亡霊狂騒劇_参
遅くなりましたがあけましておめでとうございます。
今年も本作をよろしくお願いします。
テーマパークに突如、現れた塔から吐き出されるように現れたゴースト系の魔物たち。
スケルトンや幽霊、ジャックランタンに狼男などが群れを成して現れた時、テーマパーク内にいた者たちは何かのアトラクションだと思っていた。
よく出来ていると感想を言う者、写真でも撮ろうと近付こうとする者など、平和なやりとりがテーマパーク内を満たしていた。
狼男が手近にいた男性の腕に噛みついた事でそんな平和な一時は破壊されてしまったのだが。
「えっ?」
そんな気の抜けた疑問の声を最初に上げたのは誰だったか。
「ぎゃぁあああーーーーー!!」
「きゃぁあああああっ!!!」
非現実的な光景を見て、これがアトラクションなどではないと言うことにようやく気付いた者たちが次々と悲鳴を上げる。
それを合図にテーマパーク内は阿鼻叫喚の様相になってしまう。
パニックは瞬く間に伝播し、大多数の人間が『化け物』たちから離れようと走り出す。
こける人間、はぐれる親子、怖さに訳もわからず泣き叫ぶ子供。
そんな光景を気にする事なく『化け物』たちは近くにいる者を獲物と認識し、手当たり次第に襲いかかる。
ふらふらと頭上から降りてくるジャックランタンの鎌に斬り付けられた男性が悲鳴を上げた。
本物の狼のように四つん這いになって走る狼の爪で足を傷つけられた女性が倒れて呻き声を上げる。
なぜ、どうして自分が、自分たちがこんな目に遭うんだ。
理不尽を嘆き、理不尽に怒るが、声高に叫んだところで化け物たちには通用しない。
死者こそ出ていないが、それも時間の問題だろう。
果敢にも挑みかかった警備員が警棒で殴りかかるもカボチャ頭の怪物はすぐに立ち上がり、まるで堪えた様子がない。
狼男を羽交い締めにして動きを止めようとした人間は人を越える腕力でもってあっさり振りほどかれ地面に叩き伏せられてしまった。
半透明のまさしく幽霊といった姿の化け物に至っては警棒も拳もすり抜けるばかりで通用せず、だというのにあちらからの攻撃は当たるのだ。
さらに異変の元凶である塔の中からは続々と化け物があふれ出ている。
今までいなかった吸血鬼、ゾンビ、スケルトンといった化け物たちが続々と群れを為してテーマパークに足を踏み入れるその光景はテーマパークにいた人間たちにとって正に絶望的な物だっただろう。
一人、また一人と抵抗する気力を失っていく。
誰もが己の死を意識し、生存を諦めようとしていた。
しかし次の瞬間。
彼らの視界に白い光が横切った。
空から降り注ぐように落ちた光は開け放たれていた塔の門を直撃し、轟音を辺りに響かせる。
「爺さん、片っ端から助けてけ!」
「わかっている!」
同時に聞こえる声。
地を這うように駆ける白い何かが狼男に激突し、今まさに噛みつこうとしていた怪物を吹き飛ばす。
すぐさま白い何かは傍にいた別の怪物に襲いかかる。
あっという間に怪物を蹴散らしていったそれが白い大型犬か狼だと言うことに被害者たちが気付いたのは目まぐるしく変わっていった状況で『自分が助かった』のだという実感を得た後の事だ。
「(妙だ。以前よりも遙かに力が強くなっている)」
カボチャ頭を一息に噛み砕き、吸血鬼の顔を爪で引き裂く。
爪が白い光を纏っている事に気付き、通り抜けざまにゴースト系の魔物に振るうと物理攻撃が効かないはずの魔物が断末魔の奇声を上げた。
「(こんな事いつの間に出来るようになった? いや今はこれを有効に使わなければっ!?)」
健志は思考する最中、親とはぐれて泣きじゃくっていた子供に鎌を振り上げたジャックランタンの姿を視界に捉える。
「がぁっ!!」
まさに一足飛び。
20メートルはあっただろう距離が瞬時に縮まり、咆哮と共にカボチャ頭の怪物は大型トラックに跳ねられたような突撃を真横から受けて枯れ葉のように吹っ飛んでいった。
「う、ひっく……」
そんな戦いの喧噪が怖かったのか、子供は大立ち回りをする大型の白い犬の姿にますます俯き、ただただ泣きじゃくり続ける。
「(この子には私の姿が見えている。辰道君たちが言っていた通り、塔の傍だと私たちは誰の目にも見えるようになってしまうのか。……いや、今はいい。それよりもこのままここにいてはまた襲われてしまう。どうにかして移動させなければ。……そうだ、シンが静里にやっていたようにすれば!)」
健志は周囲に敵がいない事を確認し、この子供をどうにか移動させるべき行動を起こした。
「……うぇ?」
泣きじゃくる子供の顔を慈しむように優しく一舐めした後に鼻先を擦りつける。
少年が暖かい感触に泣くのをやめて健志を見つめる。
「(よし) ワンッ!」
先ほどから敵を倒してきた方向を顔を向けることで指し示し、そちらに行くようにという意味で吠える。
「あっち? あっちにお父さんがいるの?」
「ワンッ」
とにかく少年を人がいる場所へ移動させる事を優先し、彼は頷く。
少年は健志が頷いたのを見て、しっかりとした足取りで立ち上がり、彼が指し示した方向へ身体を向ける。
「ありがとう!」
幼いながらも向こうへ行けという大きな白い犬の意図を察して走り出した少年の姿を見送り、健志は次の敵を捜すために跳躍した。
少年の親がそこにいることを祈りながら。
「せやぁっ!!」
白刃が閃き度、実体の有無にかかわらず魔物は全て切り捨てられていく。
塔に火縄銃『鬼殺し』による砲撃を行った後、タツミは健志と手分けして魔物狩りを開始していた。
「出入り口方面に逃げろ! ここに来るまでに粗方片付けてるから安全だ!」
「えっ!? あ、あの……!」
襲われている人々を助け、一声かけたら返事を待たずにすぐに次へ向かう。
引き留められたところで彼には自分の事を説明し、相手に納得させる事など出来ないからだ。
「ちっ!(数が多すぎて辰道を捜しにいくのはもうちょい時間かかるか!)」
タツミは舌打ち混じりに刀を振るう。
彼の一撃一撃が必殺であり、実体のない魔物であっても一振りでもって屠っていく。
季節のイベント中だったテーマパークの客入りはとても多い。
突然の化け物の出現にパニック状態になり散り散りに逃げてしまった人々を見つけては助けていくのはタツミをしても骨が折れるものだった。
パニック状態になった人々は生き延びる事に必死で、周りを押しのけて我先にと逃げている。
人混みに飲まれて怪我をする人間、親しい人間とはぐれてしまい声を嗄らながら叫ぶ人間、非現実的な出来事のショックで座り込んでしまい動けなくなった人間。
この光景を放置して自分の目的にのみ集中する事などタツミには出来なかった。
「(辰道なら自分と周りの人間くらいは守れる。なら俺が優先すべきは雑魚の一掃。なるべく早く全部潰す!)」
最初の一撃で塔の入り口から出てこようとしていた魔物たちは一掃されていた。
しかし今、彼がちらりと確認するとまたしても大量の魔物が塔から出てこようとしていた。
次の獲物の元に走りながら、タツミはすかさず塔目がけて火縄銃の引き金を引いた。
二撃目が発射され、またしても轟音がテーマパークに響き渡る。
しかし塔その物を破壊するつもりで放っている砲撃は、出てこようとしている魔物たちこそ一掃したものの塔に傷をつける事が出来ないでいた。
「くそっ! 直接ぶっ壊そうとしたのは今回が初めてだが……やっぱり一筋縄じゃいかないか!」
忌々しげに舌打ちしながら彼はひた走る。
向かってくる狼男を斬り倒し、誰かを襲おうとしている幽霊を光る右手で殴りつける。
当然、そんな事をしていれば目立つだろう。
その鬼気迫る様子に気圧され、積極的に呼び止めようとする人間はいない。
だがしかし命が助かった事でそれないに余裕が出来たのか、携帯やスマフォのカメラや録画機能を使って今の状況を撮影する者が出始める。
その事にタツミは気付いていたものの対処するだけの余裕はなかった。
兜で顔が隠れている事だけが救いだろう。
「(他の連中にも俺の姿は見えてるらしい。あの森の時と同じと見ていい。塔のおどろおどろしさはその時よりもさらに増している。まさかと思うが塔の影響力が増している?)」
普段、ほとんどの人間に認識されない自分の姿がこの状況では認識されている事実に舌打ちする。
彼は目に入る敵を倒し辰道を捜しながら、事態の収拾のための一手を模索し始めた。
「(手っ取り早いのは元凶である塔の排除。しかしそれはさっきから試してるが効果無し。前の森の時は親玉らしき牛と蛇女を倒したら塔は消えた。なら今回も親玉のような存在がいる可能性がある)」
そこまで彼が考えたところで、遠目に見えた建物の上空に巨大なカボチャが出現した。
それは表面をくり抜いて造られたはずの顔で周囲を睥睨するように見回し、直下にある建物を押し潰す。
同時に半身との繋がりにより独特の感覚が、そこに辰道がいると言うことをタツミに教えてくれた。
「なんで気付いた時にはやばい状況にいるんだ、あいつは!」
目立ちすぎる巨大カボチャの元へ駆け出す。
もちろんそこに至るまでの順路で出会った敵は片っ端から片付け、襲われている人間は助けて回ることは忘れずに。




