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支援術師の迷宮探索記  作者: 雨宮和希


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1-19 支援術師の指揮能力

 ――冒険者パーティ『奇跡の縁』。

 主として迷宮地下十二階層周辺を狩場とする、中堅パーティの一角。

 人数は五人で、前衛二人、後衛二人、遊撃一人。

 内訳は剣士、盾戦士、魔法使い、僧侶、盗賊とオーソドックスな構成だ。

 遊撃役にして盗賊のバートがリーダーとして、パーティの指揮を取っている。

 俺は彼らの実力を知っているわけではないけれど、そういえば最近の新人の中では中々に成長が早いパーティだとかいう噂を聞いたことがある。

 支援術師の目で個々の能力をざっと見たが、この階層を狩場にするには十分だと思う。

 サラと比較すれば当然はるかに見劣りするが、パーティの力は個の力ではない。個と個が協力し合うことによる連携の力だ。このパーティを相手にサラ一人では敵わない。

 そうでなければ、パーティなど組む意味がない。

 今、壊滅の危機に陥っているのは……まあ、運が悪いとしか言いようがない。

 中層からモンスターが上がってくるなど、災害のようなものなのだから。


「……まずいな、来るぞ。構えろ!」


 俺が言うと、場の空気が一気に緊張を帯びる。

 さっき聞いたところ、シェリルという名前らしい剣士の回復は間に合わなかった。

 というより、シェリルが回復しきって不利になる前に勝負を仕掛けたかったのだろう。

 最初は両方の出口を押さえている有利を取っていたが、ヒーラーのアリエスが剣士のシェリルに治癒を施している場面を見て、俺たちに回復手段があると悟り、即座に作戦を切り替えてきたらしい。

 相手は猪人。中層の怪物だ。その程度の知能は当然のように備えている。

 猪人が突進してくる。

 だが、それは猪人が出口を塞いでいる利を捨てたという意味をも孕んでいる。

 ならば、隙を突いて突破するまでだ。


「――サラ」

「分かってる、こっちも来る」


 肩越しにサラの背中を一瞥すると、そっち側の猪人もゆっくりと近づき始めていた。


「頼む――《ツヴァイカルト》」

「うん」


 サラに全能力向上の効果を持つ上級支援術を付与する。

 その効果幅は、おおよそ二倍。

 効果が高い分だけ俺の負担も大きいけれど、いくらサラとはいえ猪人と単独で戦うのなら支援を惜しんではいられない。

 そして――その分、俺はこっちの戦闘で支援術を使えなくなる。

 支援術にも許容量キャパシティというものは存在する。具体的には六、七人ほどを対象とした支援術を使うなら、別の術式を同時展開できるのは五つが限度だ。

 下級、中級、上級――といったように単純な分類がなされている支援術において、上級ともなれば使用には相応の負担がかかり、それ以外の支援術は下級を数回ほど付与する程度が精一杯だ。当然、支援術を使えば使うほど体力は消耗していき、許容量も減っていく。

 また許容量を回復させるには、宿屋で一晩眠るぐらいの休養がないと駄目だろう。

 それでも並みの支援術師と比較すると破格の実力を有しているのは自惚れでも何でもなく単なる事実だが、だからこそ支援術師という職業の不便さが際立つ。

 ――などと泣き言を言ったところで、目の前の危機がなくなるわけではないのだけれど。

 厳しい戦いになるだろうけれど、何も正面から倒せと言っているわけではない。


「来るぞ! クラッサは前に出ろ! ――《キュアリング》」

「お、おう!」


 鉄製の大きな盾を持ったタンク役の青年が、怯えつつも前に出る。

 その間にも猪人は突進してきていて、『奇跡の縁』の足は自然と一歩退いている。

 先ほど殺されかけた恐怖がいまだに抜けていないのだろう。

 無理もない。

 その恐怖はそう簡単に克服できるものではない――が、それでも戦ってもらうしかない。

 リーダーのバードに視線を送ると、彼は強く頷き返してくれた。


「やろう、みんな! 展開するんだ!」

「は、はい!」

「了解」

「……私も、もう大丈夫です! やれます!」


 剣士のシェリル、盗賊のバートが左右に展開し、魔法使いのカールと僧侶のマルコスが後ろに下がった。

 シェリルの回復は不十分だが、何とか動けるようになったらしい。


「無理はするなよ」


 俺は言いながら後ろに下がる。カールの魔法、マルコスの治癒の射程を俺が邪魔することになってはいけないからだ。

 ――が、下がりすぎるとサラの戦闘範囲と重なるため、二歩ほど退いたあたりでカールとマルコスを押し留めた。


「……魔法、何が使える?」

「水と火。火属性なら中級がいくつかは……」

「上出来だ。構えてくれ、タイミングは俺が指示していいか?」

「あ――ああ、任せる……!」


 支援術師という職業の関係上、俺は指揮を取ることが多い。

『勇気あるもの』ではリーダーのレックスが敵に特攻することしか考えていないバカなので基本的にはサブリーダーのアルダスが指揮を取っていたが、状況次第では俺が指揮することもあった。

 後方からすべてを見渡せる後衛は、指揮を取りやすい。

 中でもパーティ全体のバランスを見て支援を付与していくのが支援術師の仕事。

 であれば、本質的に他の職業よりも指揮は得意としているはずなのだ。

 そして――指揮ぐらい取れなければ無能職とすら揶揄される支援術師に生きる道はない。


「クラッサ、しっかり受け止めてくれよ!」


 真正面に猪人が立っているのは、きっと途轍もない重圧だろう。

 タンクのクラッサは一八五センチほどもある高身長だが、しかし猪人の体格はどう見ても二メートルを超えているし、横幅だって人間の比ではない。


「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォ!!」

「――こなくそ……っ!!」


 咆哮。

 後方にいる俺のところまで、ビリビリとしたプレッシャーが押し寄せてくる。

 それでもタンクを名乗る以上、クラッサは猪人の攻撃を受け止めなければならない。

 ゴン!! というすさまじい音が炸裂する。

 しかし、


「え……あれ……?」


 驚いたような声を出しながら、クラッサは猪人の剣を受け止めていた。

 押されることもなく、がっしりと抑え込んでいる。

 ――《キュアリング》は防御力向上の支援術だが、硬化の意味合いも孕んでいる。

 つまりは単純に体が堅くなり、うろたえにくくなるのだ。

 その分、少しだけ動きにくかったかもしれないが、タンクならさほどの影響はないだろう。

 もちろん《キュアリング》を使うことは作戦として、シェリルの回復中に伝えてある。

 だが、純粋にその効力に驚いたのだろう。

 先ほどまではまったく耐えることができなかったのだから、支援術でここまで変わるとは思っていなかったらしい。


「ブオ……」


 猪人は攻撃を受け止められたことに目を見開く。

 当然次の動作に移ろうとしているわけだが――そうはさせない。

 驚きは、つまりは予想の裏をかかれたことを意味し、そこに隙が生まれる。


「バード、シェリル――」


 指示を出すまでもなかったらしい。

 タンクが攻撃を受け止められるのなら、パーティのリズムを取り戻せる。

 右からシェリルが剣で斬りかかる。

 猪人は後退することで回避するが、その動作でクラッサがフリーになった。

 だから、もう一歩。クラッサは盾を前に出し、片手剣を振りかぶって踏み込んでいく。

 突き出すような形で振り出された剣を、猪人は思いのほか俊敏に屈みこんでかわす。

 だが、クラッサは屈んだ猪人に対して、そのまま左手の盾を叩きつけた。

 シールドバッシュ。

 重い鉄製の盾で行えば、いくら猪人の体格でも、よろめきは避けられない。

 その隙を逃さず、後ろに回っていたバードが短剣を背中に差し込んだ。


「堅……っ!?」


 猪人の悲鳴が上がり、しかし傷は浅い。剛毛が、深く刺し込むことを防いでいた。

 まずい。

 猪人の顔が赤くなっていく。それは怒りの証明だ。


「バード、かわせ!! ――シェリル!」

「く――っ!?」


 猪人は急速に振り向き、強引に振り回すような勢いでバードへ叩きつけようとする。


「はぁ……っ!!」


 そこでシェリルが足元へと振るった剣が、猪人の脚を削った。

 血飛沫が舞い、腱を斬られた猪人はがくりと膝をつき、隙を晒してしまう。


「――今だ!!」

「いや、猪人から離れろ!!」


 攻勢に移ろうとしたバードの指示に重ねるように俺は指示を出した。

 これは経験に基づく勘。それを証明するように、猪人は拳を地面に叩きつける。

 ダァン!! と鈍い音が炸裂し、地面がぐらついた。流石に俺のところまでは大した影響はないけれど、猪人の近くにいた三人は僅かに体勢を崩してしまう。

 もし攻撃を仕掛けるために前のめりになっていれば、転んだところを串刺しになっていたかもしれない。だが、ピンチは転じて今度こそチャンスだ。

 周囲の三人が一斉に離れ、猪人は四つん這いの体勢からまだ復帰していない。


「カール」

「我に導かれし火の精霊よ、魔を滅する炎の剣となれ――《ファイアスピアー》!!」


 二節詠唱から放たれる火属性中級魔法。

 ごう、と燃え盛る火炎によって象られた槍が、猪人の体に炸裂した。

 仮にも中級魔法。いくら堅い猪人の剛毛とはいえ、一たまりもないだろう。

 その威力を証明するように、剣をからんと取り落とした猪人は、その直後に崩れ落ちた。


更新遅れててすみません。

試験期間のため8/5まで更新ペース遅いです。

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