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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第八章
133/208

情報整理

 日曜日の真昼間。

 窓からさんさんと降り注ぐ日差しを受けながら、辰道はパソコンと向き合っていた。

 彼の後ろには鎧を外したタツミチが覗き込みながら、時々手に持っているお気に入りのチューハイの缶に口を付けている。

 彼らの後ろには白い狼、紆余曲折の末に協力者となった『空井健志』が突っ伏すように横になっている。

 その耳はしっかりとそばだたせており、彼らの話し合いを聞き漏らすつもりはないようだ。

 

「婆さんからもらった情報は一通りまとまったな」

「そうだな。しかしこうして改めてみると……やっぱり面倒なもんだな、瘴気は」

 

 あの場所でミストレインに聞いた内容をまとめながら2人は、今後やらなければならない事を指折り上げながらため息を零した。

 

 

 瘴気とは生物の負の感情が形を持った物。

 こちらの世界では感情の爆発によって、あるいは人の死によって当人の中から噴出する。

 しかし普通の人間には、人間の中から噴き出す瘴気を見る事は出来ない。

 噴出した瘴気は空気のように周囲を漂い、霧散していく。

 しかし近くに生物の存在があった場合、そうとはわからずにそれらの生物へと吸収される。

 吸収された生物の中で本人が持っていた負の感情と混ざり合い、次の噴出の糧となるのだ。

 そのサイクルは瘴気が生まれた遥か昔からずっと続くサイクルであるという。

 

 つまり瘴気とはこの世に生き物が存在する限り、この世から無くなる事がない、生物と切っても切れない関係の物であると言う事だ。

 

 

「これだけだったら、こっちの世界にある目に見えない、それこそ幽霊とか霊感なんかのオカルトな話ってだけで済むんだけどな」

「ほんとうにな」

 

 タツミの呟きに同意しながら辰道は、キーボードを叩き続ける。

 

 

 この世界で生み出された瘴気は霧散するか他者に吸収されるかが基本ではあるが、例外が存在する。

 あまりにも強烈な負の感情によって噴出した濃い瘴気は、稀にあちらの世界へ渡ることがあるのだ。

 辰道とタツミが初めて対面したあの真っ白な世界を通り、そこで幾らかの瘴気は霧散する。

 そこでも尚、残った瘴気はどこからともなく世界を超え、あちら側の世界に到達するのだ。

 

 そしてこちら側では大した力を持たない瘴気だが、あちらの世界では違う。

 人間や魔物に取り憑き、強化し、それが持つ負の感情の赴くままに暴走させるのだ。

 その力が『世界を渡る事で瘴気が変化して身に付く物なのか』、『こちらの世界では発揮されない瘴気その物が持っている性質があちらの世界では発揮される物なのか』、それとも別の要因によるものなのかは定かではない。

 

 ただ世界を渡るケースは不規則な物であり、実際にギルフォードは頻度は短いケースでは一度起きてから数ヶ月、長いケースでは50年と言っていた。

 

「被害はおそらく最小限だった。今までは……」

「それを変えちまったのがあの『塔』ってわけだ」

 

 

 窓の無い塔とはこの世界にいるとある少女が、己に迫った理不尽な死を前に生きたいと強く願い、無意識に使用した魔力によって創り出された建造物。

 本来ならあの白い世界でただ眠り続ける彼女の魂を安置するためだけの存在になるはずだったのだが、世界を渡る途中あるいはその世界で霧散するはずだった瘴気が塔に取り憑いてしまうことで塔はその性質を変化させてしまった。

 

 塔がこちらの世界とあちらの世界を繋ぐトンネルのような役割を果たすようになってしまったのだ。

 その結果、今までにない量の瘴気が一気にあちらの世界へ渡るようになり、瘴気が巻き起こす事件が急激に増えている。

 両世界を密接に繋ぐ塔が出現したことを切っ掛けにして、塔を介してこちらの世界にあちらの世界の存在が出現するというケース(あの剣士やカトブレパスなど)が出始める始末。

 

 

「不幸な偶然、と呼ぶにはあまりに酷く重い連鎖だな」

 

 孫が意図せず引き起こした事が、事の発端になっているという事実に健志は痛ましげに俯く。

 

「まったくですね。だからこそ早いところ塔をどうにかしなければ」

 

 しかし次いで聞こえる力強い言葉に心強さを感じ、人間らしい表情を浮かべる狼はその口元を僅かに緩めた。

 

「とにかく、塔をぶっ壊すってのが俺たちがやるべき事項なわけだな」

 

 やるべき事を声に出して確認するタツミに、辰道は頷いて返す。

 

「基本はそうだ。だが……」

 

 だが同時に懸念事項についても触れた。

 

「ミストレインが言っていた俺たち以外の誰かというのを放置するわけにはいかない」

 

 

 俺たちとは異なる理屈でこの世界に現れた人物。

 瘴気の記憶を吸い出す際に僅かに見えた事だとミストレインは言っていたが、瘴気を介してあちらの世界からこの世界に来ている人物が存在するらしい。

 その目的は不明だが冷静にこの世界を観察している節がある。

 ただしその何者かを取り巻く瘴気は自然発生するような物では決してないだろう濃さの物であり、それを暴走する事無く制御している何者かは一筋縄で行く相手ではないだろうと言われている。

 瘴気から吸い出した記憶は取り憑かれた存在の物も含まれるはずなのだが、この誰かに関しては取り付いた瞬間に取り込んだという事実と、こちらの世界で誰かの身体を奪ったという事実のみしかわからない。

 そこまでしか瘴気の記憶の中には存在しなかったのだとミストレインは言っていた。

 

 

「瘴気に記憶が流れる事がないと言う事は、それだけ完璧に制御してるって事になるんだと思う」

「そんなヤツがこの世界のどっかにいるってのがな。どうやって探すよ?」

「日本中、いや今私たちがいる東京都をくまなく探すだけでも何年掛かるかわからんからな」

 

 手掛かりのない難題に三者三様のため息が零れた。

 

「こいつがどう動くかがわからない以上、現状では注意をしておくという事しか出来ない」

「必要以上に気にしていても出来る事はないからな。悔しい事だが」

 

 眉間の皺を揉み解しながら辰道は次の話題へ移る。

 

「ゲームとあっちの世界との関連性は未だにわからない」

 

 デスクトップ画面に置かれたショートカットを開く。

 いつものゲームの起動画面が表示され、『Now Loading』の文字が映った。

 

「前にログインした時、俺の能力は上がっていた。ゲーム内では使っていないはずのスキルである『運命逆転』のスキルレベルも。そしてそれは今回こっちに戻ってきた際にも適用されている」

 

 ロードが終わり、ゲームのスタート画面が表示される。

 ログインを行うと自分が作ったキャラクターが画面中央に現れる。

 辰道は能力値を確認する為にカーソルを操作し、そして表示された数値ばかりの画面には彼の予想通りの光景が広がっていた。

 

「以前見た時よりもレベルが上がっている。使ったスキルは熟練度が上がり、あっちの世界で初めて使ったスキルが増えている。『運命逆転』なんて他者へ使用する事すらも可能になっている」

 

 あちらの世界での成長がこのゲームに反映されている。

 その事実を改めて認識し、この『The world of the fate(運命の世界)』というゲームがあちらの世界と繋がっている事を確信する。

 

「そのゲームについても調べていくのだな」

「ええ。と言っても俺が何かするというのは今のところ考えていません。あちらの人間としての記憶があるゲーム関係者と接触しているのでそこからの情報待ちですね、今のところ」

 

 辰道とタツミの脳裏に浮かぶのは以前接触した男性の姿。

 

「……こんなところか」

「ああ、そうだな。あっちから戻ってきてすぐに跳ね起きてまとめたんだ。少し休めよ、辰道」

 

 ぐいっと身体を引かれ、パソコンから身体ごと離される。

 

「わかったわかった。……健志さんは何か飲みますか?」

「いや私はいいさ。既に死んでいるから喉も渇かないし、空腹にもならないからね」

「飲み食いできるなら嗜好品の一種として楽しめば良いのでは?」

「いや、やはり遠慮しておこう。生きていた頃を思い出す行為に慣れてしまえば、いずれ生き返りたいなどと思うようになってしまうかもしれないからね」

 

 それが彼なりの線引きなのだろう。

 辰道はそれ以上食い下がる事はなく、自分とタツミ用にコーヒーを入れるためにキッチンへと向かった。

 

 

 指針を改めて定め、もたらされた情報を整理し、彼らは動き出す。

 しかし彼らと時を同じくして『誰か』もこの世界で動き出し始めた事を彼らはまだ知らない。

 

 

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