1-31 新たな冒険へ
その日の夜は宴だった。
猪人の覚醒種を打倒する緊急クエストを完了させ報酬を受け取った俺たちは、アールの酒場へと直行し、奮発して貸し切りにした。そして協力してくれた『奇跡の縁』、『勝利の旗』、そしてなぜか一緒にいるディートリヒと共に祝杯を上げた。
戦いに生き残り、自らが街の平和を勝ち取ったことが嬉しいのか、みんなはその興奮を押し留めずに酒を呑んで暴れ回った。真面目そうだったミランダがちょっと酒を呑んだだけで顔を赤くしていろんな人に絡んでいたのが印象的だった。
店主のアールは苦笑していた。片づけには苦労をかけそうだ……。
「……今日はありがとな」
俺はサラを背負った状態で言う。
サラは戦闘で疲れていたからだろう、早々に眠ってしまっていた。
「ふむ。構わないよ。――君も、どうやら決意が固まったようだ。俺にとっては、今日はそのお祝いかね」
「……どいつもこいつも、俺の心を見透かすようなことばっかり言いやがる」
「君は分かりやすいからね。最も、それは美徳だと俺は思うがね」
そうか? と俺は眉根を寄せる。アールは肩をすくめた。
「じゃあ、また今度な」
「そうだな。また来てくれ」
他の連中はすでに帰宅していた。
ぐでぐでに酔い潰れていた連中は、酒に強いそれぞれのパーティのメンバー……アリエスやフィルなどが責任を持って連れ帰っていった。大変そうだ……。
俺とサラは最後に店を出て、夜道を歩いて借りている宿屋へと帰宅していく。
「すぅ……」
首元で寝息を立てるサラの体は軽かった。
……こんなに軽い体で、俺の前に立ってあの怪物どもと戦っていたのか。
もっと、足りない体格の分、いやそれ以上に――俺はサラを支えてやりたいと思う。
そんなことをつらつらと考えながら宿に辿り着くと、
「心配、してたんですからね」
声が聞こえた。
扉の前に佇むのは、ウエイトレスの恰好をした金髪ポニーテールの美少女。
「リース……」
サラを背負っている俺を見て、不満を示すように頬を膨らませている。
「……まさか、ずっとここで待ってたのか?」
「ふん、ロイドさんのためにそこまではしませんよ。単に、仕事が終わったから店の前を掃除していただけですからっ!」
「……悪かった」
俺が頭をかきながら謝ると、リースは寝息を立てるサラを一瞥して、言う。
「何が冒険者を辞める、ですか」
「ああ……どうやら俺は、冒険者を辞められないらしい」
「心配したあたしが馬鹿みたいです。本当にもう、平気で元鞘に戻っちゃって……!」
それはちょっと違うんじゃないかと思いつつも口には出さなかった。
触らぬ神に祟りなし。
「それに、何か言うことがあるんじゃないですか?」
「……ごめん?」
「それはさっき言ったじゃないですか、もういいですよ。許します」
ジト目で見上げてくる少女を見て、俺は得心した。
「……ただいま」
「はい――おかえりなさいませ、お客様!」
◇
こうして猪人の覚醒種との戦いを終えた俺たちは、翌日を休日とした。というよりもサラが疲労からか昼までまったく起きなかっただけなのだが。
ともあれ、そんな感じで体を休め、冒険者としての活動をするのはその翌日になった。
「――はい、これでパーティ名の登録が完了しました」
「ありがとう!」
受付嬢に元気よく感謝をするサラを横目に、俺は目礼する。
パーティ名の登録をしたことで、いっそう新しい始まりだという意識が高まってきた。
頑張ろうと気合を入れたけれど、俺以上にサラのテンションが高い。
「よし、ロイド! 冒険だよ! 冒険に行こう!」
「はいはい」
サラは気づいていないようだが、ギルドの注目も俺たちに集まっている。
大方、猪人の覚醒種を剣で斬り倒した新人がいると噂が広まっているのだろう。
いくらベテランの俺が支援していたとはいえ、猪人の覚醒種を斬り倒せる剣術は本物。
――今やサラは、ギルドでも一目置かれる存在のようだった。
当の小さな少女は、俺を見て不思議そうに小首を傾げる。
「どうかした? わたしの顔に、何かついてる?」
「……いいや、何でもない。行こうぜ」
「うん!」
そして俺とサラは二人並んで、冒険者ギルドの通路を通って迷宮へと向かう。
「新パーティ、始動だ!」
「一緒に戦ってくれる仲間、集めないとなー」
「そうだね! 良い人が仲間になってくれたら、嬉しいな!」
「募集でもしてみるか……?」
やいのやいのと言いつつ、俺たちは冒険者活動をスタートする。
今はまだ二人しかいない弱小パーティ。
けれど、いずれは迷宮を完全攻略する最強パーティになることを夢見て。
俺は――迷宮への一歩を、再び歩き出した。




