79.ダンジョンの拡張と攻略とポイズン!
朝食を終えた俺は、ダンジョンに入ってコウのところへ行った。
いろいろやることはあったが、まずは敷地の拡張だった。
せっかく聖域認定に必要な聖獣ペガサスが来てくれたのに、住環境が悪くて逃げられたら困る。
奥の広間に鎮座する、丸い球体のコウに話しかける。
「で、屋敷の周囲に厩舎や水飲み場、池や畑なんかも欲しいんだが、作れる方法はないか?」
「できぬですが、あるですよ?」
白い球体の表面を、嬉しそうに青く光らせるコウ。
もうその態度で何が必要かわかってしまった。
「あれか。ダンジョンコアのコアがあればできるんだな?」
「ご名答です、ますたー。正確にはフィールド型ダンジョンの森林か草原を追加すればできるです」
「またコアか……」
「今で満足、さらなる――」
「さらなる快適、ますたーのお気持ち次第です、だろ。もう覚えたわ」
途中から声を合わせて言ったら、コウがとっても喜んだ。
球体の表面に青い光が走りまくる。
「はいですー! ダンジョンコアのおもてなしーですっ!」
「裏はありまくりだけどな」
「なにをおっしゃいますやら! アタシは、うららはあっても裏はないですっ。弾けるレモンの香り、キュアダンジョンコアですっ!」
「はいはい、意味わからん。……じゃあ、楽そうなダンジョンを選んで――」
そこへソフィシアが僧衣を揺らして手前の広間を通りかかった。
リリシアは今、テティをお風呂に入れている。
俺は少し大きめの声で呼びかけた。
「ソフィシア、冒険者ギルドでリリシアが調べたダンジョンの地図、どこにあるか知ってるか?」
「ああ、それなら書庫にありますよ」
ソフィシアが広間に入ってくると、壁際のドアを開けて書庫に入った。
すぐに丸めた地図を持って出てくる。
受け取って礼を言った。
「ありがとう、ソフィシア」
「いえいえ~。またダンジョン退治ですか?」
「ああ、ペガサスのためにはコアが必要でな」
地図を広げると、コウの表示している画面のダンジョンと見比べる。
「やっぱりアンデッド系がいいんだが、あんまりないな」
「だいぶ倒したですー。もともとアンデッド系はあんまり人気ないですゆえ」
「そうなのか……お、ここはアンデッド系だな」
「あー、そこは。ダメですアレクさん」
「なんでだ? 知ってるのか、ソフィシア?」
ソフィシアは、すらりとした細い指で地図を指さす。
「ここはカタコンベです。教会が司祭昇格試験に使用してるダンジョンですから、聖導騎士団と神官たちが防衛に当たってます」
「戦いを挑むと教会を敵に回すな……お? 待てよ? ここの、冒険者ギルドが知らないダンジョンはどうだ?」
俺が指さすとコウが淡々と答えた。
「そこは閉鎖系ダンジョンっぽいです」
「閉鎖系」
「入り口を閉じて、内部の生態系だけで活動してる細々としたダンジョンです?」
「んー、なんかコツコツやってるダンジョンを襲うなんて悪い気もするが、やるしかないか」
俺だって背に腹は代えられない。
コウに伝える。
「じゃあ、リリシアが来たら行くぞ」
「はいです」
ふと俺は辺りを見回した。
ソフィシアが首をかしげる。
「どうされました?」
「そう言えば、聖白竜の子供は?」
「アレクさんが帰ってきてから、ずっと寝てます」
「まだ寝てるのか」
「というか、アレクさんがいない間、ずっと起きてた反動かもしれません」
「マジか! 二日間だぞ? 留守の間ダンジョン守ってくれって約束、そこまでして守ってくれてたのか」
「ドラゴンちゃんは、頑張り屋さんみたいです」
ふふっとソフィシアが微笑んだ。
俺はドラゴンを褒めようと考えて、名前を知らないことに気が付いた。
「そう言えば、ソフィシア。聖白竜の名前はなんて言うか知ってるか?」
「いえ、聞いてないです。何言っても「きゅい」しか言わないので」
「それもそうか。名前がないのも不便だな。きゅいちゃん、でいいか」
「それはちょっと……」
ソフィシアが困ったように眉を寄せた。
ダメらしいので、俺は違う名前を提案する。
「じゃあ、きゅーちゃん」
「もっとダメな気がします」
傍にいたコウが突然「きゅ、きゅ、きゅ。きゅい、きゅい!」と歌い出したが無視した。
俺は首をひねりつつ唸る。
「う~ん、難しいな。まあ本人がいるところで考えるか」
「はい。では私は店の開店準備してきますね」
「ああ、頼んだ」
ソフィシアが青い髪を揺らして広間を出て行った。
俺はリリシアを待ちながら、ぼんやりとドラゴンの名前を考える。
――やっぱり、自分に関係する名前の方がいいよな。
コウだってコアだからコウになったんだし。
うーん。
あのドラゴンはセイクリッドドラゴンだから~。
略して、ドドゴン、なんてどうだろう?
かっこよくて強そうだ。きっと気に入ってくれるに違いない。
俺がうんうんと頷いていると、リリシアが白い修道服を揺らしてやってきた。
「お待たせしました、ご主人様」
「よし、じゃあダンジョン攻略に行こうか」
「はいっ」
リリシアがバサッと翼を広げて浮かんだ。手には銀色のフレイルを持つ。
俺は球体に顔を向けて言う。
「じゃあコウ、さっきの閉鎖ダンジョンで」
「あいあいさー」
手前の広場の壁に通路が作られる。
俺とリリシアはゆっくりと歩いて向かった。リリシアは少し浮いていたが。
通路を歩いていくと、敵のダンジョンが見えてきた。
横で浮かぶリリシアが美しい眉をひそめる。
「なんでしょう……もやがかかってます」
敵ダンジョン内部には、緑や紫の霧が立ち込めていた。
俺は通路の出口に立つと、リリシアを手で制した。
そして手だけ敵ダンジョンに入れてみる。
すると俺の聖波気に押されたのか、霧は掻き消えるように消え去った。
俺は首をかしげる。
「なんだ、トラップとかじゃなかったのか。空気が澱んでいただけかもな」
「みたいですね」
「リリシアは少し後ろを指眼鏡でついてきてくれ」
「はい! ――あ! さっそく敵です! Dランクの毒鼠ポイズンラットにCランク猛毒蛇です!」
「意外と強いな――毒に注意して行こう!」
「はい!」
俺とリリシアは敵ダンジョンに飛び込んだ。
紫色のネズミが群れを成して通路を走って来る。まるで波のようだった。
俺は右足を前に出しつつひねるようにして踏み込むと、裂帛の気合を入れつつ剣を突き出す。
「聖光強烈破――ハァッ!」
ドゴォ――ッ!
突き出した剣から通路の幅いっぱいの巨大な光が放出される。
「チュウゥゥゥ!」「キュヤァァ!」「ギャギャッ!」
聖剣技炸裂して鼠の群れを木っ端みじんに吹き飛ばした。
ついでに狙ってなかった緑色の蛇まで粉々になった。
一撃で敵を一掃してしまった。
リリシアがすみれ色の目を見開いて驚く。
「なんて威力! さすがご主人様ですわ!」
「最近練習してなかったが、やっぱ30年も聖剣技使ってると、体が覚えてるもんだな」
「聖剣技?」
「ああ、聖波気を剣に乗せつつ、体を法則に沿って動かして発動させる技だ」
俺は魔法は使えないが、聖剣技は使えた。
特定の動きで発動させるちょっとした魔法みたいなものかもしれない。
誰でもできるわけではなく、聖波気を持っていないとできなかった。
リリシアが感心して頷く。
「では前の、聖導斬撃や聖斬撃も聖剣技なのですね?」
「ああ、そうだ。他にもいろいろあるぞ――まあ、今は攻略に集中だ」
「あ、はい! 申し訳ありません、ご主人様! ――第二波が来ます! 今度は毒魔樹までいます!」
「問題ない、いくぞ!」
俺は剣を掲げて駆けだした。
後ろからリリシアが指眼鏡をしつつ飛んでくる。
そしてバタバタと敵を倒した。
やけに毒関係のモンスターが多いなと思いつつ。
形が残った死骸は、子機で吸い取った。
19階だったか29階だったかの攻略を終えて、下の階へ続く階段を降りる。
さらに強くなったネズミや蛇を軽く退けつつ、ダンジョンコアのいる広間まで来た。
背後を守るように飛ぶリリシアが叫んだ。
「ご、ご主人様! 広間に強い敵がいます!」
「ほう、ダンジョンマスターか」
「いえ、3体います! Bランクの毒鼠王、Aランクの黒死大蛇、Sランクの滅亡疫樹、って!? Sランク!?」
「そいつはやばそうだな。あの木か……ん?」
闇のように黒い葉っぱを茂らせた大木は、見る見るうちに葉っぱの先から粉となって消えていった。
ぶるぶると幹を震わせてまともに動けないらしい。
――好都合だ!
俺は虎ぐらいの大きさがある鼠に走りながら、リリシアに言った。
「俺は鼠を倒す! リリシアは蛇の足止めを頼む!」
「はいっ、ご主人様――天羽連弾!」
リリシアが澄んだ声で叫ぶとともに、白い羽が連続して蛇を襲った。
黒くて長い体表に、白い羽が次々と突き刺さっていく。
俺は鼠に駆け寄ったが、図体が大きい割には俊敏だった。
残像を残す勢いで素早く前後左右に飛び跳ねる。
肘と膝の動きを意識しつつ、聖剣技を発動させる。
「――多重光刺!」
俺は黒い剣を突き出した。その切っ先が、無数の刺突となってきらめく。
よけきれなかった鼠の身体に、何本もの突きが入った。
「グギャギャ――ッ!」
ネズミはどす黒い血をまき散らして倒れた。痙攣したあと、動かなくなる。
それを見届ける間もなく、俺は蛇に走った。
蛇は体をうねらせつつも一定の場所から動かない。
というか、よく見るとリリシアの白い羽が、蛇の胴体を床に縫い付けて止めていた。標本のように。
近寄って聖導斬撃で狙いをつけ、蛇の首を切り落とした。
そして不気味な黒い木を見ると、葉っぱがすべて散っていた。
ゆっくりと、前のめりに倒れていく。
床に倒れた衝撃で木っ端みじんに砕けて、そのまま掻き消えるように消え去った。
俺は首をひねりつつも、今は奥の広間にいるダンジョンコアへ走った。
紫色の球体は、焦ったかのように表面を光らせていた。
「やめて、話を聞いて――」
「悪いな。これも俺のためなんだ」
俺は素早く剣を突きさした。
紫の表面の明滅が減っていく中、敵コアが呟いた。
「言いたい事すら言えないなんて……ぽいずん」
何かやり切ったという声を残して、動かなくなった。
意味がよくわからない。
あとはコアに子機を付けて聖波気を流し込むだけ。
ダンジョン攻略終了だった。
ダンジョンコアが真っ白になったのを見届けて子機を離した。
「終わったな」
「さすがですわ、ご主人様。あっという間に攻略されるなんて……」
「動物系だったからどうなるかと思ったが、意外と簡単だったな」
「Sランクなんて手も足も出ないままでした」
「討伐部位すら残らなかったな、なんでだ?」
「たぶん闇や邪悪に近い存在ほど、ご主人様の聖波気を浴びて消し飛んでしまうのでしょう」
「そうなのか。それはそれで素材が残らなくて、もったいないな――おっと」
ガゴンッと派手な音がしてコアの横が開いた。緑と紫と黒の大きな宝石が見える。
それを取ってマジックバッグに入れた。
「じゃあ、帰るか」
「はい、ご主人様」
俺とリリシアはゆうゆうと来た道を戻った。
――手に入ったコアは3つ。
これで屋敷周りを聖獣たち用に拡張できる。
目的を果たせたので、足取りが軽かった。
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