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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第九章
179/208

時空を繋ぐ道。廃墟で出遭うモノたち

 仲間の安否を確認するつもりで仲間たちの頭上をそれとなく窺ったものの、白い六面体は見つからなかった。

 しかし結果が『2』であるという事だけはどういう理屈か、タツミの脳裏には嫌というほど明瞭に伝わっている。

 

「(ダイスはいつも発動した人物の頭上で舞う。という事は今のダイスはラヴァイアタンのものか? 出目が出る瞬間を見られないと運命逆転のタイミングがよりシビアになるな)」

 

 巨体故に頭の上を瞬時に確認できない存在故の弊害にタツミは顔を歪めた。

 

 次いで起きた事象に、彼を含めた仲間たちは無意識に身を寄せ合う。

 視界が薄い霧によって阻まれ始めたのだ。

 

「自然現象、というには突然だな」

「でないとは言い切れませんけど、この濃さは……」

 

 槍をぐっと握り締め、混乱する使役竜の頭を撫でて諫めるアーリ。

 口から漏れた言葉に応えたのは犬の耳をひくひくと震わせて警戒心を露わにするキルシェットだ。

 

「あっという間に周りの景色が見えなくなるほどの霧なんてね。……流石に意図的なものを感じるわ」

「(でも魔力は感じなかったから魔法じゃないね)」

 

 服の裾から首をもたげて周囲を睥睨するリューと同じ黄金色の目を妖しく輝かせるルンは傍にいたカロルの手を離すまいと握り締めた。

 カロルは力の込められたその手に応えるように握り返しながら、幾つもの魔法を使える寸前の状態で待機させる。

 『夜包みの森』で強制的に離れてしまった血の繋がった姉弟と変わらぬ絆を持つ2人は、ふとした瞬間にお互いの存在を確認するように手を繋ぐようになっていた。

 

「……霧が出始めた方角はわかるか?」

「おそらくあちらの方角ですよ。あっという間に広がったとはいえ、僅かに見えなくなるのが早かったので」

「シルフが言ってるぜ。この霧、自然なものじゃない。何かの仕業だってよ。その何かまではわからないらしいけど」

「妖精、精霊種とそこまでスムーズに意志疎通が出来るとは……いやはや皆様方の力には驚かされてばかりですな」

 

 タツミは隣のトラノスケが腕を掴んで示した方角をじっと睨み付け、ライコーが仕入れた情報に眉根を寄せる。

 1人、この状況に慣れているラヴァイアタンがマイペースにライコーを褒め称えていた。

 竜の場違いな言葉を無視する形でタツミは数秒黙り込んで考えをまとめる。

 彼は一つ頷くと右手に火縄銃『鬼殺し』を装備した。

 

「一回、吹き飛ばせないかやってみる。全員、俺の前に出ないでくれ」

 

 手を伸ばせば指先が霞むほどに濃い霧に向かって鬼殺しの銃口を向け、彼は仲間たちに警告する。

 手探りながらも慌てて仲間たちの気配がすべて自分の後ろに下がるのを確認してから、彼は愛銃の引き金を引く。

 

 瞬間に自身の頭上に舞う六面体。

 

 途端に彼の意識は引き延ばされ、周囲の全ての動きがスローモーションのように遅く見える中でサイコロの結果が出る。

 結果は『6』。

 タツミは最良の結果に驚きながらも安堵しながら引き金を引いた。

 

 砲撃と見紛うほどの轟音。

 光の放射の熱量が霧を滅しながら向けられた方角へと奔る。

 霧によって視界が遮られる前に見えた建造物に被害を及ぼさないように前方斜め上を狙って放たれた一撃は、空の果てへと消えていく途中で霧に紛れていた存在を直撃した。

 

「「「「ギィエエエエエエエアアアアーーーーー!!」」」」

 

 甲高い獣の悲鳴の多重奏にカロルとキルシェット、ライコーが思わずびくりと震えた。

 

「どうやら射撃範囲に何かいたようですね。どなたか見えましたか?」

「光で霧が消滅していく先をじっと見ていたからわかったわ。口からこの霧みたいなものを出してた鳥っぽい生き物が数匹、かしらね。この子と一体化していたお蔭」

 

 相棒の手に巻き付き、シュルシュルと舌を出して「どうだ」と自己主張するリューの身体を撫でながらルンが言う。

 

「俺も同じものが見えましたね。異様に嘴と翼がでかくて足が短い鳥のような何かでした」

 

 その職業故に目が良いトラノスケが彼女の見たものを補強し、光の中へと消えていった生き物の特徴が共有されていく。

 特徴から思い浮かぶ魔物の情報をそれぞれが記憶の引き出しを引っ張り出し、タツミがふと思い至って口を開いた。

 

「『霧吐きダック』か、それに似た種か?」

「『霧吐きダック』? なんか間抜けな名前だな」

 

 彼の口から出た名前に聞き覚えのないライコーが思ったままの感想を述べる。

 

「確かヤマトにはいなかった種だ。その名の通り、身体の中に霧を生成する器官を持っている魔物で、獲物や外敵を見つければ霧で姿を隠して襲いかかる。ダック(アヒル)と名付けられてはいるが、外見が似てるからってだけで普通に飛べたはず。……生息地不明だから遭遇する事自体稀なんだが……遭遇する場所には奴らの巣がある事が多いらしい」

 

 タツミが言葉を言い切るのと同時に、霧の晴れた建造物の中や廃墟の影から多数の鳥類の鳴き声が聞こえた。

 間抜けな、まさにアヒルのような「グワッ!」、「グワッ!」という鳴き声だが、それらは建物同士、そこにいる存在同士で何らかの相談をしていると容易に想像出来た。

 

「つまり、ここが巣であると……」

「それも大量の同族が暮らす住処のようですね」

「俺たちは奴らから見れば侵入者って事になる。問答無用だろうな」

 

 心なしか鳴き声に殺気や怒気が感じられるようになったのは彼らの気のせいではないだろう。

 

「(ラヴァイアタンさんが威嚇すれば逃げるんじゃないですか?)」

「我々が侵入者である以上、それは不可能でしょうな。むしろ生物としての格の差が大きいからこそ死にもの狂いで抵抗するかと」

 

 さもありなんと大きな首でうんうん頷きながら告げるラヴァイアタン。

 どこまでも落ち着いているその態度は心強いが、あまりにもマイペース過ぎる為にアーリなどの生真面目な者はペースを乱されて眉をしかめてもいた。

 

「ラヴァイアタン殿を前にしても怖じ気づかないとはな。ミストレイン殿の時は人型の分身であっても魔物は根こそぎ逃げ出したものだが……」

「ここが巣であるというのは大きいのですね。どんな生き物も守る物があれば必死になるものです」

 

 意図せずとはいえ彼らにとっての外敵となってしまった事にアーリは苦虫を噛みしめ、オイチは悲しげに目を伏せる。

 

「あの、僕たちの方が逃げるというのは駄目でしょうか?」

 

 彼らの事情を聞いてしまった以上、戦う以外の道を取りたいキルシェットが声を上げる。

 今までの道程でもずっと戦ってきたのだが、竜を前にしても引かない守る意志に彼は心打たれていた。

 その優しさからくる気持ちがわからない仲間はこの場にはいない。

 

 だがそれでもタツミとトラノスケは同時に首を横に振った。

 

「お前の気持ちはわかる。だがな、キルシェット。この場所の全体像が把握出来ていない状況で闇雲に逃げるとバラバラになる可能性が高い。『時空を繋ぐ道』がどこにあるか分からない以上、はぐれた場合の合流は夜包みの森の時以上に難しいだろう。最悪、そのまま2度と会えない事も充分ありえる。だから駄目だ」

 

 夜包みの森ですら運に恵まれたが故に全員無事に集まれたところがあった。

 今度はそこにどこへ行くかもわからない謎の現象まで加わってしまう。

 原理不明のため、はぐれれば追いかける事も難しいというのが現状で、少なくない混乱を伴うだろう逃亡という選択肢をとる事がタツミには出来なかった。

 

「俺もそんな状況になるのはごめんだ。完全にこっちの事情で、あちらさんには関係ないけどな。それでも押し通さなけりゃここにいる誰かがいなくなるかもしれない。そんな危ない橋を渡るのは個人的にも姫の従者としても認められないね」

 

 トラノスケは自らの理屈でもってキルシェットの意見を冷静に撥ね除ける。

 何を優先するか、を明確にした彼にライコーは神妙な面持ちで頷いた。

 

「そうだな。俺も皆の方が大事だ。だからこいつらを倒すぜ」

 

 簡潔な決意表明に言葉もなく躊躇っていたカロルもまた、ルンの手をぎゅっと握り締めて頷いた。

 

「……すみません。余計な事を言いました」

「お前の優しさは大事な物だ。余計な事なんて言わなくていい」

 

 周囲の気配に混じる殺気が濃密になる中で、タツミは抜いた刀を持つ右とは逆の手でキルシェットの頭を乱暴に撫でた。

 

「今の罪悪感を忘れるなよ。それが自分勝手に暴れる俺たちに出来る贖罪って奴になる。まぁこっちの勝手な思い込なんだけどな」

 

 師匠であるトラノスケの辛辣な言葉の裏にある自分を気遣う心にキルシェットは気付いていた。

 だから彼は殊更に大きな声で返事を返す。

 

「はいっ!」

 

 腹の底からの返事にトラノスケは目を瞬かせるもののそれ以上は言わずに、そこかしこから姿を見せ始めた敵に備えて無言のままクナイを構える。

 その耳が照れで赤くなっていた事に気付かない者は残念ながらこの場にはいなかった。

 

「どこに次の道があるかわからないし、下手に離れるとまた霧で分断される。絶対に散らばるな。お互いの距離には常に気を払え」

 

 タツミの指示にそれぞれが声を上げると同時に『霧吐きダック』の大群が示し合わせたかのように建物の物陰から飛び出してきた。

 

 

 

 そんな彼らを遠くから見つめている者たちがいる事に気付いていたのは。

 

「……」

 

 その視線に悪意がない故に放置する事を決めた老竜のみであった。

 


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