90.シェリルを雇う
昼過ぎの王都。
ホワイトボアに襲われたテティとシエルを助けた俺は、昼食を軽く済ませてから奴隷商へ向かった。
どうしても強くなりたいと願うテティのため、エルフ美女のシェリルを雇うつもりだった。
――まあ、俺としてもテティには元気に、強くなって欲しいところだ。
そして痩せた年配の男である奴隷商人サイモンに用件を伝えるとさっそくシェリルを呼んでくれた。
シェリルは条件奴隷なので、金額は交渉となる。
俺とリリシアはソファーに座り、対面にシェリルが座った。
エルフだけあってスタイルと顔が整っている。リリシアには負けるが大きな胸が目立っていた。
彼女は金髪を手で後ろに払うと、テーブルに少し身を乗り出した。大きな胸の谷間が強調されてつい目が行ってしまう。
――ダメだ、リリシアを思い浮かべるんだ。いや横を見ればいいだけか。
俺が隣に座る絶世の美女リリシアをチラ見していると、シェリルが知性を感じさせる澄んだ声で話し出した。
「お久しぶりです、アレクさま。今日は私を雇いたいということですが、どういった仕事内容でしょう?」
「ああ、エルフの少女、いやハーフエルフだったか。あのテティにエルフの生き方とか、戦い方を教えてやって欲しい」
「なるほど……では、少しお待ちください」
そう言ってシェリルは立ち上がった。
短いスカートから延びるすらりとした脚を動かして奴隷商人へと向かう。
何事かを話すと、すぐに戻ってきた。
対面に座って真剣な顔で話し出す。
「ではテティの指導料として、期間は数ヶ月で15万ゴート。その間の私の食費と住居、及び経費はアレクさん持ちということでよろしいでしょうか?」
「あれ? 安くないか?」
確かシェリルは仕事内容にもよるが、基本料だけで100万ゴートぐらいしていたはずだ。
シェリルは金髪を揺らしてうなずいた。
「サイモンさんと話して決めました。私が奴隷商に先払いした紹介手数料分だけで問題ありません」
「手数料払うのか」
「ええ、無条件奴隷は奴隷商がすべての面倒を見ますが、条件奴隷は仕事を探してもらう手数料が発生します」
「そういう仕組みか。でもいいのか? シェリルの儲けがなくて」
「はい、テティを助けて欲しいとお願いしたのは私ですから。エルフ仲間を差別せず、助けていただいて本当にありがとうございます。さすが勇者様です」
シェリルは深く頭を下げた。美しい金髪がさらりと流れる。
――テティを第一印象だけで嫌って、放置しなくて本当によかった。
「元勇者だ。じゃあ、その値段でテティの指導、頼めるか?」
「はい、わかりました。もう今日から働きますか?」
「そうだな。顔合わせぐらいしとこう」
「わかりました」
俺は大金貨1枚と金貨5枚を渡した。
交渉成立と見た奴隷商人がそばへ寄ってきて恭しく頭を下げる。
「では、契約の支度をしましょう」
契約書と、その契約内容を刻んだ隷属紋がシェリルの白くしなやかな手に刻まれる。
条件奴隷はいらないのかと思ったが、リリシアの時と同じでやっぱり血を一滴取られた。
そして奴隷商を後にした。
「ご活躍のご様子、なによりでございます。またのご利用、お待ちしています」
サイモンは深く頭を下げて見送った。
――金を稼いでいること知ってるのか。
コーデリアを雇う必要があるからな。
店へと戻る途中、シェリルにサイモンはどんな奴か聞いた。
かなりのやり手らしい。
館で対面販売するだけじゃなく、優秀な人手を欲しがっているところにぴったりの人材を紹介しているそうだ。
まあその分、条件奴隷は職やスキルの秀でた人材しかなれないらしい。
奴隷暮らしも大変そうだと思った。
◇ ◇ ◇
店に戻ってテティを呼んだ。
店の奥から白いブラウスと黒いスカートを着たテティが出てくる。
「こんにちは、シェリルお姉さん」
「元気になったみたいね、テティ」
「うん、アレクさまのおかげっ。お姉さん、よろしくね」
テティが笑顔でシェリルに抱き着いた。金髪がふわっと広がる。
シェリルが目を細めて嬉しそうにテティの頭を撫でた。
横で見ていた俺はこれからのことを尋ねる。
「で、どこで練習するんだ?」
「そうですね……魔法や弓術の練習自体は冒険者ギルドの練習場を借りればおこなえますが、まずは基本になる各精霊との意思疎通を試したいと思います。森に行きましょう、テティ」
「はい、シェリルお姉さん」
テティが金髪を揺らして頷いた。幼い顔が凛々しく引き締まっている。
俺はカウンターに座るソフィシアを見た。
「店番は大丈夫か?」
「んー、ちょっと交代要員は欲しいかも。お昼ご飯もお昼風呂もまだですから」
「ふむ。条件奴隷は雇われてる間に見聞きしたことを、契約終了後に話せてしまうか?」
「基本的には話せません。話そうとすると電撃が流れて失神する仕様です……が、秘匿したい情報がある場合、やめておいた方がいいですね。禁術を使えば聞き出せますので。情報を抜き取られた方は死にますが」
「なるほど……なるほど、自分の身の安全のためにも秘密は知りたくないというわけか」
もし重要な秘密を知ってしまった場合、無理矢理聞き出されてしまう危険があるわけか。
俺は大きくうなずいた。
「わかった。じゃあ、リリシア。俺はシェリルとテティで森へ行ってくる。店番を――おっと、そうだ」
「なんでしょう?」
俺はマジックバッグから王様にもらったクラウン印の見本を取り出した。
「これをコウに渡してぷちエリを作り替えておいてくれ」
「わかりました、ご主人様。お任せを」
リリシアが見本を受け取ると、銀髪を揺らして真剣な顔で頷いた。
――うん、ぷちエリを守るための大切なクラウン印だ。
ホワイトボアの騒動で忘れてたなんて言えないけど。
俺は表情を取り繕うと、シェリルとテティに言った。
「よし、行こうか。シェリル、テティ」
「はいっ」「うん!」
それからエルフの美女と美少女を連れて店を出ると、俺たちは南東の森に向かった。
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次話は明日更新
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