表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第九章
188/208

時空を繋ぐ道。翻弄と準備

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。


遅くなりましたが新年最初の投稿となります。


 ライコーは殴りつけた瞬間、確かな手応えを手甲越しに感じた。

 しかしだからと言って手を緩める事はない。

 

 シルフの風を背に受けて加速。

 

「くらえよ、がらんどうっ!!!」

 

 水平に吹き飛ぶ人形に追いつき、空中で姿勢を変えて揃えた両足を人形に叩きつける。

 人形はさらに勢いを増して水平に吹き飛んだ。

 その先には鶴の形をした式神に乗ったトラノスケとキルシェットがいる。

 

「勢いつけ過ぎだろ。段取り崩れたらどーするんですかね、まったく」

 

 トラノスケはやる気なさげにぼやきながらもその視線は射るような鋭さを保ち、吹き飛ばされてくる人形に注がれている。

 キルシェットは彼の軽口に反応する事なく、緊張をほぐすように深呼吸をしていた。

 

「行くぞ、弟子。思い切りやれ」

「はいッ!」

 

 まずトラノスケが式神の鶴の上から跳躍。

 後ろから迫る敵意に気づいたのか、人形は背中にある鎧の隙間から瘴気を噴出。

 その勢いを利用して空中で身を翻し、近づいていたトラノスケと向き合った。

 

「器用な真似してくれるっ! けどなぁっ!!」

 

 彼の手から数本の苦無が放たれる。

 真っ直ぐに迫ったそれらを人形は脅威と感じておらず、防御すらしなかった。

 予想通り、甲高い音と共に苦無は鎧によって弾かれてしまう。

 

「そこっ!」

 

 鋭い声の主はキルシェット。

 彼は人形に弾かれた苦無を空中で掴み取り、折り鶴から人形の頭上へ跳躍。

 右手に握った苦無をナイフ代わりに振りかぶり、人形の頭部へと突き立てた。

 

 ただ武器を突き立てるだけではダメージにはならない。

 だから彼は苦無を通して『鎧通し』を放った。

 苦無が力に耐え切れずに砕け散るが、しかし人形は外装による防御を無視する一撃を受けてぐらりと仰け反った。

 

「効果ありですっ!」

 

 声高に報告するようにキルシェットは叫ぶ。

 そして回収出来た苦無を三本すべて左手の指に挟み、人形の腹部へと突き刺す。

 接触した苦無越しの『鎧通し』が人形の体を貫いた。

 

 彼は攻撃と同時に素早く人形の体を蹴りつけて空中に身を翻す。

 折り鶴の式神が空中に身を置くキルシェットの元へ急行し、彼はその背に着地。

 人形は力を失くしたように頭から地面へと真っ逆さまに落下していく。

 

 しかしキルシェットは気を緩める事なく、折り鶴に命じてその場を離れる。

 彼の真下にあった瘴気の沼から無数の腕が伸びるが、既に折り鶴はその場を離れた後だった。

 

「負けない。絶対にタツミさんを取り戻すんだ……」

 

 優し気な面差しを精一杯に怒らせ、彼は瘴気から伸びた腕を睨み付けながら、次の行動へと移る。

 

 

 

「おまけをどーぞっ!」

 

 トラノスケはキルシェットの猛攻の間に、式神の上に着地し、次の攻撃の準備を整えていた。

 真っ逆さまに転落する人形へ、折り鶴の上からトラノスケは容赦なく苦無の雨を降らせる。

 

 今度はそのすべてに爆薬が括りつけられており、絶妙な計算で導火線に火をつけられたそれらは人形に着弾すると同時に爆発する。

 苦無をただ投げつけた時より確実に攻撃の威力は増している。

 しかしこれでも有効打にならないだろうと彼らは推測していた。

 相手が生き物ならば多少のダメージが期待出来たかもしれない。

 しかし生身が存在しない空っぽの鎧に通用する攻撃ではないのだ。

 

 そしてその推測は当たっている。

 

「ッーーーーー!!!」

 

 背中から瘴気が放出され、人形はその勢いを推進力にしてトラノスケ目掛けて飛ぶ。

 その勢いは今までの非ではない。

 回避など許さぬ速度の突撃は、式神へ指示を出す暇すら与えない。

 

 人形は勢いそのままに右手の指を揃えて貫手にし、式神を下方から突き破った。

 空中に投げ出されるように飛ぶトラノスケ。

 彼の腹部に向かって突き出された貫手は人の体を紙のように切り裂いてしまうだろう。

 

 しかし『思惑通りに自分を狙ってきた漆黒の鎧』にトラノスケは涼し気に笑っていた。

 

 彼は当たれば致命傷になりうる一撃を両手で挟み込むように止める。

 

「ふっ!!!」

 

 彼の両掌から放たれる『鎧通し』。

 挟み込まれた貫手がその衝撃に殺傷力を失った。

 しかし突撃の勢いは衰えず、人形は失敗した攻撃を意に会する事もなくそのままタックルを仕掛けた。

 空中にいたトラノスケにそれを躱す術はなく、ボールのように勢いよく吹っ飛ぶ。

 

 逃がさないとばかりに胴体に手を回され、トラノスケは身動きが取れなくなってしまった。

 彼らの吹き飛ぶ先にはまだかろうじて建っている高層ビルがある。

 このままの勢いで激突すれば、鎧はともかく彼はただでは済まない事は明白だ。

 

 しかしトラノスケはタックルや羽交い絞めに痛みを感じていないのか、背に回された冷たい腕を両手で掴みニヤリと笑う。

 

「捕まえた……」

 

 人形に捕まっていたトラノスケの体が瞬時に膨張、爆発する。

 爆発すると同時に彼の体だったものから、無数の縄が飛び出しその場で広がった。

 勢いを止める事が出来ないままその網の群れに突っ込む人形にそれから逃れる術はない。

 

 極太の縄は先端に括りつけられた苦無を周囲のビルに突き刺す事で固定、人形はまるで蜘蛛の糸に絡め取られた蝶のように大の字になって封じ込められた。

 空を跳ぶ勢いはもはやなくなり、今度は人形が身動き一つ取れなくなっていた。

 しかしこの程度で止まる相手でもない。

 

「ッーーーーー!!!」

 

 声とも音とも判断出来ない叫びを上げながら、人形は全身から瘴気を噴出し力任せに縄を引き千切ろうとする。

 

「残念でしたね。そいつは易々と切れませんよ」

 

 『変わり身の術』によって人形の攻撃を逃れ高層ビルの屋上に陣取ったトラノスケは、身代わりに着せていたためにひらひらと風に揺られて落ちてきた自身の上着をキャッチしながら右手を握りしめる。

 その手には注視しても尚、見えにくい特殊な糸が十数本握られていた。

 糸の先は蜘蛛の巣状に広がっている縄に繋がっており、彼は糸を通して自身の気を縄に流し込み、その強度を通常ではありえない程に強化していた。

 元からして二重三重に編み込まれて頑丈だった縄はそれ単体で振り下ろすだけでコンクリートを砕く事すら可能なものになっている。

 もちろん強度を維持するには常に縄に気を送り続けなければならない。

 涼しい顔をしているが、トラノスケの体力は維持する時間に比例して消耗していく。

 拘束が長くはもたない事を誰よりも本人が知っていた。

 余談だがこの糸は苦無にも取り付けられており、キルシェットの手元に苦無を誘導するのにも利用されている。

 

「縄と遊んでんなよ!!」

「食らうがいいっ!!」

 

 大の字でもがく人形の正面上空。

 大口を開けて今まさに光を放とうとするラヴァイアタンとその額に仁王立ちして、両手に豪炎を纏わせて突き出すライコーの姿。

 

 同時に放たれる光線と炎熱。

 その衝撃に大気が震え、周辺の建造物のガラスが割れ、崩れかけていたビルへの止めとなる。

 

 目前に迫る脅威に対して人形は、噴き出していた瘴気を操り分厚い壁に仕立て上げた。

 

 光も通さぬ漆黒の壁と光熱の渦が激突。

 激突の余波で周囲に残っていた建物は残骸と成り果てる。

 

「出力上げんぞ、イフリートォオオオオ!!!」

 

 ライコーの気迫を後押しするように炎の奔流はその勢いを増す。

 

「ならばこちらもっ!!!」

 

 老竜の咆哮もまた炎熱と競い合うようにその威力を増していった。

 

 しかしその強大な攻撃をもってしても漆黒の壁を貫く事は出来ない。

 その間にも人形は縄を引き千切ろうとその四肢に力を籠め始める。

 トラノスケも気力を振り絞って拘束を維持するが、その表情は苦し気に歪んでおり、糸を握る手どころか足が震え始めている。

 もう長くは持たない事は明らかだった。

 

 戦闘の最中、不意に空が暗くなった。

 トラノスケは頭上を見上げ、歯を食いしばりながらも不格好に笑う。

 

「もう少し……頑張りますかね」

 

 彼が見上げた先には、米粒のようにしか見えないほどの高さにいるアーリ、カロル、ルンの三人がいる。

 そのさらに上では自然現象ではありえない黒雲が空を覆い始めていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ