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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第七章
120/208

光線の正体

 ライコーの考えた作戦は単純な物だ。

 予め召喚獣たちを呼び寄せ、彼女と共に進み、攻撃されたら広範囲攻撃で反撃する。

 

 自身を囮にしてのカウンターである。

 

 歩いていくのは地上にも襲撃者の攻撃が行われるのか確認する意味合いもある。

 ライコーは短時間ならばシルフの力で飛翔する事も可能であり、単独での対応能力はアルカリュードのメンバーで随一。

 生存確率も含めてこの作戦に最も適任と言えた。

 

 確実に攻撃を当てる為に、標的はなるべく絞り込めるようにしたい。

 よって囮はライコー1人。

 

 皆は彼女の身を案じたがライコーは断固として譲らず。

 十数分の話し合いの末にアーリたちが折れ、初手への反撃に失敗したらすぐに逃げる事を条件に彼女を送り出していた。

 

 

 

「ったく心配してくれるのは嬉しいけど、けっこう過保護だよなぁあいつら」

 

 座っているシルフは、ライコーの言葉にニッコリと笑う。

 

「ん? 楽しそうだって? そりゃあな。ヤマトにいた頃はあんな風に心配してくれる人間なんていなかったし」

 

 彼の後ろに付き従うように歩くイフリートは彼女の言葉に悲しげに目を伏せた。

 

 イフリートとシルフ、そしてノーム。

 彼女の召喚獣たちは、ヤマトにいた頃から彼女と共に在った。

 だから彼女があの大陸でどんな目に遭って来たかをよく知っている。

 

 生まれ故郷での差別、そして迫害。

 果ては人間、魔物の両方から命を狙われ続けた。

 

 イエヤスによって大陸の脅威が去り、平和が訪れた事で彼女の周囲もある程度は穏やかになった。

 しかしそれでも辛い事が多すぎた。

 それでも誰かを襲おうとは考えずただ己の身を守る事だけに力を使った優しい少女。

 割り切るという事を覚え、それなりの処世術を見につけた彼女は一か八か自力で作った小さな船で大陸を出た。

 

 辿り着いた場所が種族の坩堝で。

 角を珍しがる者こそいれど、気にする人間など誰もいなかった。

 彼女がその時に受けた衝撃を、イフリートとシルフ、ノームはよく知っている。

 

 だからこそ今、ライコーが屈託無く笑っている姿を彼らは喜んでいる。

 その姿を見せてくれた『アルカリュード』の面々に、切っ掛けを与えてくれたタツミたちに、そしてこの大陸に、彼女の召喚獣たちは感謝していた。

 

「ああ、まったく。こっち来てから楽しいことばっかりで……なんかそのうち罰が当たりそうで怖くなる」

 

 彼女が暗い表情をする時は、決まってヤマトで受けて来た痛ましい記憶が頭を過ぎる時だ。

 『アルカリュード』の誰にも見せた事の無い表情は、まるで別人のように見えるほど。

 

 そんな彼女の肩でシルフはその小さな手でライコーの頬を叩いた。

 

「いたっ……。なにするんだよ?」

 

 威力などないが確かに走る痛みに、彼女は肩の妖精を睨みつける。

 しかし頬を膨らませて精一杯に怒っていると示す彼女の姿に、ライコーの眼力は目に見えて霧散する。

 

「あ~、悪かったよ。辛気臭い顔して……」

 

 ばつが悪そうにシルフから顔を背けながら謝るライコー。

 その彼女の頭を乱暴にイフリートが撫でる。

 髪がぐしゃぐしゃになるが、元々彼女は身嗜みに気を遣うような性格ではない。

 

「なんだよ、急に。ったく」

 

 悪態をつきながらも彼女は撫でられるままだ。

 その態度は温もりに飢えていた彼女の本質の表れと言えた。

 

「っと……歩いた距離的にそろそろアーリが攻撃された辺りだ。油断するなよシルフ、イフリート」

 

 気持ちを切り替え、眼前に広がる白銀の世界を睨みつけるライコー。

 2体は彼女の言葉に頷き、どこから攻撃が来ても対処できるよう周囲を睥睨する。

 

 そして周囲の様子を慎重に探りながら歩いていた為か、彼女は異変に気が付く事が出来た。

 

「っ!?」

 

 足を踏み込んだ瞬間、一瞬己の体に何かが纏わり付くような感覚を覚える。

 

「(何かを潜り抜けた? なるほどな、これ集中してないと気付けない。アーリじゃわからないわけだ。こういう感覚には疎い方だしな、あいつ)」

 

 その場で立ち止まり、周囲を見回す。

 そして彼女は自身に何が起きたのかを理解した。

 

「ああ。つまり、だ。どのくらいの範囲が『そうなのか』はわからねぇけど……」

 

 彼女の正面から例の魔力の砲撃が放たれる。

 予期していた為か、彼女は危なげなくその攻撃を回避し、そしてこの砲撃の謎を告げた。

 

「この攻撃は領域に入りこんだヤツを感知して、自動で狙い撃ちにする仕掛けだったって事か!」

 

 続けて二射目が彼女の頭上から放たれる。

 転がるように避けるライコー。

 召喚していたイフリートが、魔力の発生源に巨大な火の玉を投げつけるが何の効果もなくアーチを描いて空を舞うだけに終わった。

 

「あの攻撃は勝手に周りの魔力が集められてぶっ放されているだけ。『術者なんてどこにもいない』ってのが正解。やべぇ、ぜんぜん的外れな対策しか出来てねぇぞ!?」

 

 ともかく罠が発動するのだろう領域から逃れるべくその場から駆け戻ろうとする。

 しかし逃げようとした方角から彼女の逃走を遮るかのように複数の光線が迫る。

 

「っうお!?」

 

 先ほどまでの罠の砲撃とは段違いの威力に思わず悲鳴を上げる。

 同時にシルフの力で体に纏っていた風が、獣の息遣いがする事を彼女に教えた。

 

「何かいるな! イフリート!! そこだっ!」

「ウォオオオオオオッ!!!」

 

 指し示された方向に炎の渦が差し向けられる。

 周囲の雪を一瞬で溶かしながら進む炎はとぐろを巻く蛇のように、目標をまるごと包み込むように広がり、そして見えない敵を捉える事に成功した。

 

「ブルゥウウ、ウガァアアアっ!!!」

 

 景色に溶け込むように消えていたその姿が悲鳴と共に露わになる。

 

 罠に紛れ込みながら領域に入りこむ愚か者を撃ち殺さんとしていた存在。

 それは牛のような体躯に、爛々と輝く一つ目を持った獣だった。

 

「罠を仕掛けたのがお前なのかどうかは知らねぇが、向かってきた以上はぶっ倒させてもらうぜぇっ!!」

 

 両手の手甲を胸の前で打ち鳴らし、威嚇するように睨みを利かせる。

 姿を暴かれた獣は炎にまかれながらも、その鋭い瞳を睨み返した。

 

「……言葉がわかるかどうか知らないけど一つ教えておいてやる。見た事のねぇ獣様よ。俺が今までやってきたでっかい独り言な。シルフが皆に届けてくれてるんだぜ?」

 

 その言葉の意味を、目の前の獣は理解したのかその一つ目が動揺に揺れ動く。

 同時に頭上から女性にあるまじき雄々しい雄叫びが聞こえてきた。

 

「おおおおおおっ!!」

 

 急降下してきたアーリが両手でしっかり握り込んだ槍を突き出す。

 シルフが声を届けていたお蔭で異常事態を察した彼女がドラードと共に空から駆けつけたのだ。

 

「グルゥオオオオオオっ!?」

 

 横っ腹に突き刺さった一撃に堪らず化け物は悲鳴を上げる。

 化け物は攻撃の衝撃に対抗するべくその場で四つ足を踏ん張り、乱入者であるアーリに視線を向けようと一つ目が蠢かせた。

 しかしそこに追い打ちとばかりに黒い光沢を放つ鞭の一撃が打ち込まれる。

 地上から走って駆けつけたルンによって放たれた鞭だ。

 

「ライコー、無事ね!」

 

 狙い過たずに一つ目を打ち据えながら先行し、シルフを通じて情報を渡し続けた仲間を案じる言葉。

 それが堪らなく嬉しかったライコーは、危機的状況にあるのにも関わらず快活な笑みを浮かべた。

 

「おう! 無事だぜ! でも気をつけろよ、このデカブツはともかく罠の方は誰をどのタイミングで狙うかわからねぇってうわぁ!?」

 

 言葉を言い終わるよりも先に彼女を狙って放たれる罠の一撃。

 ライコーは言葉を悲鳴に切り替えながら地面を転がって攻撃を避ける。

 避けた光線は彼女の背後にあった木々が飲み込んで尚、突き進んでいった。

 

「グルォオオオオオっ!!」

 

 転がるライコーに隙を見出した巨大な雄牛が攻撃を受けて充血したように真っ赤になった瞳から罠と同じ色合いの光線を放つ。

 

「負けるかぁっ! イフリートォオオオオっ!!」

 

 名を呼ばれた瞬間、彼女の背後へと瞬く間に移動したイフリートが突き出した両手から熱線を放つ。

 熱線は光線とぶつかり合い、周囲に拡散しながら相殺する。

 

「うわ、あれそういう攻撃かよ」

 

 拡散した光線の跡を見て、ライコーは顔をしかめた。

 彼女の視線の先には木々が、地面が、尋常ならざる速度で石化していく光景がある。

 

「罠が通り過ぎた跡も同じ有様だぞ。私もあれに当たればああなるところだったわけか。……厄介な」

「当たるどころか掠めるのも拙そうね」

「(石化した箇所から感じ取れる魔力は村の人たちと同じ物です! この牛に似た怪物も、この罠もメデューサと関係あると見て間違いありません!)」

 

 起きた事象をルンの後ろから観察していたカロルの言葉に、アルカリュードの面々の瞳の力が強くなる。

 

「であれば、この獣がなんであれ倒さねばならんか」

「まぁ無関係だったとしてもここまで敵対しているし、倒さずに先に進むのは難しいわよね」

 

 気迫と共に武器を構えるアーリ。

 ルンはため息交じりに、しかし確固たる決意と共に両手に鞭を構える。

 

「(必ずタツミさんの村の人たちを助けて見せる!)」

 

 タツミにもらったリストバンドに無意識に触れながら、カロルはぐっと拳を握り体中の魔力を引き出す。

 

「上等だぜ、化け物牛! 俺たちの強さ見せてやるっ!!!」

 

 堂々たる宣言と共に、化け物に踊りかかるライコー。

 

 それらの姿を遠くから見ていたミストレインは、顎に手を当てながら思案する。

 

「(あれから気配が二つ感じられるな。……さてどうなる事やら)」

 

 何も語らず戦いの様子を見守る彼女の瞳には、超越種たる風格が垣間見えていた。

 

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