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1-12 夜道

 魔石の換金を終えた俺たちは、日が落ちて魔石灯がついた大通りを並んで歩いていた。


「えへへ、お金―♪」


 サラは上機嫌に布袋に入った金をじゃらんと揺らしている。


「これで、お腹いっぱいご飯が食べられる……!」

「目立つからしまっとけ。金目当てのごろつきに襲われるぞ」

「返り討ちだよ!」

「だとしても、余計なトラブルに巻き込まれるのは面倒だろ」

「……そっか。分かった」


 若干拗ねたようにしつつも、サラはお金を大人しくバッグにしまう。


「そういやお前、この街に来るまでの金はどうしてたんだ?」

「これでも一応、破神流剣術の段位持ちって肩書きあるから、師匠に紹介してもらって商人の護衛とか、傭兵みたいなことやったりしたよ。でも基本は、王都の道場で級位者たちに指導してお金をもらってたかな。でも、みんなわたしの指導は分かりにくいのか、嫌そうにしてたけど……手合わせもなんか嫌がるし……」


 それは多分、自分より小さな少女に教わっていると情けなくなるとか、そういうモチベーション的な問題ではないだろうか……と思ったけれど、口には出さない。


「道場の経営も手伝ってたし、そうやって過ごしていくこともできたけど……わたしは冒険者になりたかったから。ちゃんと力をつけるまでは、師匠が迷宮都市に行く許可を出してくれなかったけど」

「へぇ……」


 なかなか厳しいな。

 サラの戦闘センスなら、多少剣術が甘くても新人としては優秀だったと思う。

 ……が、サラを優秀な新人程度の評価で終わらせたくなかったというのなら、分かる。

 そんな俺の思考をよそに、サラは話を続ける。


「二か月前に四段になって、師匠からようやく許可が出たんだよ! 今のお前なら、冒険者になれるだろう。迷宮都市に行ってもいい――って!」

「四段を取るまで認めてくれなかったのか。お前より弱い冒険者なんてたくさんいるけどな……」

「仮にそうだとしても、わたしは師匠に感謝してるよ。まだまだ未熟だけど……その日々があったから、モンスター相手でも自信を持って剣を振るえるんだ」


 サラは少し足早に歩き、振り返ると同時に笑顔を見せた。

 夜を照らす魔石灯の光がサラの髪を反射して、美しい彩りを見せる。

 澄んだ宝石のように蒼い瞳が、俺をまっすぐに見ていた。


「ご飯、どうする? お金もたくさんあるよ!」

「そうだな……アールの奴がやってる酒場にでも行くか」

「わたし、お酒は飲めないよ?」

「見れば分かる。飯も美味いから心配するな」

「やった!」


 飛び跳ねるサラを横目に、俺は街を歩いていく。

 今日の稼ぎは、上層を狩り場とする冒険者としては悪くない方だ。というのも、特別儲かっているわけではなく、単純に人数が少ないという問題だけれど。

 ともあれ今日の稼ぎだけでも、少なくとも数日は暮らしていけるだろう。

 上層を狩り場とする冒険者は、迷宮に潜った次の日を休養日とし、その次の日には迷宮に潜る――といった生活をしていることが多い。

 体力面の問題と稼ぎを考えれば、自然と迷宮に潜る回数が多くなる。


「明日はどうするの?」

「休みだ。お前も疲れてるだろ」

「そうでもないよ?」

「迷宮に潜るっていうのは、意外と体力を消費してるもんだ。まあ俺はお前の体力についてはまだよく知らないけど、だからこそ堅実に行くべきじゃないか?」

「……そっか。なるほどね!」


 予定としては明日を休みにして、明後日はまだ迷宮に潜ることにしよう。

 忙しいが、上層を狩り場にしている以上は仕方のないことだ。

 中層を狩り場にできるまで成長すれば、迷宮での稼ぎが段違いになる。獲れる魔石の質に差が出るので、狩るモンスターの数は少なくてもいい。

 その代わり移動距離が長くなり、一度の探索にかかる時間と疲労は増え、出現するモンスターも強くなり、命の危険も増えるけれど。

 ゆえに中層を狩り場とする冒険者は、一週間に一度ぐらいのペースで迷宮に潜ることが多い。移動距離から効率を考え、迷宮内で一泊するパーティもいる。

 そして下層に潜る冒険者――つまりは『勇気あるもの』や『愚者の王』のような、俗に言う一流パーティは、一度の迷宮探索のことを遠征と呼ぶ。下層に潜る以上、移動時間の関係から一泊以上は前提となるからだ。

 このレベルになると、迷宮に潜る頻度は下がる。一度の遠征で相当な金を稼げるからであり、迷宮の下層は常人の想像などはるかに超える程度には危険だからだ。

 とてもじゃないが、一週間に一度とかのペースで潜っていたりしたら身が持たない。

 確かに金は稼げる。下層に棲息するモンスターの魔石は超高値で換金される。まあ俺は準備に金をかけすぎて大して黒字ではなかったけれど、それでも数カ月分はゆうに暮らせるほどの収入があった。

 他のメンバーはそれ以上。もう贅沢をしなければ働かなくても一生暮らしていけるだけの金は持っているかもしれない。

 だが体感すれば分かるが、どう考えてもリスクに対するリターンが釣り合わない。

 ――下層は危険すぎる。

いまだにまともなマッピングもされていないような有り様だ。

 普通に考えれば、大人しく中層で狩りをしていた方が利口だ。わざわざ必要以上の危険を冒す理由はない。

 それでも、一流パーティの面々は、わざわざ多大な危険を冒して迷宮の下層へと挑んでいく。未知の領域を目指し、進んでいく。

 彼らは、知っているからだ。

 ――そして、彼らはあくまで『冒険者』なのだから。


「着いたぞ」

「わぁ。随分と変なところにあるんだね!」


 そんなことを考えていたら、気づけばアールの酒場に到着していた。

 薄暗い路地裏の、そのまた奥。

 目立たない場所にある儲からないこの酒場は、俺の行きつけの店だった。


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