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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第九章
181/208

時空を繋ぐ道。対策会議

 翌日、目を覚ました彼らはすぐに野営道具を片付けるような事はせず、車座になって話し合いを行う事にした。

 昨日一日で分かったことを共有し、これからの旅路に改めて覚悟を決めるためだ。

 

「さんざん話を聞いていたが、それを踏まえてもどこかで楽観視していたのは否めないな」

 

 最初に口を開いたのはタツミ。

 

「理解の出来ない事柄、説明のつけられない事象。今後はもっと色々起きる。状況によっては驚いて硬直する事も、恐怖で躊躇う事もあるかもしれない。そういうのは状況次第じゃ命に直結する危険。しつこくなってしまうが、改めて気を引き締めていくぞ」

 

 『時空を繋ぐ道』を実際に通った時の驚きと恐怖に固まったのは彼らにとっても苦い記憶だった。

 彼のチーム全体に反省を促す言葉に、仲間たちは神妙に頷いた。

 

「ちょっとやそっとの出来事でラヴァイアタン殿が倒れるとは思っておりません。話に聞いていた理不尽な失敗が降りかかったと見ますが本人はどうお考えで?」

 

 オイチの言葉に車座の外で寝そべって話に耳を傾けていたラヴァイアタンは肯定の意味で頷いて返した。

 

「まず間違いないかと。数十年ぶりでしたな。1度だけならば耐えられますが数度の偶然が重なり、致命傷となり得る。脅すような言い方になってしまいますが昨日、私が被った被害はまだ軽度な部類です。最も最悪なケースではファーヴルムは尻尾を半ばから切断され、ウルシュは翼を、私は両足を失っております。ファーヴルムが治癒に長けていなければ欠けた部位はそのままであったでしょうな」

 

 竜が身体の一部を失うほどの被害を受けたという事実にカロルとキルシェットの顔が見る間に青ざめていく。

 

「恐ろしいな。加えて対処法がまったくわからないというのが実に厄介だ」

 

 苦い顔で皆が抱いているだろう内心を代弁するアーリ。

 

「ただどうも昨日はラヴァイアタン殿にだけ偏って理不尽が起きていたように思えるんだが……」

 

 タツミのみが感じ取れるダイスロールの結果。

 その回数はラヴァイアタンが敵に遅れを取った回数とほぼ一致していた。

 そしてラヴァイアタンに限らず昨日起きたダイスロールの結果はほとんど全て何らかのペナルティを被る「1、2、3」のいずれか。

 この偏りに法則性があるのかどうかは現段階では判断出来ないが、今後も出目の偏り、つまり『ダイスロールが起きる人間に偏りが出る』のならば、何らかの対抗手段を見いだせるかもしれない。

 

「確かに俺たちは戦ってる時とか、凡ミスとかしてない気がする」

「(……僕も、たぶん。違和感のある失敗とかしてない)」

 

 ライコーとカロルが昨日の出来事を思い出しながら告げる言葉に、全員が自分の行動に理不尽な失敗が無かったか思い返す。

 結論はライコーたちと同じ。

 全てが全て上手くいったというわけではないが、それでも理不尽と呼ぶほどではない失敗のみで連続して起きてはいない。

 

 実際にはタツミの行動で良い結果を出してすらいるのだが、失敗したという結果のみに考えを巡らせているオイチたちがそれに気付く事は無い。

 

「ふむ。以前、我々が来た時は際限なく被害に見舞われていたので偏りがあったかどうかは……。少なくとも思い出す限りは無かったように思いますが……」

 

 かつての記憶を思い返しながら言うラヴァイアタン。

 

「安易に法則性を見つけようとするのも危険かもしれないわね」

「これだ、と思い込んで失敗してしまうのは避けたいからな」

 

 ルンとアーリの言葉に全員が頷く。

 

「結局のところ、引き続きそれぞれが最大限警戒して行動するしかないって事ですかね?」

「基本はそうなるがそれだけじゃ駄目だ。連続して理不尽に見舞われるとまずいのはラヴァイアタン殿の昨日の被害でよくわかった。俺たち全員がお互いをフォロー出来るようにしておくべきだ。いつ誰がどういう目に遭うかわからないんだからな」

「そうですね。ある程度融通を利かせられる陣形を考えなければ……」

 

 そこからは様々な事態を想定してのタツミ、トラノスケ、オイチ、ルン、アーリ、ラヴァイアタンによる会議が行わる事になる。

 ラヴァイアタンが語る実体験を元に、起こりうる事象を整理し、起きた事象にどう対処するかの『大枠』を定めるものだ。

 あくまで大枠に留めるのは対処方法を細かく決めたとしても、その想定外の事態になる事がありえるから。

 決められた事柄を念頭に行動するといざ少しでも違う事象に見舞われたときに戸惑い、動きが一瞬でも思考が止まってしまう可能性があった。

 昨日の戦闘で畳みかけるように被害に遭い、そのまま気絶してしまったラヴァイアタンを見れば一瞬の思考停止が生死を分ける事になりかねない。

 それ故にあくまで決めるのは大枠に留め、具体的な所については各自がその場その場で臨機応変に対応するようにしているのだ。

 

 

 そして彼らの会議が行われている間、ライコー、キルシェット、カロルは三人一組で会議中の皆と離れすぎない程度に周囲の探索を行った。

 建物の中に作られてい大量の『霧吐きダック』の巣には孵化していない卵やこれまで侵入してきた者たちか、あるいは餌として周辺から取ってきたらしい生物の死骸や骨が転がっていた。

 骨は大体が原型を留めており、餌になりうる肉の部分だけが突つかれたのだとわかる。

 しかし幾つかの真新しい骨には着ていたと思われる服の切れ端や布切れが傍に転がっていた。

 これはつまり『霧吐きダック』が襲いかかれる距離に、獲物となり得る生物が存在し、『その中に服を着る文化を持った生物がいるかもしれない』、あるいは『どこかにある『時空を繋ぐ道』が人が暮らす場所、あるいはその近辺に繋がっているかもしれない』という事になるだろう。

 これがわかっただけでも手広くない範囲とはいえ探索した価値があった。

 

 会議が一段落する頃に既に太陽は真上を過ぎていた。

 廃墟の中で昼食を取り、会議の内容と探索の結果を報告し合う。

 

「衣服を着る文化を持った生物がいる可能性、か。ここがどこかわからないし、これからどこに行くかもわからない以上、そういう事も考えられるわけだ」

「しかしそういう方々が暮らす場所に辿り着いたとしても友好的に迎えてくださるかどうかはわかりませんね」

「私やカロルの故郷なんかもそういう所だったからわかるのだけど、一部の過激な人間が『一族の秘技を守る為だ』って言って余所者を襲うなんて事もあり得ると思うわ」

「そうでなくても確実に警戒されるでしょうねぇ。食料の補充だとか情報収集なんか出来るかどうか……」

「出来れば儲けもんくらいに考えとけばいいんじゃねぇの?」

 

 意見を出し合い、わいわいと賑やかな様子を見つめながらラヴァイアタンは先日から感じる視線が未だ変わらずにある事に警戒を強めていた。

 あまりにも途切れない視線。

 生き物が見ているのであれば、どこかで休まなければならない。

 それはたとえ竜であっても変わらない。

 生物としての生態を持っているモノならば、いつかは休む時が来るはずなのだ。

 だというのに先日からずっと付きまとう視線。

 生物として不自然な視線からは変わらず害意も悪意も感じられず、不気味なその視線はラヴァイアタンの警戒心を煽っていた。

 しかし『手を出してくる気配がまったくないという事実』がこれからも理解不能、先読み不可の旅路に身を投じる彼らにこの視線の事を話して良いか迷わせてもいた。

 

「(……四六時中の視線は私が常に警戒しておけばいい。しかし私が昨日のように不覚を取ればその限りではない。私の警戒が解けた瞬間にこの視線の主が何かしらの行動を起こすことも考えられる)」

 

 彼らの会議の内容を頭の中に叩き込みながら、彼は話が一段落するまで思考を続けた。

 

 

 

「それで俺たちにだけ話す事にしたわけですか」

「ええ。そうです」

 

 出発の準備をしようという段階になってタツミ、トラノスケ、オイチはラヴァイアタンに呼び止められていた。

 アーリたちには彼らの持つ符術や気功について教えてもらえば何かしらアドバイスが出来るかもしれないという名目にしている。

 

「害意も敵意もない視線、ね。この後に及んでさらに懸念事項追加とか嫌になりますねぇ、ほんと」

 

 わざとらしく肩を落として溜息を付くトラノスケ。

 

「トラノスケ、ぼやかないでください。ラヴァイアタン殿も私たちを困らせたくて伝えたわけではないのですよ?」

「勿論、わかっておりますよ。伝えてもらわずに何かあった場合の方がまずいですしね」

 

 そんな彼を諫めるオイチに、彼は背筋を伸ばして真顔で応えた。

 オイチ自身は服の裾から札を取り出し、簡単な術を披露している。

 先の名目についてラヴァイアタンに実演しているように装っているのだ。

 

「その不気味な視線、俺たちが話を聞いて探ってもたぶんそっちからだろうという程度にしか捉えられないとなると、相当面倒ですね」

「只者じゃないのが確定しているからな。ただ方角だけでもわかっている分にはありがたい」

「式神を放ってそちらへ注意を払っておきましょう。私自身にはその視線の如何がわからないので気休め程度ではありますが……」

 

 不気味な視線についての対策を一通り確認する頃には出立の準備も整っていた。

 

「まずはこの辺を改めて探索だな」

「もう耳にタコができるくらい言っている事だが、全員油断だけはするなよ」

 

 神妙な顔で頷く仲間たちを見回し、タツミは自身の決意を示すように言葉を紡ぐ。

 

「誰1人失わずに先に進むために皆の力を貸してくれ」

 

 個性溢れた返事が唱和し、彼らは改めて目の前に広がる廃墟の探索に繰り出す。

 

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