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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第九章
190/208

時空を繋ぐ道。脱出、闇の中から青空へ。

 周囲を飲み込む日の華から逃れるべく、オイチ、キルシェット、トラノスケは折り鶴に飛び乗り、アーリたちはドラードを急かす。

 ライコーは力を出し尽くしたのかラヴァイアタンの額で倒れこみ、彼はライコーを風の魔法でその場に固定して振り落とされないようにした上で飛翔した。

 

 原型をかろうじて留めていた都市の建造物は余波で粉々になっていく。

 もはやこの場所がアメリカ有数の都市であるなど誰が見ても信じられないような有様である。

 

「これで状況が変わってくれればいいのですが……」

 

 人数分の折り鶴を操作して、爆心地から離れながらオイチはそっと呟く。

 その小さな独白を耳聡く聞き取りながら、ラヴァイアタンは思考する。

 

「(瘴気の沼の中で太陽が爆発した瞬間、鎧の気配が変じた。あれはおそらく……中で動き出すつもりなのだろう。しかし『奴』だけでタツミ殿を救えるか?)」

 

 一人、仲間たちよりも深く情報を握っている老竜は旧知の存在が今までやってきた事を思い浮かべて小さく息を吐いた。

 所業の数々と一緒に苦労させられた思い出まで記憶から引き出してしまった為だ。

 そして浮かび上がった不安と疑問について思い直す。

 

「(いや、やって見せるだろう。なにせ『加護を与えるほどに入れ込んだ人間』の命がかかっている。『奴』が自分の大切に含めたモノは何がなんでも守り通す性質たちである以上、いつまでも敵の好き勝手を許すはずはない)」

 

 しかし万に一つの失敗を考えて思考している内容について彼らに秘匿する事を選んだ。

 

「(何事もなければ『奴』は無事にタツミ殿を連れてくるだろう。そう信じて待っていてやるのだからさっさと事を済ませろ、『ミストレイン』」

 

 紫色の魔力光を思い浮かべ、ラヴァイアタンは心中で旧友に激を送りながら飛翔する。

 

 彼の思いが届いたかはわからない。

 しかしカロルの魔法の余波が収まると同時に瘴気の沼から鎧人形とその胸に抱きかかえられたタツミが飛び出してきた事で、事態はようやく収束に動き出す事になる。

 

 

 

 瘴気の沼の内部。

 日の光も届かない闇の中。

 タツミが意識を失った直後、瘴気は彼に纏わりつこうとした。

 

 しかし瘴気が彼の体に触れようとした瞬間に彼の身体から立ち上った紫色の淡い光が、ぐったりと闇の中を漂う彼を包み込んだ。

 その光は儚げな印象とは裏腹に鉄壁の守りとなって、タツミの体を守り、瘴気を完全に防ぐ。

 瘴気が侵食する隙間などなく、闇の中をぐったりと力無く漂う彼を守り続けていた。

 

 そんな彼の様子を見渡す限りの暗闇の中で、じっと窺っていた存在がいる。

 決まった形を持たない瘴気の中にあって『人の形』を維持する『ソレ』はタツミへの憎しみや恨みを綺麗にそのうちに抑え込みながら、彼の身体を奪い取る機会を窺っていた。

 誰にも気付かれないように静かに、獲物をじっと見つめ続けていた。

 

 そして幸か不幸か事態は急変する。

 

 外で行われたタツミ救出の動き。

 最後に放たれたカロルオリジナル魔法の太陽が瘴気の沼に炸裂した瞬間。

 その攻撃が沼の中にある空間を揺るがし、風穴を空けた。

 光が瘴気が支配する空間を切り裂くように差し込み、漂うタツミの元へ日の光を届ける。

 

 しかし事態はそれだけに留まらない。

 

 太陽の落下に巻き込まれ、その爆発によって瘴気の沼に押し込まれた鎧人形。

 それが突如、紫色の光を発しながらタツミの元へと向かっていったのだ。

 

 まるでロケットのように瘴気の空間の中を飛ぶソレは、そのまま体当たりでもすればただでは済まない勢いで未だに意識を失っているタツミの前に辿り着くとぴたりと止まる。

 そして彼の身体を壊れ物でも扱うように優しく抱き抱えた。

 触れ合っている部分を伝ってタツミを包み込んでいた紫色の光が、鎧人形に緩やかに移っていく。

 鎧人形の兜の中は人の身などない空洞のはずだというのに、眼光のような光がゆらりと閃いたように見えた。

 

 

 じっとタツミの様子を窺っていた存在は、鎧人形の行動に焦り出す。

 狙っていた獲物を横から掻っ攫われては溜まったものではないだろう。

 

 しかし同時に好機とも考えた。

 タツミを包み込んでいた紫色の光がどういう理屈かわからないが消えたのだ。

 今ならばあの得体の知れない鎧人形の手をかいくぐれば、あの身体を奪える。

 焦りと高揚、しかしそれらを抑え込む冷徹な思考でタツミの身体を狙うモノは動き出す。

 

 タツミを抱えて光の差す上方へと鎧人形は飛翔する。

 そんな彼らを狙って周囲の闇から無数の手形が襲いかかった。

 鎧人形はタツミをしっかりと胸の前で抱き締め、全身の紫色の光をより強く発光させたかと思うと自由自在に空間を飛び手形を回避した。

 

 外での戦いで鎧人形は瘴気を放出しながら飛んでいた。

 放出する勢いで加速し、身体の各部から放出する事で方向をねじ曲げ、さらに放出した瘴気で足場や壁を作って跳ね回るという奇っ怪で荒々しい動き。

 しかし今はその荒々しさが嘘のような静かな機動だ。

 外で対峙したラヴァイアタンたちが見れば自分たちが戦った時とは『別のモノ』のように見えただろう。

 

 手形は増え続けるものの、アーリたち鎧人形を捉える事は出来ない。

 近付く事が出来た手も鎧の蹴足によって一瞬で粉々にされてしまうのだ。

 アーリを乗せたドラードを遙かに上回る速度、翼に依存しない不規則な機動に手形はその個数を加速度的に増やすもののまったく対応出来ない。

 人一人を抱えているという事がまるでハンデになっていないのだ。

 

 タツミを付け狙うモノは口があれば舌打ちしていただろう状況に、しかし努めて冷静に対処しようとしていた。

 

 この空間から外へ逃がさず、追いかけ続ければいずれ捕まえられる。

 長い長い持久戦だが、それが続けられれば勝機があると考えたのだ。

 『自分』には体力切れがなく、戦力も生成する手間こそあれど無尽蔵に呼び出せるのだから。

 

 静かに、冷徹に、獲物を追い詰める蛇が如き思考。

 

 しかしその思考は。

 

「ーーーーーーっ!?」

 

 鎧人形と目が合った事で文字通りの意味で吹き飛ばされた。

 紫色の光を纏わせた鎧人形が突っ込んできた事によって。

 

「ーーーーーーーーっ!?!?!?」

 

 声帯を持たない為に声にならないが、おそらく苦しんでいるのだろう影のような人型。

 その右半身は鎧人形の突進によって跡形も無く消し飛んでいる。

 鎧人形は影の人型を貫いた後、そちらを見る事もなく日の光が差す方向へ加速。

 操っていたモノへのダメージが反映されたのか、手形の動きが著しく鈍くなった今は脱出への絶好の機会だった。

 

 鎧人形は今出せる全力で上昇を続ける。

 逃すものかと追いすがる手形の群れだが、人型への奇襲によって怯んだ僅か数秒によって開いた差を縮める事が出来なかった。

 追いつくどころかどんどん引き離されてすらいる。

 

「うっ……」

 

 大立ち回りで揺れた影響か、鎧人形に抱きかかえられているタツミの意識が僅かに戻る。

 彼の目が僅かに開かれる様子を見ながら、鎧人形は口などないはずだというのに明確な言葉を紡いだ。

 

『やれやれ。これだけの瘴気の中に長い事いたんだ。今はゆっくり休むと良い』

 

 聞き覚えのある『老婆』の自分を労る声に、タツミは安堵からまた意識を手放してしまう事になる。

 

 そしてその時はやってくる。

 漏れ出ていた光のさらに先へと鎧人形が飛翔する。

 光の先にあったのは透き通るような青い空だった。

 

『年甲斐もなくはしゃいでしまったのう』

 

 素早く確認した方角に巨大な竜と小さな翼竜、複数の作り物の翼を確認しながら『ミストレイン』は鎧人形の頭部で呟いた。

 

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