現世の友だちと後輩をくっつけました。
「いい天気ですねー」
晴美ちゃんが空を見上げる。秋の雲が広がっていた。俺はこそっと克也と晴美ちゃんの側に舞い降りた。
「……そうな」
克也も空を見上げる。
「天国ってどこにあるんですかね。今日みたいないい天気だと、あの空の向こうにあるんじゃないかって気がします」
「まぁな」
二人は寂しげに空を見ていた。
おーい。俺は今、ここにいるぞぉ。
俺は苦笑した。側に天照さまがいらしたら、二人にこの姿を見せたいくらいだ。病気の時は、やせ細った体しか見せることができなかったから、こうして元気になったところを見せてやりたかった。
「克也先輩。弘人先輩は神さまになる修行をしているんですって」
晴美ちゃんが真面目に言った。
「なん?」
克也が驚く。
「信じてもらえないかもしれないですけど、わたし、ここで弘人先輩に会ったんですよ。幽霊の」
「……」
晴美ちゃんの様子に、克也は戸惑ったようだった。
「きっと、死んじゃったあとも、わたしたちを見守ってくれていますよ」
そのとおり! 俺は霊として、見守っているよ!
「……まぁな」
克也は晴美ちゃんの話を拒まなかった。良かった。神さまや霊の話は、信じない人間は、とことん信じないから、克也のその様子に俺はほっとした。
第一、俺も人のことは言えない。
死ぬまで、神さまのことは半信半疑だったし、死後に霊や神さまになるなんて思っていなかった。
願うのは、ふたりが俺のことで悲しみすぎず、前を向いて生きていけるようになることだ。
「……工藤君」
名を呼ばれ、俺は振り向いた。いつの間にか、天照さまと柚子がいた。
「はい」
「様子を見に来たんだ。このふたり、工藤君の縁で結ぶことができるよ」
「縁で結ぶ……?」
「いい仲になれそうだってことさ」
「ええ!?」
俺は驚いた。でも、克也がひとりでいるより、晴美ちゃんがいてくれたほうが、それは幸せなことだろう。たぶん今は、俺に対する悲しみを共有することでお互いをなぐさめているのだけれど、それが、一歩先に進む関係になるとしたら、俺も嬉しい。
「工藤君。縁結びの神さまになるのはどうだい?」
「へ!?」
「実地訓練だ。見ていてごらん」
天照さまは、晴美ちゃんと克也の肩にそっと触れた。そうすると、二人の肩からにょきにょきと赤い糸が出てきた。
「ふたりのこれを結ぶんだ……さあ、やってごらん」
「はい……」
俺は恐る恐る、二人の赤い糸を蝶結びにした。
「……克也先輩。お邪魔じゃなかったら、今度どこかに遊びに行きませんか」と晴美ちゃん。
「なん……!?」
克也が目を見開いた。
「家でぼーっとしてても、弘人先輩のことを考えちゃって、悲しいじゃないですか。残されちゃって生きてる者どうし、楽しいことも必要です」
晴美ちゃんが微笑んだ。天照さまの鬼払いはすごいな。あの翳りのあった晴美ちゃんが、こんなに積極的になるなんて。
「……ん。考えとくわ」
克也の「考えとく」は、まんざらでもない証拠だ。良かった。
「じゃあ、また明日ここで」
「んー」
晴美ちゃんが階段を降りていく。それを見送ったあとで。
「……ごめんな、弘人。晴美ちゃん、まじ可愛い」
ぽつりと克也がつぶやいた。
いいさ! 俺はもう晴美ちゃんを幸せにすることはできない。二人がくっつくなら、俺も本望だ。くそ、しかし死ぬんじゃなかった! これなら来年のバレンタインは期待できたのに!
死んだあとで分かったことほど、切ないこともない。
「……幸せになるんだぞ、克也!」
俺は克也の肩を叩いた。
「!? 弘人?」と克也が驚く。
俺の気配が分かったんだろうか!?
「……あまり現世の人間に神や霊の姿を見せることはできないんだよ、工藤君。これくらいしかできないが」
天照さまが片目をつむってみせた。
「縁結びを学んだですね。だんだん、弘は、わたしよりもできることが多くなってゆくのです」とうらやましそうに柚子が言う。
「さあ、戻るよ、工藤君。私たちは、あまり現世で姿を見せてはいけない存在だからね」
「はい」
俺は返事をした。克也と晴美ちゃんのこれからを応援したい気分で胸がいっぱいだった。ふわりと俺たちは宙に浮かび、だんだんと屋上から離れていった。




