80.庭拡張とギルマスルベル
森の朝。
屋敷の周囲に明るい日差しが降る。
毒っぽい閉鎖系ダンジョンの攻略を終えた俺は、屋敷の庭に出ていた。
傍にはペガサスの母親ミレーヌがいる。
「さて。これからも聖獣が増えるだろうから、聖獣であるミレーヌに快適に過ごせる環境を教えてもらいたい」
ちなみに森の中なので、コウのダンジョン拡張として、森林系フィールドダンジョンを選択していた。
白馬のミレーヌは長い首をめぐらせて、屋敷や周囲の森を眺めてから言った。
「そうですねぇ……泉があると嬉しいです」
「泉か、了解。ほかには? 厩舎より家の方がよかったりするか?」
「わたしたちはむしろ厩舎の方が気が楽です。洞窟のような住処もあれば、好きな聖獣さまもいるかもしれません。あとはどんな聖獣様が集まるかわかりませんので、いろいろな食べ物――例えば果樹とか木の実などがあれば」
「なるほど。俺もちょっと考えがあってな。畑が欲しかった」
「はい、それでよろしいかと」
俺は子機を取り出して通話する。
「コウ、屋敷の横に厩舎と水飲み場、風呂的な水浴び場もあったほうがいいか。それで庭に泉と岩屋と畑と果樹。できるか?」
『あいさー。まずは適当に配置しますゆえ、修正は指示おねです』
「頼む」
すると庭が光った。
家の隣には白壁で三角屋根の立派な厩舎が立った。中は板で仕切られていて藁が敷かれている。
厩舎のすぐ前には屋根付きの水飲み場ができた。大中小ぐらいの高さがあって大型から小型の聖獣に対応している。
ペガサスが肩まで浸かれる深い水浴びスペースもできた。上から細い滝が流れ落ちている。
家の周囲の塀と堀が広がり、玄関前の水飲み場は消えた。
かわりに玄関からまっすぐ舗装された小道が伸びて門まで続いた。
小道の両側に畑が広がり、果樹が生えた。
厩舎から少し離れた前方には噴水付きの泉ができた。
畑の隅には大きな岩を積み重ねた小屋が作られる。
俺は横にいるミレーヌに尋ねる。
「どうだろうか? こんな感じでいいか?」
「そうですね。鳥たちが止まれる、もう少し大きな木があってもよいかと」
「枝が横に伸びてる感じか……んー、それはまたあとだな。森の木々より背の高い大木は目立ってしまうからな」
「なるほど。他の者たちが来てから拡張しても遅くありませんね。というか一瞬で環境を整えられるなんて、さすがアレクさまです」
「仲間のおかげだ。これからはミレーヌたちも頼むぞ」
すると森の方から白馬の子、シエルが駆けてきた。
背中の翼を広げて塀をふわっと飛び越えると、畑に降りてくる。
「わぁ! ママ、リンゴの木があるよ! これ、食べていいの?」
果樹はすでに赤い実をつけていた。どういう仕組みか知らないがダンジョンなら簡単なのだろう。
ミレーヌが大きな瞳で俺を見上げる。
「いただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、好きにしてくれ。と言っても全部食べられたら困るか。畑も果樹も半分ぐらい残すようにな」
「わかりました――半分ですよ、シエル」
「はーい、ママ、アレクさん!」
人の背丈の倍はあるリンゴの木だが、シエルは翼をパタパタさせてホバリングしながら、しゃく、しゃくっと木になったリンゴをそのまま食べていた。器用だな。
「おいしい。すごくみずみずしくて爽やかで、それなのに神聖な感じがして、おいしいよっ!」
「まあ、よかったわねぇ、シエル。アレクさんに感謝ですよ」
「はーい、アレクさん、ありがとー!」
シエルはリンゴを食べながら目を細めてお礼を言った。
俺は頷いて応えつつ、子機で話す。
「庭や厩舎は今の感じでいいみたいだ。ありがとうな、コウ」
『いえいえ~。アタシもフィールドダンジョンを兼任できて嬉しいですっ』
「あと畑で育てる作物なんだが」
『はいです! 水や肥料に種蒔き収穫~、全部アタシにお任せあれ~。食材から種も作れますゆえ』
「そいつはすごいな。――だったら薬草を育てて欲しい」
『薬草です?』
「リリシアやテティに毎日森へ探しに行ってもらってるが、庭で収穫出来たら任務依頼が楽になるんじゃないかと、前から考えてたんだ。これから夏にかけて雨の降る季節になるし大変だろう」
『さすがますたー、考えることが大胆ですっ』
横にいるミレーヌも目を丸くしていた。
「森でしか育たない薬草を、森の畑で作る、と。その発想はすごいですわ」
「コウもミレーヌもありがとな。じゃあ、そういうことで」
『はーい』
俺は通話を切った。
「ミレーヌもよろしくな。設備がこのままでいいか、池の場所は子供が落ちたりしないで安全か、見回り頼む」
「ええ、こちらこそ。このような立派な住まいをお作りいただいて、本当によかったです」
ミレーヌが白い翼をバサッと広げつつ、深々と優雅に頭を下げた。心からの感謝の気持ちを感じた。
俺は気にするなと言って、屋敷に戻った。
◇ ◇ ◇
屋敷の庭を聖獣が住めるようにしたあとは日課をこなすことにした。
俺はリリシアを連れて冒険者ギルドへ行く。
冒険者ギルドは少し人が戻ってきていた。
動物たちによる畑の被害が増えたため、緊急の高額依頼が増えたようだった。
ちなみにエドガー隊が大活躍らしい。
リリシアが依頼を受けるため受付に行き、俺は掲示板で依頼から現状を探る。
「狼討伐が増えてきたなぁ……熊はまだ出てないっぽいが。狼の巣の探索依頼まで出てるな。森にあったりして」
森じゃなかったら面倒なので、調べてから明日受けてみるか。
そんなことを考えていると、ジャラッと背後で音がした。
振り返るとギルドマスターのルベルがいた。
ツインテールの紅い髪を逆巻くようにうねらせて、不機嫌そうに腕組みをして俺を睨んでいる。
「どうしたルベル? また何かあったのか?」
「ああ、アレクに聞いておきたいことがあってな」
「なんだ? 俺は特に何もしてないぞ?」
俺の言葉に、ふんっとルベルは鼻で笑う。
「最近、何者かによってアンデッド系のダンジョンが次々と攻略されているんだ。アレクの仕業じゃないのか?」
「さあ? 俺は知らないな」
何か嫌な予感がしたのではぐらかす。
するとルベルはますます眉間にしわを寄せて俺を睨んでくる。
「ダンジョンを倒したのにコアの売却に来ないのはおかしいとは思わないか?」
「さあ? そのうちまとめて売りに来たりするんじゃないのか? 大金持ち歩くより管理が簡単だろうし」
さすがに、ダンジョンマスターなんでマジックバッグやダンジョンの拡張に使いました~とは、口が裂けても言えなかった。
でも一向に俺に対するルベルの不信感はやまない。
「ふぅん。まあそういうことにしておこうか」
「でもいいじゃないか。アンデッド系の危険なダンジョンがなくなるなんて。アンデッド系は素材もほとんど手に入らないんだろ?」
「まあな。人気のないダンジョンと言える……しかし、一つは立ち入り禁止のSランクダンジョンだ。それが攻略されたのはおかしすぎてな」
「アンデッド系のSランクダンジョン!? そんな危険なのがあったのか」
「ああ、知っての通りアンデッドは強さに関係なくターンアンデッドが効く。だからアンデッド系は弱いとされて、ワンランク下がっているのだが――」
「え? そうだったのか?」
「元勇者のくせに知らなかったのか」
「いや、正面切って殴り掛かれば、たいてい倒せたから……」
俺が頭を掻きながら弁解すると、ルベルがははっと呆れたように笑った。
「ありえん強さだ。さすが聖波気の化け物。――普通はだな、ターンアンデットを唱えると、アンデッドが術者より弱い場合は昇天して、術者より強くても数秒はスタンする。だから僧侶や神官を二名用意して交互に唱えさせれば、どんなアンデッドでも攻略できるんだ」
「ほう。じゃあそのSランクだってそうやれば」
「そこのダンジョンだけはターンアンデッドが効かないドラゴンゾンビが出たんだ。聖水や聖剣、他の神聖魔法も通じなかった。だから危険すぎるんで立ち入り禁止にしていたんだが……」
「へ、へえ……それは危険だな。俺も注意しないと」
俺は背中に冷や汗が流れるのを感じた。
――俺、知ってる。その聖なる力が効かないドラゴンゾンビ、知ってる!
ルベルがじろっと俺を睨む。
「注意も何も、すでに何者かによって倒されたと言っただろう」
「ルベルは世界を廻らなくても、そのドラゴンゾンビ倒せばSSランクになれただろうに」
強引に話題を逸らすと、ルベルはアクセサリーをジャラッと鳴らして肩をすくめた。
「討伐部位が残りそうにないからな。ゾンビだと私の炎ですべて焼き尽くしてしまって倒した証明ができない。――それに聖なる力が効かないというのが引っかかっていた。高貴なドラゴンの可能性がある。だから立ち入り禁止にして様子を探っていたのだが……」
ルベルが近づいて下から見上げてくる。
俺はのけぞって一歩下がった。
そこへリリシアが帰ってきた。
「どうされました? ルベルさん、ご主人様?」
「いや、何でもない。特に関係ない話だった――じゃあ、薬草採集に行ってくるか~」
俺はリリシアの手を握って冒険者ギルドの入り口に向かった。
リリシアが銀髪を揺らして慌てて振り返る。
「はい、ではまた。ルベルさん」
後ろでは不審そうにルベルがまだ俺を見ていた。
――てか、今朝は閉鎖系ダンジョンにしておいて本当に良かった。
さらに疑われる可能性があった。
当分、閉鎖系ダンジョンだけを狙おうと心に誓った。
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ブクマと★評価、ほんとうにありがとうございます!
これからも、頑張ります!
次話は明日更新
予定タイトル→聖波気の練習




