掛かってた」「アレクさまは悪いことする人じゃないよ」「遺品をわざわざ届けてくれるぐらい、いい人だよ?」「あの男、攻撃されても手を出してなかったぜ。さすが、できる男は違うよな」
俺に有利な証言ばかりだった。
男たちは衛兵に引っ立てられていった。悪態をつきながら。
隊長が俺を見る。
「あんたは確か、勇者アレクか?」
「元勇者だ。――もし調書が必要なら俺も一緒に行くが?」
「そうしてもらえると助かる」
「わかった」
俺は顔だけリリシアとシェリルに向けて言った。
「リリシアとシェリル、ありがとうな」
「はい、わかりました」「いえ、当然のことをしたまでです」
「あとエドガーもありがとうな。助かったよ」
「これぐらい問題ねーっす。……あとちょっと伝えたいことが」
「わかった店で待っててくれ――あれ? リリシア、テティは?」
「まだ冒険者ギルドにいるようです」
「そうか。一人は危険だ、すぐ迎えに――」
するとエドガー隊の子供の一人が傍へ来た。頭を隠すように帽子を被っている。
てか、この白いブラウスに黒いスカートの服装……。
その子供は可愛い声で言った。
「あたしはいるよっ」
「テティも紛れてたのか」
「うん! あの子たちと一緒に来たの」
えへへ、と顔を上げて笑う。えくぼが可愛い笑顔だった。
リリシアが、ふふっと笑う。
「あの短い時間でも子供たち同士、気が合ったようですね」
「なんかさぁ、似た感じがして~」
「ああ、そうかもな」
エドガー隊の子供たちは孤児。
テティも両親がいなくなってからは、長いこと一人で生きてきた。
そういう意味では似ているのかもしれない。
エドガーも心配なのか、テティをぼさぼさの髪の下からじっと見つめていた。
――と。
衛兵の隊長が傍へ来た。
「じゃあ、付いてきてくれ。詰め所に案内しよう」
「ああ、わかった――リリシア、テティと一緒に先に帰っていてくれ」
「はい、ご主人様。……行きましょう、テティちゃん」
「はーいっ」
テティとリリシアが離れていく。
俺はリリシアたちと別れて、詰め所へ向かった。
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