現世の友だち、そして後輩を見守りました。
天国のおばさんと別れ、俺と柚子は天照さまに先導されて、かやぶき屋根の家に戻ってきた。
「現世の友だちがちょっと気になったんだ。神社の中の、現世の鏡を使えばいいんだよな?」と、俺は柚子に聞いた。
「天照さまがいらっしゃるので、そのお力で移動することもできるですよ」
「まあまあ、これも修行のひとつと思って、現世の鏡を使えばいいさ。自分の力で何とかしようという考えは尊重しなければね」
天照さまが微笑む。俺たちは、隣の神社に移動した。静謐な空間に、現世の鏡が白く淡く輝いている。
友だちは今、どうしているんだろう?
鏡の前であぐらをかき、俺は懸命に念じた。しばらくすると、鏡が何かの形を映し出した。
あ。ここは、この前と同じ、俺の高校の屋上だ。晴美ちゃんが、鬼と化した同級生にからまれていたところだ。そこに晴美ちゃんの姿は無かった。かわりに、いた! 克也だ。顔はわりとイケメンっぽいが、浮かぶ表情は無気力で、気だるげ。もともとこいつは何にしたって「めんどくせえ」が口ぐせだったけど、俺がいなくなって、余計にその雰囲気が強くなったような気がする。
(……何でいなくなっちまったんだよ)
克也の心の声が聞こえた。
(あれから昼飯が退屈じゃねーか)
憂いを湛えた瞳。俺のことを思い出しているようだった。カンカンと階段を昇る音がして、ひとりの少女が屋上に出てきた。
晴美ちゃんだ。
「克也先輩!」
元気そうな晴美ちゃんが克也の名を呼ぶ。
「ああ……?」
「猪俣晴美です。弘人先輩の葬儀以来ですかね」
「なる」
克也がぼそっと答えた。
「一緒にお昼、どうですか? ちょっと作りすぎちゃって」
へへへっ、と晴美ちゃんが舌を出す。
「いいんか?」
驚いたように克也が晴美ちゃんを見る。
「はい!」
晴美ちゃんはにこにこと笑っていた。
「あんがと」
克也は晴美ちゃんからお弁当箱を受け取った。ふたりでご飯を食べている。
良かった。克也はあまり自分から行動するほうじゃないから、俺がいなくなったあと、ひとりで飯を食ってるんじゃないかって心配だったんだ。
「うまいな」
ぽつりと克也が感想を述べる。
うらやましいぞ、克也! 俺たちは彼女いない歴=実年齢の、モテナイ同士だったのに!
「良かった」
晴美ちゃんはさっぱりとした表情だった。
「本当は弘人先輩に食べてほしかったんですけどねー」
「……知ってる」
克也が目を細めた。俺よりも、そういうところは克也の方が敏感だったのかもしれない。
「でも、克也先輩に食べてもらえて良かった。弘人先輩の一番大事な人ですもん」と晴美ちゃん。
え? ま、まあ。彼女がいない以上、そういうことになるのかもしれない。
「……そう思われるのは、困る」
克也が苦笑した。
そうだろう克也。俺だってそうだ! でも、晴美ちゃんの手弁当が食べれたんだから、いいじゃないか!
「克也先輩。明日も持ってきますから。弘人先輩の代わりにわたし、一緒にご飯食べますよ。元気だしてください」
「……」
克也は俺の話題になると、寂しそうな顔をした。
克也! 晴美ちゃん!
俺は二人のことを念じた。すっと、鏡がまた俺を吸い込む。
学校の屋上へ!
俺は一心にそこへ行きたいと願っていた。




