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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第九章
180/208

時空を繋ぐ道。理不尽(ダイスロール)の脅威

 四方八方から奇声と共に襲いかかる『霧吐きダック』。

 アヒルの嘴には本来、人を殺傷するほどの力はない。

 しかしこれらはどれだけアヒルのような外見をしていても魔物だ。

 その嘴には人間の身体を容易く貫く鋭さがある。

 

 ゲーム上のデータではこの魔物の攻撃には『防御貫通効果』が付与されている。

 装備や防御系スキルによって上昇している数値を無視するこの効果は、ゲーム内では凶悪な部類の能力だ。

 現実にその脅威が迫る状況に、タツミは刀を握る手に力を込めた。

 

「あれの嘴は極力避けろ! 防具ごと貫くほどに鋭いぞ!」

 

 仲間たちの前に躍り出て彼は大上段から刀を振り下ろす。

 刀の軌跡を追うように奔る『斬空』が正面の大群を切り裂いた。

 しかし敵はまるで怯まず、やられた同胞の分まで食らいつくと言わんばかりに迫る。

 

「打たれ強い魔物じゃない。身体も小さいからしっかりした一撃を当てれば致命傷だ! そのつもりで攻撃しろ!!」

 

 波のように押し寄せてくるアヒルの群れを前にステータスで確認できた情報を素早く共有し、さらにコマンドスキルを使用する。

 

「『斬撃・波濤』!!」

 

 何もない正面の空間に刀を突き出す。

 すると魔方陣が切っ先から展開し、そこから大量の水が圧力を伴って前方に放射され、向かってくる『霧吐きダック』へと降りかかる。

 ただの水ではない高圧のそれは群れをまるごと飲み込んで押し流していった。

 

 本来の『斬撃・波濤』は刀による物理攻撃の後に水属性の攻撃を追加するスキルだ。

 タツミはこの世界で自分の想像力でもってスキルの効果をアレンジできる事に気付いてから、自身の持つコマンドスキルを変化させ、あらゆる状況に対応出来るよう苦心していた。

 今回のこの攻撃はその成果が出た結果という事になるだろう。

 

 

 しかしそれらも第一波に過ぎない。

 廃墟のそこかしこから様子を窺っていた『霧吐きダック』が甲高い奇声を上げて飛びかかってくるのだ。

 

 あえて仲間たちの矢面に立っていたタツミは、もっとも危険な標的として前後左右全てから襲いかかられてしまう。

 さしものタツミも文字通り目と鼻の先にまで迫った敵の攻撃をすべて捌く事は出来ない。

 

 しかし彼の表情に焦りはない。

 迫った敵を彼の横を通り過ぎたトラノスケが、キルシェットが、ライコーが、アーリが叩き落としてくれると信じていたからだ。

 

「いきなり飛びださんでくださいよ。冷や冷やするでしょうがっ!」

「本当ですよ!」

 

 トラノスケとキルシェットの怒声。

 

「すぐにフォローしてくれるだろうと思ってたからな」

 

 それらにしれっと返しながら、彼は下段からの切り上げの一閃でアヒル数体を同時に両断した。

 

「信頼してもらえるのは嬉しいのだが、すぐに矢面に立とうとするのは自重してほしいな!!」

 

 アーリの槍が弧を描いては敵を切り裂き、ドラードの翼や尻尾が近付いてくるモノを片っ端から叩き落とす。

 

「そうか? 俺はすげぇと思うけどなぁ。俺も早くあれくらい出来るようになりたいぜ!!」

 

 ライコーの手甲は目に見えるほどの風が纏わり付き、その一撃は掠めるだけでアヒルの身体を引き裂くほどの力を放つ。

 

「(心配しました)」

「うっ、……すまない。俺も無意味に心配をかけたいわけじゃないんだ」

 

 念話で語る少年のか細い声には流石のタツミも罪悪感が募り、言い訳じみた言葉を紡いだ。

 その間にも仲間たちの身体に複数の補助魔法がかけられ、戦局は変化していく。

 後方で様子を窺っていた『霧吐きダック』の一部が、大きく口を開いてあの霧を吐き出し始める。

 

「残念ですが……目の前でやられる目眩ましならば対処可能です」

 

 オイチの袖口から放たれた符が、霧を吐き出している『霧吐きダック』の元に飛翔。

 標的の傍で荒縄に変化し、その嘴を無理矢理に閉じて固結びしてしまった。

 

 アヒルたちの一部は霧吐きを封じられる事を慌てて空へと逃げ出す。

 翼を持たぬ存在では決して届かないところまで飛翔し、奴らは再度霧を吐き出そうと口を開いた。

 

 しかしここで彼らは気付く。

 自分たちの頭上に妖しげな黒雲がある事に。

 

「『サンダーレイン』!!」

 

 廃墟に木霊する子供の高い声。

 同時に黒雲から無数の雷が降り注ぐ。

 眩い光は瞬時に飛翔していた『霧吐きダック』を貫き、その小さな全身を焼き尽くしていった。

 

 雷から必死に逃れる『霧吐きダック』が三度、霧を吐き出そうと口を開く。

 

「諦めぬその姿勢は見事だが……些か芸がないのではないか?」

 

 しかし彼らは目の前で開かれた竜の巨大な顎によって粉々に砕かれ、咀嚼されてしまった。

 

「……(ここまでは順調なようだ。あの理不尽な事象も起きていないように思える)」

 

 周囲を油断なく睥睨しながら老竜は思考に耽る。

 

「(……いや油断は禁物。あの理不尽はどれだけ警戒していたとしても無意味にし、それまでの場の流れを呆気なく打ち崩すものなのだから)」

 

 そう結論付けた彼の頭上にまたしても六面体が舞った。

 その事に気付いた者は残念ながら誰もいない。

 そしてその結果はすぐに『理不尽な形』で現れる。

 

「なにっ!?」

 

 巨体に怯まず突っ込んでくる『霧吐きダック』を迎え撃とうとラヴァイアタンが息を吸い込んだ瞬間。

 彼が踏ん張っていた四つ足が着いていた地面全てが音を立てて陥没した。

 体勢が崩れ、突撃してくる敵に対処出来ずその嘴による突撃をラヴァイアタンはその身で受けてしまう。

 

 10を軽く越える数の嘴による防御貫通効果を伴った攻撃。

 鱗を貫通してその下の柔らかい肉に鋭い刃が突き立てられた。

 

「ぐあっ!」

 

 おそらく数十年、あるいは百年単位で受けてこなかったダメージに老竜は思わず悲鳴を上げる。

 崩れた地面では踏ん張る事は出来ず、突撃攻撃の勢いに押された彼はそのまま地面に倒れ込んでしまった。

 

「ラヴァイアタンさん!」

「(ラヴァイアタンさん!)」

 

 キルシェットとカロルが悲鳴のような声で呼びかけるも、打ち所がよほど悪かったのか彼は呻き声を上げるだけで返事も出来ない。

 

「キルシェット! 彼の身体に張り付いたアヒルの排除だ! アーリ、カロル、ルンは彼を襲おうとする群れの迎撃を頼む!」

「はいっ!」

「了解した!」

「任せて!」

「(はいっ!)」

 

 名指しされた者たちの返事を聞き届け、タツミは残った面々に指示を飛ばす。

 

「オイチは霧を出そうとする奴への対応を最優先、トラノスケはその護衛。ライコーはイフリートを憑けて近付く敵に炎をばらまけ! くれぐれも敵に近付きすぎるな!」

「はいっ!」

「了解」

「応っ!!」

 

 指示を出す端から彼は迫る嘴を避けては切り捨てていく。

 

「(これだけの乱戦でのダイスロールは凶悪過ぎる! たった1度の『1』であの竜が倒れるなんて影響がでかすぎる)」

 

 ゲーム内でもダイスロールで『1』を出せば戦況が覆る事はあったが、長い年月を生きる竜ですらもその影響から逃れられない事実にタツミは戦慄していた。

 

「(竜なんて言ってしまえばクエストのボスの定番。ピンキリあってもそのレベル帯では苦戦間違いなしの難敵だ。そんな強大な種族が数しか勝ち目がないような格下に翻弄された)」

 

 ゲームとして考えるならば、レベルが20以上離れているはずの力の差が逆転したのだ。

 ダイスロールされる間隔が短くなってきている事も相まって、その危険度は計り知れない。

 

「『斬空』!」

 

 仲間たちから離れないようその場に腰を据えて遠距離攻撃でもって敵を撃破する。

 不必要に接近し敵の只中で理不尽に見舞われてしまえば、倒れているラヴァイアタンの二の舞になるだろう事が容易に想像出来たが故の対応だった。

 仲間たちにも大群に飛び込むような指示は出していないのはそれを警戒しての事。

 竜の鱗すら貫通する攻撃が仲間の身体に突き刺されば良くて重傷、悪ければ即死すらもあり得るのだから。

 

 タツミの警戒を余所に戦いは彼ら優先で進む。

 あれ以降、ダイスロールは行われる事はなく思った以上の敵の数に時間こそかかったものの倒し切る事に成功した。

 周囲から敵意が消えた事を確認し、ようやく一息つく頃には日は暮れかけていた。

 

 その間、ラヴァイアタンはまったく起き上がることはなく。

 戦闘後、しばらくしてようやく目を覚ました彼は足手纏いになったことをタツミたちに平身低頭で謝罪した。

 

 一体どこに潜んでいたのかというほどの数の『霧吐きダック』の死骸はラヴァイアタン主導で土に埋めている。

 このまま放置していると住処を荒らされ同族を殺された恨みや憎しみからアンデッドになってしまう可能性がある為だ。

 穴はわざわざ新しく掘り、ラヴァイアタンが魔法で出した水で清めた石を墓石として使用。

 パーティに僧侶はいないが負の感情に敏感な妖精種を連れているライコーによれば穢れや澱みはないという。

 これならアンデッドが生まれる事はないという妖精からのお墨付きだ。

 

「今日はここで野営だな」

「そうだな」

 

 誰ともなくテントの設営を始め、それに倣うように全員が動き出す。

 疲労で動きそのものは緩慢ではあったが、それでも何人か一緒に行動しそれぞれ視界から外れないよう警戒する事は忘れなかった。

 

 

「(……またしても視線、か)」

 

 気絶していた為に疲労が少なく、この中でもっとも余裕があるラヴァイアタンだけがどこからかこちらを見据える敵意や害意のない視線に気付いていた。

 しかし疲れ切っている彼らに今これを伝えるのは憚られる。

 明日にでも彼らに伝えようと心に決め、彼は夜の警戒を引き受けていた。

 視線を感じ取れる方角をメインに、しかし周囲にも気を配りながら老竜は寝ずの一夜を過ごす。

 途切れる事の無い視線を常に警戒しながら。

 

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